秘密


お互い荒い息をして、火照った体をして。
普段からは想像もできない態度。
先刻まで処女だった所為か、そんな為かはわからないが、
奈緒子の膣は絶頂を迎えても上田のモノを
しっかりと咥えたままだ。
それに反応してさっき精液を出したばかりの自慢の巨根は
直ぐに硬さと勢いを取り戻す。
「あ・・・」
さっきの行為が再びされることを予感したのか、
わずかに内壁がモノを締め付ける。
「・・・you、その、なんだ、さっき初めてしたばっかりなのに
 こんなこと要求するのは少し酷かもしれないんだが、
 騎乗位というやつをやりたいんだが・・・」
「なんで洗剤つかうんですか」
「それはジョイだ。騎乗位っていうのはな、
 女が上に乗るんだよ」
「上に乗ったらできないじゃないですか」
駄目だ。山田にそういう知識がないのは
火を見るより明らかだったのに、馬鹿なことをしてしまった。
「・・・つまりな、こうだ」
論より証拠だ。
繋がったまま、奈緒子の体を無理やり上にもっていく。



「う、あ!!」
ただでさえ大きい代物が嫌がおうにも全部入ってしまうので
奈緒子が思わずのけぞった。
膣の締まりも良くなる。
「わかったか?」
「い・・・きなり、やらないでくださいよ!ただでさえ
 息できなくなりそうなのに!」
「youの場合、行うが安しだからな」
「何でメガネ探さなきゃいけないんだ?」
「それは横山やすしだ。まったく、
 こんなときでさえ、俺たちはこうなのか・・・」
「・・・そうじゃなきゃいいんですか?」
「え?」
奈緒子が深く口付けた。



何度もしただけあって、奈緒子のディープキスも
一応それらしくはなってきている。
濡れた音をさせて、唇が離れた。
「どうすればいいんですか?」
上田はいきなりのことに驚いて半分口が開いたままだ。
ついさっきまで処女で、ディープキスも知らなかったのが、
こうも艶っぽくと言うか、色っぽくと言うか、なるものなのだろうか。
俺の知ってる、貧乳で、貧乏暮らしの
色気も何もないあの山田奈緒子は何処に行ったんだ。
「どうって、どういう」
「私何も知らないから、教えてもらわないとできませんよ」
「・・・」
知識の点で上のはずの俺が飲まれてどうするんだ。
だが・・・。



「・・・山田」
「はい?」
おかしい。今日の彼女は絶対に変だ。
一回したことで、興奮していた頭から血が抜けて、
妙に回転が良くなる。色っぽいとかそれ以前の問題で、
今までこんな風になることは一度だってなかったのに。
俺だって山田だって、別に肉体関係を求めていたわけじゃない。
いきなり、何故?
ふと、不安に似た感覚が上田の頭によぎる。
何故だろう、なんだろう、この嫌な感じは。
「上田さん?」
突然、目の前の奈緒子が遠くなった気がした。
思わず手を伸ばし、腕をつかむ。
「・・・どうしたんですか?」
山田がきょとんとして尋ねる。
「え・・・あ、いや。そう、どうすればいいかだったな」
上田は腕から手を放し、奈緒子の腰をしっかりと両手で押さえる。
「別に何もしなくていい。俺がやるだけだからな」
我ながら変なことを考える。男女の中になったって
俺は俺だし、山田は山田だ。
何を不安になることがあるというんだ。
奈緒子を突き上げ始める。先程よりも深い交わりに
艶っぽい声を上げて白い裸体が仰け反った。
馬鹿げている。こんなに近くにいるのに、
何故遠い気などするんだ。
しかし行為に集中しても、その嫌な感覚は
ついに消えなかった。
―――数ヵ月後、上田はその感覚の正体を知ることになる。



結局そのあとバックからもやって、
上田は都合3回射精した。
さすがに二人とも疲れて、そのまま上田が
後ろから抱きすくめるようにして寝ていた。
「おい、you、起きてるか」
返事はない。静かに息をする音だけが聞こえる。
暗い室内で奈緒子の体だけが、白い。
上田にとっては、その方が良かった。
もし山田が起きていても、今は面と向かって口に出してうまく言える自信がない。
奈緒子の背中に話し掛ける。
「あの島で渡した紙に書いたことだがな、
 youは冗談だと思っているようだが、俺は・・・その、本気だ。
 こんなことやった後でなんだがな。
 ・・・その、あれだ・・・結婚をさ、しないか。
 ・・・これじゃあんまり熱意が伝わらないか・・・。
 ジュブゼーム・・・じゃあ、また冗談だと思われるから・・・
 ・・・ああくそ!こういう時どういやいいんだよ!!」
上田はがしがしと頭を掻く。
「・・・何やってるんだ俺は。さびしい独り言なんて、
 似合わん!寝る!」
自分で独り言をいっていたくせに何故かはぶてて
上田は不貞寝した。



寝息を立て始めてしばらくした後、上田の腕から、
そっと奈緒子は抜け出した。
先程まではあんなに熱かった体が、
今はなんだか無性に寒い。
髪を耳にかけて、上田が起きない様に顔を近づける。
出会ってから顔をあわせることが多かったから気付かなかったが、
上田も少し老けた。40近いのだから当たり前といえば当たり前だ。
結婚したいというのも当然の願望かもしれない。
寝ている上田のぼさぼさ頭にそっと触る。
 ・・・何も知らずに、馬鹿みたいに寝て。まるで子供じゃないか。
我知らず笑みがこぼれる。
それが呑気な上田を笑っているのか、
はたまた力があるのに運命を変えられない自分を笑っているのかは分からない。
「・・・ごめんなさい上田さん、私結婚できないんです。
 最後の日に、せめて彼女っぽいことやってみたいな、なんて・・・。
 だからなるべく色っぽくと思ったんだけど、結局いつもの調子になっちゃったし。
 今日のは完璧に私の我儘だったんです。・・・すまん。
 ・・・他にいい女見つけろよ。上田」
上田の頬を優しくなでた手品師の手は、名残惜しそうにもう一撫でして離れた。

その日から、山田奈緒子の姿を見たものはいない。

最終更新:2006年09月12日 20:29