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第4・5(6) 沖縄戦に関する文部科学省の立場等

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沖縄集団自決訴訟裁判大阪地裁判決
事実及び理由
第4 当裁判所の判断
第4・5 争点4および5(真実性及び真実相当性)について

第4・5(6) 沖縄戦に関する文部科学省の立場等


証拠(甲B54 ,58, 乙31, 75及ぴ76の各1ないし3, 77ないし92, 93の1及び2, 94ないし96並ぴに98ないし100)によれぱ,沖縄戦についての教科書の記載や教科書検定等について,次の事が認められる。




ア (集団自決に対する一般的な見解)


(ア)(家永三郎による改訂検定申請)*


家永三郎は,昭和55年度教科書検定において検定済みであった高校日本史用教科書「新日本史jに,沖縄戦に関して,
「沖縄県は地上戦の戦場となり,約十六万もの多数の県民老若男女が戦火のなかで非業の死に追いやられた。」
と記述していたが,この記述を,昭和58年度改訂検定の際,
「沖縄県は地上戦の戦場となり,約十六万もの多数の県民老若男女が戦火のなかで非業の死をとげたが,そのなかには日本軍のために殺された人も少なくなかった。」
と改めるための改訂検定申請をした。

これに対し,当時の文部大臣は,沖縄戦における沖縄県民の犠性については,沖縄戦の記述の一環として,県民が犠牲になったことの全貌が客観的に理解できるようにするため,もっとも多くの犠牲者を生じさせた集団自決のことを書き加える必要があるとした上で,そのような記述がない家永三郎の前記申請に係る記述は「全体の扱いは調和がとれており,特定の事項を特別に強調し過ぎているところはないこと」という検定基準に抵触するとの検定意見を付した。

家永三郎は,文部省の修正の求めに応じ,最終的に,
「沖縄県は地上戦の戦場となり,約十六万もの多数の県民老若男女が,砲爆撃にたおれたり,集団自決に追いやられたりするなど,非業の死をとげたが,なかには日本軍のために殺された人びとも少なくなかった。」
との記述に修正した。

(イ)(教科書検定第3次訴訟の最高裁判決)*


その後,家永三郎は,国に対し,昭和59年,教科書の記述の修正を強制されたことを理由として,損害賠償を求める訴訟を提起した(家永教科書検定第3次訴訟第1審)。この訴訟は最高裁まで争われ,その最高裁判決(最高裁平成9年8月29日大法廷判決・民集51巻7号2921頁)は,沖縄戦について,原審(東京高裁平成5年10月20日判決・判例時報1473号3頁)の認定した事実として,昭和58年度改訂検定
「当時の学界では,沖縄戦は住民を全面的に巻き込んだ戦闘であって,軍人の犠牲を上回る多大の住民犠牲を出したが,沖縄戦において死亡した沖縄県民の中には,日本軍よりスパイの嫌疑をかけられて処刑された者,日本軍あるいは日本軍将兵によって避難壕から追い出され攻撃軍の砲撃にさらされて死亡した者,日本軍の命令によりあるいは追い詰められた戦況の中で集団自決に追いやられた者がそれぞれ多数に上ることについてはおおむね異論がなく,その数については諸説あって必ずしも定説があるとはいえないが,多数の県民が戦闘に巻き込まれて死亡したほか,県民を守るぺき立場にあった日本軍によって多数の県民が死に追いやられたこと,多数の県民が集団による自決によって死亡したことが沖縄戦の特徴的な事象として指摘できるとするのが一般的な見解であり,また,集団自決の原因については,集団的狂気,極端な皇民化教育,日本軍の存在とその誘導,守備隊の隊長命令,鬼畜米英への恐怖心,軍の住民に対する防諜対策,沖縄の共同体の在り方など様カな要因が指摘され,戦闘員の煩累を絶つための崇高な犠牲的精神によるものと美化するのは当たらないとするのが一般的であった」
と指摘し,
「右事実に照らすと,本件検定当時の学界においては,地上戦が行われた沖縄では他の日本本土における戦争被害とは異なった態様の住民の被害があったが,その中には交戦に巻き込まれたことによる直接的な被害のほかに,日本軍によつて多数の県民が死に追いやられ。また,集団自決によって多数の県民が死亡したという特異な事象があり,これをもって沖縄戦の大きな特徴とするのが一般的な見解であったということができる。」

「本件検定当時の学界の一般的な見解も日本軍による住民殺害と集団自決とは異なる特徴的事象としてとらえていたことは明らかである。」
と判示した(当裁判所に顕著な事実である。)。


イ(文部科学省見解)*


(ア)(平成18年度教科書検定)*


文部科学省は,平成17年度教科書検定においては,沖縄戦の集団自決に関する記述について検定意見を付さなかったが,平成19年3月30日,平成18年度教科書検定において,7冊の申請教科書に対し,沖縄戦の集団自決に関する記述について,日本軍による自決命令や強要が通説となっているが,近年の状況を踏まえると命令があったか明らかではない旨の検定意見を付した。その結果,例えば,「山川出版社日本史A」の
「島の南部では両軍の死闘に巻き込まれて住民多数が死んだが,日本軍によって壕を追い出され,あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった。」
との記載が
「島の南部では両軍の死闘に巻き込まれて住民多数が死んだが,その中には日本軍によって壕を追い出されたり,自決した住民もいた。」
と改められた。なお,壕からの住民追出し,住民に対する手榴弾の配布,スパイ容疑での住民殺害などに対する軍の関与については,検定意見は付されなかった。


(イ)(銭谷初等中等局長と伊吹文科大臣の国会発言)*


銭谷眞美文部科学省初等中等教育局長(以下「銭谷初等中等教育局長」という。)は,平成19年4月11日,衆議院文部科学委員会において,座間味島及ぴ渡嘉敷島の集団自決について,日本軍の隊長が住民に対し自決命令を出したとするのが従来の通説であった,前記検定意見は,この通説について当時の関係者から色々な供述,意見が出ていることを踏まえて,軍の命令の有無についてはいずれとも断定できないとの趣旨で付したものであり,日本軍の関与を否定するものではない旨の発言をした。

また,伊吹文明文部科学大臣は,同日,前記委員会において,前記検定意見について,日本軍の強制があった部分もあるかもしれない,当然あったかもしれない,なかったとは言っていない,日本軍の強制がなかったという記述をするよう要求するものではない旨発言した。


(ウ)(布村審議官の国会発言)*


布村幸彦文部科学省大臣官房審議官(以下「布村審議官」という。)は,同月24日の決算行政監視委員会第一分科会において,座間味島及ぴ渡嘉敷島の集団自決について,日本軍の隊長が住民に対し自決命令を出したとするのが通説であった旨発言した。


(エ)(銭谷初等中等局長の国会発言2)*


銭谷初等中等教育局長は,翌25日の教育再生特別委員会においても,前記(イ)と同様の発言をした。

(オ)(布村審議官の発言)*


平成18年度教科書検定については,座間味村議会,渡嘉敷村議会,沖縄県議会などが,文部科学省に対し,前記イ(ア)の検定意見の撤回を求める意見書を提出し,このことが報道されたこともあり,集団自決に関する論争が起こった。

これに対し,布村審議官は,同年6月13日,軍の関与,責任は確かにある,検定意見の撤回は困難である旨述べた。

平成18年度教科書検定をめぐる問題については,本訴口頭弁諭終結時においては,結論が出ていない状況である。



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