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八 中国婦女凌辱の歴史事実を正視することの意味

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pipopipo555jp

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中国女性にとっての日中十五年戦争

八 中国婦女凌辱の歴史事実を正視することの意味

前述の『戦争とはなにか』を書いたティンパレーは、『上海時代』の著者松本重治氏とは日中戦争当時、上海で知己の間柄であった。ティンパレーの本の出版をめぐる松本氏との以下の会語は、南京事件とりわけ婦女凌辱問題を日本の戦争学習において教えることの意義を示唆しているように思う。

ティンパレー「これは、よき日本人に対しては、まことに済まぬことながら、ひろく戦争が人間というものを変えてしまうという、悲しむべく、また憎むべきことを世界に周知せしめたいのです。
・・・・・この本はあくまで反戦的編著として受け取ってくれ。」
松本重治「ティンバレー君、私も日本人の端くれである。南京の暴行、虐殺は、全く恥ずかしいことだと思っている。貴著が一時は、反日的宣伝効果をもつだろうが、致し方ない。中国人に対し、また人類に対し、われわれ日本人は深く謝するとともに、君の本をわれわれの反省の糧としたいものだ。」(松本重治『上海時代』下、中公新書、二四九―二五〇頁)。

ティンパレーと松本氏は人類的見地に立って、残虐な戦争行為を直視し反省することが、まさに世界の平和のために必要であることを痛感したのである。
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婦女凌辱をはじめとする日本軍の残虐行為に関して、中国の新聞『漢口大公報』(一九三八年二月一一日付)の社説「敵軍の紀律問題の本質について」が、人類史的視点からわれわれ日本人に対してその歴史事実から目をそらさず、正視することの大切な意味を問うているように思う。そこで、われわれ日本人の今後の研究と教育の課題として受けとめる意味で、それぞれの課題にそってその内容を紹介してみたい(前掲『南京事件資料集(2)中国関係資料編』所収)。

(1)女性差別と民族差別を克服するために

「このたび中国においては、惨殺のほかにさらに普遍的に強姦と略奪がおこなわれている。これは日本の紀律の一歩進んだ破壊であり、日本の前途にとって意義は非常に大きい。九・一八以来、敵軍が東北で婦女を強姦することは、本来、常のことであったが、総じて今回のように普遍的に残酷なことはなかった。南北の広大な占領地で善良な女性を蹂躙することは極点に達している。一つの城鎮が占領されると、逃げ出せない婦女は辱めを受けるのを免れない。もし抵抗するならば、汚辱したのち、さらにこれを惨殺する。幼女で辱められて死にいたるものは数えきれない。多くの地方では、幾百幾十の婦女が拘禁され、終日裸にされて辱めを受けている。・・・・中国の盗匪は婦女の強姦をつよく戒めており、犯すものは仲間に受けいれられない。日本の軍人はなんと盗匪よりはるかに下であり、強姦したのち殺害するにいたっては、さらに残酷卑劣で形容しようがない。敵軍はなぜこうなのだろうか?本質上からも解答を探しだすことができる。なぜなら全世界でもっとも女性を蔑視しているのは日本だからである。そしてこのたび敵軍が中国で
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このような獣行をはたらくのは、主要には自らを征服者と思い、中国人を人とみなしていないからである。」

日本軍の婦女凌辱行為は当時の日本社会における女性への性差別と無関係ではないことを私も指摘したが、日本近代社会におけるいわゆる「からゆきさん」の歴史、公娼制度、従軍慰安掃制度などの事例を関連させて、女性の人権を考えるための適切な素材であると考えられる。また、中国人に対する民族差別と残虐行為の関連を考えさせる重要な素材になることは、すでに述べた。

(2)日本の軍隊の特質と軍国主義精神の本質を理解するために

「これらの凶行、獣行については、兵士をとがめることはできず、長官をとがめなければならない。なぜなら殺人・淫行・略奪はみな将校が唱導したのだから、どうして兵士を取り締まれようか。各地の報告は、すべて敵軍の将校が同様に婦女を汚辱したと述べている。・・・・このたびのことは日本の少壮軍官の精神が徹底的に破産し、権威を失ったことを証明しているのである。あのように国内で飛揚・跋扈し、日本を改造し世界を征服すると標樗していた少壮派の軍官は、本来、このように無紀律で非人道的で、淫にして貧な一群だったという本質があばきだされたのである。」
「また私たちは、いろいろな方法を講じて、善良な日本人民にかれらの軍隊がどのような恥ずべき凶行を行っているかを知らせ、日本人民がみずから恥じいるようにさせなければならない。」

(3)日本が日中戦争に敗北し、中国が抗日戦争に勝利した道徳的な意味を理解するために

「私たち国民は、日本の軍閥の必敗をみとおし、さらにその抗敵の決心を固めなければならな
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い。同時に中国が勝利をうる道はさらに自己の道徳を振興することであるということを自党しなければならない。かれの暴にわれは仁をもって対し、かれの残虐にわれは義侠をもって対する。このようにしてのち、おのずと日本軍閥を打倒できるのである。」

(4)人間の尊厳を回復するための克服すべき教訓として

「このたぴの南京などでの殺戮・強姦は、人類の歴史の恥ずべく悲しむべき一頁である。日本軍閥の本質は、本来、無限の侵略であり、その侵賂の手段はこのような淫行・殺害・放火・略奪である。全世界の白人およぴ一般の有色人種は、これが人類の共同の大敵であることを認定し、ただちに全世界の精神を動員し、公論の権威をもって日本の善良な人民を目ざめさせ、残虐な軍閥をして制裁を受けさせなければならない。」

上の社説は当時中国が反ファシズムの戦いにおいて、その精神からして先駆的な立場にあったことをうかがわせる格調の高いものである。もはや私が屋上屋を重ねる必要もないと思うので繰り返さないが、我々が真に人類的・世界的な立場にたった時、婦女凌辱問題が、平和問題そして人権問題を考えるためにも大切な課題となることが容易に理解されよう。


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