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四 女子学生の驚きと怒り

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中国女性にとっての日中十五年戦争

四 女子学生の驚きと怒り

日本のテレビや映画、雑誌、あるいは平和のための戦争展などで「女性の戦争体験」「女性と戦争」という企画がたてられた場合、従来は日本人女性の戦争体験のみに関心をもって「息子や夫を戦争で奪われた母や妻の悲しみ」「空襲や食糧難、生活難に苦しめられ、破壊された家族生活」「戦争で犠牲にされた青春」等々、「戦争の被害者としての女性」「戦争下の辛酸を味わされた女性」という視点から戦争の悲劇が語られることが多かった。

戦争は戦場だけでなく銃後においても国民に耐えがたい犠牲を強いるものであり、それが社会的に
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弱い立場にある女性に集中するものであるから、日本女性の被害体験を通して、戦争の悲惨さを語り伝えることはもちろん大切なことである。問題なのは、従来、中国の少女・帰人、さらには朝鮮やアジア・太平洋地域の女性たちの悲惨な戦争被害に思いをはせる視点が欠落していたことである。そのため、学生の感想にもあるように、従来の戦争学習では日本の女性は被害者としての半分の側面しか教えられず、もう半分の加害者としての側面を知らされずにいることになる。とりわけ本稿で詳述するように、日本兵が他国の女性を凌辱した事実、言い換えれば、本来戦闘とは無関係なはずの性の蹂躙を受けた被占領地・植民地の女性の歴史を知らされていない。

高校の日本史教科書で、南京大虐殺を記述するものが多くなってきているのは、家永教科書検定訴訟の一つの成果であり、また歴史研究も進展してきている結果の反映であるが、残念ながら日中戦争における日本軍の婦女凌辱の問題を記述したものは従来の教科書では一つもなかった。理由ははっきりしている。文部省の教科書検定によって、そうした記述を削除するよう強制してきたからである。

今年(一九九三年)中に判決が予定されている家永教科書裁判(第三次訴訟控訴審)で、私自身が原告側の証人として東京高等裁判所において証言を行ったことがあるが(一九九一年四月二二日)、昭和五八年度の改訂検定のさい、家永三郎氏の『新日本史』(三省堂)の原稿本に「日本軍将兵のなかには中国婦人をはずかしめたりするものが少なくなかった」「日本軍はいたるところで・・・・婦人をはずかしめるものなど、中国人の生命・貞操・財産などにはかりしれないほど多大な損害をあたえた」と記述したのを、「婦人をはずかしめ」と「貞操」の箇所の記述の削除を強制されたのである(詳細は『世界に知られていた南京大虐殺――笠原十九司証人「意見書」――』教科書検定訴訟を支援する全国連絡会を参照されたい)。
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日中十五年戦争史の授業のなかで中国婦女の凌辱問題を取り上げることが大切なのは、その事実を初めて知った(知らされた)という女子学生の反応が真剣なものであったことからもわかる。先に感想文を紹介した年度とは異なる東洋史概説の講義で、南京事件における日本兵の強姦問題をとりあげて話した時に、何人かの女子学生が次のような感想を寄せてくれた。

◇今日の授業では、強姦のことが多く出てきたが、老人である女性にもその被害が及んだというのは、やはり戦争のような無秩序状態になると人の精神をも破壊させるものだなあと、痛々しく思った。
女として、強姦された人の話を聞くのは、男性以上に耐えがたいことだった。強姦されたうえに殺された女性、妻が強姦されるのを黙って見ているしかなかった夫、こんなことが二度と起こらないためにも、もっと真剣に南京事件を見つめる必要があると思う。(T・T)

◇虐殺だけでもひどすぎることなのに、女性、子ども、老人までも全くためらいすら感じずに殺しているのを知り、絶句の思いがしました。特に、強姦については、女性を殺してしまうなんて、心身をぼろぼろにした上、殺すなんてひどすぎます。(K・C)

◇人の命を命とも思わない行為に、今日はずーっと怒りの思いで聞いていた。同じ女性として、朝鮮や中国の女性の怒りや悲しみがわかるような気がする。また戦争が始まると、もしかして私の周りにいる男性が同じ行為をするかもしれないと考えると、「ゾッ」とした。(K・T)

◇女性や子どもなど戦争に実際関わりをもっていないような人まで殺されて、同じ日本人とし
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て、とてもいやな気分である。今でも中国人が日本人のことを軽蔑の目で見るのは当然のことだと思う。また、同じ女性として、日本軍の憂さ晴らしとしての強姦は、絶対に許せないことだと思う。(Y・N)

◇日本へ帰れば、同じような年齢の娘や妻もいたであろうに、戦争というものは人の心をそこまですさませてしまうのだろうか。(Y・K)

右のような女子学生の怒りは、同じ女性として、日本兵に性を蹂躙された中国女性の痛みと悲しみ、そして悲劇に対して共感を覚えるところから発せられている。男子学生には見られなかった強姦に対するこうした真剣な怒りの気持ちは大切にしたい。

日中十五年戦争下に、日本軍兵士の多くが中国の広い地域において、多数の中国女性を辱め、そして殺害した。その意味で、中国女性にとって日中十五年戦争は、性を蹂躙される危険に晒されつづけた時代であり、また実際に膨大な数の女性がその犠牲になった時代であった。


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