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「「沖縄戦」から未来へ向って(太田良博氏へのお答え)(3)」

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「「沖縄戦」から未来へ向って」(曽野綾子・沖縄タイムス)(3)


ジャーナリストか

太田氏のジャーナリズムに対する態度には、私などには想像もできない甘さがある。

太田氏は連載の第三回目で、「新聞社が責任をもって証言者を集める以上、直接体験者でない者の伝聞証拠などを採用するはずがない」と書いている。

もしこの文章が、家庭の主婦の書いたものであったら、私は許すであろう。しかし太田氏はジャーナリズムの出身ではないか。そして日本人として、ベトナム戦争、中国報道にいささかでも関心を持ち続けていれば、新聞社の集めた「直接体験者の証言」なるものの中にはどれほど不正確なものがあったかをつい昨日のことのように思いだせるはずだ、また、極く最近では、朝日新聞社が中国大陸で日本軍が毒ガスを使った証拠写真だ、というものを掲載したが、それは直接体験者の売り込みだという触れ込みだったにもかかわらず、おおかたの戦争体験者はその写真を一目見ただけで、こんなに高く立ち上る煙が毒ガスであるわけがなく、こんなに開けた地形でしかもこちらがこれから渡河して攻撃する場合に前方に毒ガスなど使うわけがない、と言った。そして間もなく朝日自身がこれは間違いだったということを承認した例がある。いやしくもジャーナリズムにかかわる人が、新聞は間違えないものだとなどという、素人のたわごとのようなことを言うべきではない。 

赤松氏庇う理由ない

太田氏によると、古波蔵村長は直接体験者だというが、自決命令に関してもし古波蔵氏自身が証言したとしたら、それはやはり伝聞証拠なのである。なぜなら、古波蔵氏自身は、赤松大尉から自決命令を直接聞く立場にいなかった、とあの当時私に強調した。古波蔵氏は自決命令はあくまで安里巡査が伝えてくるべきものだったと言い、私もその立場を納得した。そして安里巡査は自決命令が出されたことを否認した、というのがその経緯である。

太田氏は、「『赤松証言』に曽野綾子氏は重点を置いている」と言うが、私は赤松氏とは、ほかの人ほど接触しなかった。こういう場合の当事者が何をいっても弁解だということになることは目に見えているから、私はむしろエネルギーを省きたかったのである。はっきりしておきたいのは、私が赤松氏をかばう理由は何もないということだ。私は赤松氏の親類でもない。取材の時に一度訪問したことはあるが、それ以来遺族との交渉もない。

むしろそういう意味で、太田氏こそ、この人のことは信用できる。この人のことは信用できない、という感情的な決めつけ方をしている。それは次のようである。

「この命令説の真相を知っていると思われる人物が二人いる。一人は、赤松氏の副官である知念少尉であり、一人は赤松氏と住民の間に立って連絡係の役をつとめた駐在巡査の安里喜順氏である。この二人とも、『ある神話の背景』の中で真相を語っているとはおもえない。知念は赤松と共犯者の立場にあり、安里は自決命令を伝えたなどとは言い難いので『自決命令』を否定するほうが有利なのである」

「真相」を知る二人が二人とも否定していても、なお事実は違うのだ、と言いきることが妥当かどうかは別として、太田氏のこの言葉を私は一応受け入れよう。しかしそれなら、私は改めて太田氏に問わねばならない。 

知念少尉の証言

太田氏は『鉄の暴風』の中で、前述の知念氏について次のように書いたのだ。

「日本軍が降伏してから解ったことだが、彼らが西山A高地に陣地を移した翌二十七日、地下壕内において将校会議を開いたが、そのとき赤松大尉は『持久戦は必至である。軍としては最後の一兵まで戦いたい、まず非戦闘員をいさぎよく自決させ、われわれ軍人は島に残った凡ゆる食糧を確保して、持久態勢をととのえ、上陸軍と一戦を交えねばならぬ。事態はこの島に住むすべての人間の死を要求している』ということを主張した。これを聞いた副官の知念少尉(沖縄出身)は悲憤のあまり慟哭し、軍籍にある身を痛嘆した」

太田氏にとって知念副官という人物は、どちらの顔がほんとうだったのか。しかし太田氏はご丁寧にも、『鉄の暴風』は決してうそではないのだ、と次のように今回の反論の中でも強調する。

「住民の自決をうながした自決前日の将校会議についての『鉄の暴風』の記述を曽野氏はまったくの虚構としてしりぞけている。(中略)が、あの場面は、決して私が想像で書いたものではなく、渡嘉敷島の生き残りの証言をそのまま記録したにすぎない」

つまり知念副官が赤松隊長の残虐さに慟哭したという場面も伝聞証拠ではないというなら、知念氏の内面の苦悩を書いた場面は特に知念氏自身から聞いて書いたのだろうと思うのだが、その知念氏が「真相を語っているとは思えない」と太田氏は自らいう。太田氏という人は分裂症なのだろうか。


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