中国女性にとっての日中十五年戦争
ニ 生涯を犠牲にされた中国女性
数年前、北京郊外の小さい農村に調査に入り、年老いた農民から語を聞いていた時に「名前は言えないが、近くに日本兵に強姦されて子どもが産めない身体になってしまった人がいる」とささやくように言われたことがある。日本兵に凌辱された傷を身体に残しながら、戦後を生きてきたその婦人の半生を考えると、私は深い悲しみにおそわれ、その場にいたたまれない気持ちになった。
翌年、天津郊外の小農村に入って聞き取り調査をしていた時も、ある古老から「日本軍はよくこの村に来て鶏や牛を盗んでいった。それに村の女性を強姦した。その女性はまだ生きている」と言われたことがある。その女性も日本軍に汚辱された拭いようのない過去をひきずって半生を生きてきた一人である。
昨年（一九九三年）、北京で開催された「近百年中日関係史国際学術討論会」で親しくなった一人の中国人研究者は、自分が育った湖南省長沙の近くには、日本軍の慰安所があり、少年だった自分は中
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国人女性が従軍慰安婦にされていたのをよく覚えている、と語っていた。
中国を訪問してこうした体験をするにつけ、私は、柳条湖事件、中国でいう「九・一八事変」に始まる日中十五年戦争は、中国女性にとっては日本兵に性を蹂躙された受難の時代でもあったという事実を思い知らされたのである。そして、日本人はこうした性の凌辱という中国女性への加害の歴史を、正視しようとせず、むしろ避けてきたことを深刻に反省すべきではないかとの思いを強くしたのである。
