石原の憂鬱4


「 はむ、…うう、――んっ、ん… 」
飲み込むのをためらっとるのか、唾液と体液が入り混じって、綺麗な顔を汚していく。頭とモノが繋がったみたいに、ぼおっとして、
自分が何をされとるんかも分らん位に痺れて気持ちがいい。
もう掛かると痒うなる前髪を掻き上げる余裕すらも無ぉて、汗が流れるままに乱れてゆく。

「 ――ん、んっ?! 」

襟の隙間から両手を差し込んで、ブラの上からちいさい胸を揉みしだく。掴む先から弾力の在る肉は零れて、
揉むたびに嬌声は熱を帯びて、口内から顔から、味わっとる全てが火照る。
布越しでも、はっきり乳首が浮き立ってくるんが解る。そこを突付くと、また、甘い声を零す。耳から伝わる快感に、眼が眩む。
ピリピリ太股が震えて、白濁液が根元まで一気に、込み上げてくる――

「 だ、…駄目だ、出そうじゃ――く…っ… 」
此処のところずっと女気が無く、久々に色香に中てらりゃあ当然、我慢は利く筈も無く、ビクッ、と、大きく震えて、山田の口内へ
どくどくと精液を注ぎこんだ。


「 ――ん…ぐ、」

ティッシュか何かを取り出そうとして、口内へ出されたモノを含んだまま、山田が慌てる。漸く見つかった足元のティッシュに手を伸ばそうとするんを、
先に拾い上げて、後部座席へぽいと放り捨てる。山田の顔が、泣きそうに引き攣って、こっちを睨む。

「 飲むんじゃ。――遠足はお家帰るまでが遠足。フェラは、精液飲むまでがフェラじゃ。」
「 ふぁい… 」
泣きそうな顔の侭、ごくりと音を立てて、口の中のモンを全て喉へ流し込む。――直ぐに、一層眉を顰めて何度もゴホゴホと色気無く咳き込むものの、
自らの出したものを飲ませた征服感が、背中を駆けた――。

「 ――生、臭い――苦い、喉が、焼ける… 」
「 ……唾のめ。少しは、マシんなるぞ。 」
「 飲み物を寄越せ、…アイスティーが飲みたい。500mlのだ! 」
「 おォ、何でも、遣るけぇ――待たんかい。…ちぃと、疲れた。 」

――この女は、どうやらわしのくされた感情の介入を許さん。いっぺん降りようともせず、後部座席へ身を乗り出して、「にゃっ!」だのといなげな声を上げる。

「 イテテ…おい、石原、くっさ…後ろ、くっさぁ… 」
「 そりゃわしの匂いじゃ無いけぇの、レンタカー屋に文句言え!あ、後、そのティッシュ持ちいのうとすんなよ。」
懐へ無理やり仕舞おうとする仕草を見逃さんとぉに指摘すると、チッ、と舌打ちが聞こえてきた。
まるで、なぁんも無かった様に、山田は明るい。其れが、物凄くわしには口惜しかった。


後部座席からもっぺん戻ってきて、助手席へ座る。山田は口の周りを忙しゅう拭きもって、こっちをちらちらと伺いよる。

「 何じゃ。早ぅ、コンビ二行けってか。もうちぃと休ませ――」
「 …良かったか?」
「 ――ん?何?」
「 良かったかって聞いてんだ! 」
ゴツッ、と額へ目掛けて手刀が飛んできた。

「 ありが――……だぁっ、違う。……き、気持ちよかったかって、聞いてんのんか?」
「 それ以外に何を聞くんだ!匂いの元か!足の匂いがしたぞ!嗅げ、お前も―― 」
「 誰が嗅ぐか! ――き、気持ちようなかったら射精せんわ、ボケ」

「 そうか。じゃあ、奥義を伝授してもらったご褒美だ!眼を瞑って歯を食いしばれーー!! 」
「 な。何じゃぁ!何で殴られんといかんのじゃ!?…くそ、男は度胸、来いやァ!! 」

――眼を瞑って、歯を食いしばって、でも――頬にはなんも痛みは無ぅて、只、柔らかい感触が在って、そして、直ぐに其れは無ぅなった。

「 じゃあな。紅茶はまたの機会に奢らせてやる。ここから私の家は近いんだ! 」
山田が、少し扉の鉤を開けるのんに苦戦した後、ひらひら掌を振りながら、住宅街の明かりの見えるほうへ、帰っていった。
わしは、仁侠映画の受け売りの、演じた言葉でしか、アイツと向き合えはしない。気付いてしまった感情は、姿が見えなくなった頃に、胸を焦がす。

「 ――クソ、好きに、なっちまった。」
ハンドルにうつ伏せて、願わくばこの鼓動が早く消えますように、と、叶わん願いを馳せた。
最終更新:2006年09月04日 02:20