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【西日本新聞】沖縄ノート判決 国民の「共通認識」を追認

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沖縄ノート判決 国民の「共通認識」を追認

2008年11月4日 10:43 カテゴリー:コラム > 社説


 歴史に多様な見方があるのは当然であり、そのために史実を絶えず検証することは、歴史認識を誤らせないために欠かせない作業である。

 しかし、多くの体験証言や状況証拠を積み重ね、ほぼ国民の共通認識となっている歴史的事実を見直すには、説得力ある根拠と慎重な判断が要る。

 ましてや、そこに政治的な目的や個人的な利害が入り込めば、歴史をゆがめることになりかねない。

 太平洋戦争末期の沖縄戦で、旧日本軍が住民に集団自決を命じたかどうかが争点となった「沖縄ノート訴訟」控訴審での大阪高裁判決は、言外にそう言っていると受け止めたい。

 この訴訟は、沖縄戦当時に慶良間諸島に駐屯していた元守備隊長らが、旧日本軍の隊長が住民に自決を命じたとした岩波新書「沖縄ノート」などの記述は誤りで名誉を傷つけられたとして、著者の大江健三郎さんと岩波書店に出版差し止めと慰謝料を求めて起こしていた。

 3月の一審大阪地裁判決は「軍が駐屯していなかった所では集団自決が起きていない」「軍の貴重な兵器である手りゅう弾が使用された」などの事実を積み上げて「軍が深くかかわり、守備隊長らの関与は十分に推認できる」と認定し、元隊長らの請求を棄却した。

 元隊長らの直接的な自決命令があったかどうかついては「断定できない」と事実認定を避けたが、沖縄戦の集団自決への「軍の関与」を明確に認める初の司法判断となった。

 大阪高裁の控訴審判決も「軍の深い関与は否定できない」「総体としての軍の強制ないし命令と評価する見解もあり得る」との判断を示し、再び原告らの訴えを退けた。

 「軍の強制や誘導なしには集団自決は起こり得なかった」とする沖縄の人々の事実認識を裏づけると同時に、集団自決をめぐる沖縄戦の実相を冷静に見つめた妥当な判決と評価したい。

 控訴審は二度の口頭弁論だけで結審したが、そのなかで原告側は「昨年の教科書検定を通じて教科書から(軍の)命令や強制が削除されたことは、訴訟の目的の1つを達したと評価できる事件だった」と述べている。

 2005年の提訴によって、それまで高校の歴史教科書にあった沖縄戦の集団自決への「軍の命令」や「軍の強制」の記述が、結果的にあいまいにされたことを成果としているのだ。

 民事訴訟の提起に「政治的目的」があってはならないとは言わない。しかし、集団自決という事実を通して沖縄戦の実相をめぐる「歴史」を争点にした訴訟である。政治的な思惑や見方は排除されるべきだ。

 そうでなければ、事実を冷静に判断し私たち国民が「歴史の教訓」を正しく後世に伝えていくことができない。

=2008/11/04付 西日本新聞朝刊=


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