湯あたり by 267さん



知らず知らず冷や汗が出てくる。
どうする。
あからさまに俺が
山田を襲おうとしているとしか思えない光景だ。
言い訳をしようと口を開きかけたとき、
山田がまた目をつぶった。
「へ」
 ・・・こいつ、また寝やがった。
のぼせて頭が朦朧としているのだろう。とはいえ
バスタオル一枚しかかかっていない状況で、
男を前にしてよくもまぁ・・・。
不意に笑いがこみ上げてきた。
「・・・だめかこりゃ」
暑くないように薄い布団を一枚体にかけてやって、
俺はソファーで寝ることにした。



目が覚めると、見慣れない天井があった。
 ・・・なんだろ、体がスースーする・・・。
自分が裸だということがわかって、
慌ててベッドから飛び起きた。
バスタオルと布団をかき寄せて考える。
え、な、何で裸!?たしか
風呂に入っていたまでの記憶はある。
ふと横を見ると、団扇が転がっていた。
ということは、私はのぼせたということか・・・。
 ・・・ちょっと待て?ならなぜ私はベッドで寝ていた?
 ・・・・・・。
突然、とてつもなく恥ずかしいことが起きたのだと分かった。
上田に裸を見られた!?なんて事をしたんだ私は!
いや、裸を見たのは上田だから私はなにもしてな・・・そうじゃなくて!!
寝てる間に変なことをされたんじゃ・・・。
うわああああ、今日はなんだか調子が変だぞ奈緒子!
あれ、そういえば上田はどこだ?



とりあえず風呂場で服に着替えようと居間を通り抜けようとしたとき、
「起きたのか」
といきなり上田の声がして
危うく布団とバスタオルを落としかけてしまった。
見ると、ソファーに呑気にも寝転がっている。
「ちょ、人がお風呂に入ってるときに何勝手やってるんですか!?」
「君がのぼせてたから出してやったんじゃないか!」
「にしても裸・・・!」
「なにもしてないんだ、見たって減るもんじゃないだろ!」
「そういう問題じゃ・・・」
え?なにもしてない?



ふん、あからさまに安心している。
「・・・ほんとに?」
「ああそうとも」
茶化してやろうと思ったが、やめた。
薄い布団とバスタオルだけの山田は、
言っちゃあなんだが、結構そそるものがある。
だが、山田はまだそんな心の準備できてやしない。
「・・・ほれ、さっさと寝ろ。
 とっとと服着てな」



そう言った上田の顔が、妙に寂しそうに見えて、
なんとなく心に引っかかる。
「・・・なんでそんな顔するんですか」
「ん?どんな顔だ?」
自分の顔が見えないって、
こういうとき説明するのに不便だ。
私にはさっきの上田の表情に見覚えがある。
死んだ父。或いは母がする顔だ。
大人が子供を見るときの目。
「・・・まるで子ども扱いじゃないですか」
少し驚いた様だったが、すぐにいつもみたいに
鼻で笑う。



「もう寝ろ」
まったく、男心が分からない奴だ。
せっかく人が抑えてやってるってのに。
山田はそんなことを露知らず、
俺の目の前まであの格好でのこのこ歩いてきた。
子ども扱いされたのを怒っているのだ。
「さっきはキスしたくせに」
「まるで手を出してほしかったみたいな口調だな」
山田はむっとして言葉に詰まったようだが、
小さくつぶやいた。
「・・・だって好きなら触るくらいしたいでしょ普通」
「さっき泣いたじゃないか」
気まずい空気だ。
 ・・・無理なことを言えば大人しくなるか。
「じゃあ抱きついてみろよ」



俺は無理だろうと思っていた。
何より山田は今、間にいくつか布があるだけの裸だ。
外見が大人の女でも、中身は
まだまだ色気のいの字も知らない奴だ。

妙な気分だ。
からかわれている。
だが嫌な気分はしない。
多分大人として試されているからだろう。
私は布団とバスタオルをずり落ちないように抑えながら、
上田に抱きついてみた。
肌が触れ合うのが妙にこそばゆい。

気がつけば、俺はベッドに山田を組み敷いていた。


最終更新:2006年09月08日 09:23