ルームメイト脱却




手を突っ込んで、ビニール製の袋を受け取ろうとして
手は柔らかな感触を感じた。だから握った。

むにゅ。


「ちょ、何処触ってるんですか!!」
!?

慌てて手を離す。感触がじんわり手に残っていた。生々しく
何処を触ったんだ。俺の手。何を触った!?マイハンド!!

腕か!?む、胸か!?真逆、太もも?




「もう・・・こっちです」

手首が掴まれる。汗を掻いたのか風呂に入ってる所為なのか
じんわりと温かい手。細い手。

「はい、掴んでください」

ビニールのつるつるとした感触を確かめて握る
そのまま手を引いてリンスの詰め替えパックを取り出した。


落ち着け。




渡されたビニールは湿っていたものの何度か試して切り口から袋を開けた。

「ほら」
後ろを向いて渡しては、中身を零してしまうので
今度はドアに向かい合って手を差し込む。
磨りガラスにうっすらと山田のシルエットが浮かんでいる。
つい、さっき見た裸を思い出して意味もなく目をそらす

「あ、有難う御座います」
「じゃ、じゃあ行くからなッ」
「どうぞ」




それから数分後。

「出たぞ」
石鹸の匂い、とでもいうべきか 清潔そうな匂いが
ふっとその場に立ちこめた。
なのに俺は先ほど風呂に入ったというのに汗を掻いている。
100%こいつの所為である。
同居させるんじゃなかった。こんな事なら。
でももう遅い、そして追い出すにも もう夜も遅い。

夜も遅い。
 ・・・・いや何を考えてるんだ俺は




山田が冷蔵庫を開けた。
「あーもう牛乳ないじゃないですか!」
「youが勝手に飲んだんだろ!俺の分!」
はっ、そうだ最初はこれを怒る為に俺は浴室に向かったのだ
もう少しで本来の目的を忘れる為だった。
「だいたい君は俺がわざわざ住ませてやってるのに
 遠慮というものを知れ!あとルールもだ」
「何言ってるんですか!上田さんのものは私のものです!」
 ・・・それは山田のものは俺のものだという事だろうか。
「youのものは?」
「私のものです」
「お前はジャイ○ンか!」
「あーあー、牛乳飲みたかったのに」
「全く」
「明日買いにいかないと。」




ぴく。 ・・・当たり前か。一緒に暮らしてるのだから
 何度も 何度も自分で繰り返していたフレーズをまた繰り返す。

当たり前だ。一緒に暮らしているのだから。
明日も来る。追い出してもどうせまた帰ってくる
(だって奴は家がない。しかも多分長野に帰る旅費もない。
 俺がバイト代を毎月、生活費として徴収しているからだ。バイト代が元々安いから全然足りないが。)
という事は矢張り明日も此処に居るのだ。俺と暮らす。
そして彼女の中では明日買い物に行くのだ。俺と。(そして多分車に乗って)

「上田さん?」




「上田さん?」

「おーい、上田」
山田の声がやんわりと何処からか聞こえる。

そうか、当たり前だよな。暮らして

「おい上田!」

不意にその声が至近距離で聞こえた気がして顔を上げた


「ッ!」
顔がすぐ此処。顔のすぐそば。
彼女が俺をを覗き込んでいた





もう 限界だ と 思った。





顔が近い。近すぎる。
覗き込まれていて至近距離。
座っている今の状態から少しでも腰を浮かせれば唇はくっつくであろう。
もっと浮かせれば、額がぶつかる。

「うえだ?」


ただ一緒に暮らすだけではこんな事は絶対ない。
なんとなくぼんやりそう思った。






そして


そして


腰を浮かせて

「・・・――ッ!」


最終更新:2006年09月05日 13:16