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高知新聞社説2008年3月29日

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高知新聞社説2008年3月29日


【集団自決判決】歴史の深さ検定にも

2008年03月29日08時47分

 太平洋戦争末期の沖縄戦に関する岩波新書「沖縄ノート」などの記述をめぐる訴訟の判決で、大阪地裁は「慶良間諸島での住民集団自決に軍が深く関与したのは認められる」として、作家、大江健三郎さんらの記述は誤りとする当時の守備隊長らの訴えを退けた。

 表現の自由にも配慮した妥当な判決と言えるが、判決は教科書検定の在り方にも一石を投じる。昨年三月の高校日本史教科書検定では、この訴訟を理由の一つに「日本軍による強制」という記述の削除・修正を求める意見が付いたからだ。

 今回の判決とて史実論争では一つの結論にすぎない。その奥深さを思うと、確定判決も出ていない段階で特定の結論を押し付ける検定制度は見直すべきだ。

 元守備隊長らが岩波書店と大江さんに出版差し止めと損害賠償を求めたこの裁判には、集団自決と日本軍の関係、元守備隊長らの自決命令の有無という二つの争点があった。

 前者について判決は、兵士が自決用の手りゅう弾を配ったとする住民証言、集団自決があったすべての場所に日本軍が駐屯していた―などを根拠に軍関与を認定した。「集団自決は国、日本軍、現地の軍を貫くタテの構造の力で強制された」とする大江さんの主張に沿った形だ。

 自決命令については「認定するのはためらいを禁じ得ない」として明確な判断は避けたが、大江さんも公判では守備隊長の命令はあったとは書いていない、と述べている。「日本軍の指揮官の命令で住民が集団自決した」とする記述は誤りとする原告とは、認識が食い違っている。

 この裁判は沖縄戦をめぐる史実論争に波紋を広げたが、見逃せないのは教科書検定に与えた影響だ。

 裁判が始まった二〇〇五年ごろまでは「軍の強制」を明記した教科書は検定に合格していた。軍の命令も集団自決の一因だったとの認識に学界でもほぼ異論がなかったことをうかがわせる。

 しかし、昨春の検定では日本軍が強制したとの記述に修正を求める意見が付いた。方針転換について文部科学省は今回の訴訟を論拠の一つに挙げたが、沖縄県民から強い抗議を受けると、「関与」は認める方向に軌道修正した。

 史実には多面性があり、新事実の発掘によりその様相が変わることもある。根拠もあいまいなまま特定の方向に誘導するような検定制度は、歴史学習にふさわしくない。



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