シングルベッド3


「 山田。気絶か?まったく根性の無い。」「 おい起きろ。まだオレはイッていないんだ。ベストをつくせ!」
「 ダメだ、すっかり気を失っている。遣りすぎたか。」「 こりゃ明日の調査は望めないな…。」

――上田の胸の下で、果てた。
上田自身は私のナカにいまだ居座り、ダイレクトに血流をどくどくと伝えてくる。
私は突き放す気力もなく、グッタリと弛緩した。

「 YOU、おい、山田奈緒子、しっかりしろ。」

「 うう、一体、なんのつもりだ…処女、かえせ… 」

「 おうっ。」

「 もう上田さんになんか協力しません…世田谷のオカマなんかさくっと無視して帰ってやる!」

ぐすぐすとみっともなく、引き寄せたブラウスで顔を拭う。

「 悪かった。 」

上田の真剣な声が、胸につまる。
大きな腕が、抱き締めてきた。この手は、腕はいつだって、私の身心をがんじがらめにしてしまう。
「 ――お化けがそんなに怖いですか。…ホテトルでも呼べば良いじゃなかったですか。」
息を大きく吸い込んで一気に吐き出した言葉は、甘い余韻にまだすこし震えている。


「 誰でもいい訳じゃない、YOUの―― 」
「 ―私、好きなんです、」

「 え 」

「 上田さんが」
「 だから、あまり期待させないで 」

嗚呼、涙がまた。
嗚呼、触れられた黒髪を切ってしまいたい。

---------- 続く -----------



この声はとても卑怯だ、と常々思っていた。そして今も思っている。
低く、錆を含んでなおかつ甘い声には、それだけで殺される思いだ。

――コレはトリックだ。
でなかったらここに縫い付けられ、玩具にされ続ける事等無いはずなんだ。

「 どうして、上田さんが、怒ってるんです 」

痛いほど抱きしめられて、ゴツゴツと角張った上田の骨が当る部分がきりきりと軋む。
何故か私を叱責した唇が、優しく、肌蹴た肌に触れていく。首筋に、胸に――それでいてどうして、唇には触れてくれない。
赤鬼みたいな真っ赤な顔で俯いたまま、私の目を見据えては呉れない。
私の黒髪を時々指で梳いて、頻りに胸元へ顔を埋める。

響く水音が恥ずかしくて、耳を塞ごうとする腕をがっちりと捉えられる。
大きな容積が胎内を穿っては抜かれ、悉く毒を以って侵食していく。
ぬるぬると体液同士が混ざり合い、潤滑剤の役目を果たして、もう私の入り口は痛まない。
その代わりに貪欲な熱を帯びて震えている。行き来される度に、吐息が漏れて、
考えた台詞が考えた先から霧散してゆく。

喘いでも喘いでも、懇願しても上田は止まってくれない。触れ合った肉体がどうしようもなく熱くて、朦朧と夢の様なのに、
唾を嚥下しても癒されないカラカラの喉の痛みが、確かに現実だと思わせる。


「 山田 ―――― 」

上田の顔が歪んで、――破裂音を伴って私の理性が裂かれる。白い閃光が、辺りを包む。
気を失う瞬間、上田が何か言った気がした。



「 ハッ。大方それはYOUの欲求不満が生み出した幻覚だ。YOUは昨日の夜人の奢りでビールジョッキとカルビの皿を山ほど重ねて、
それからホテルについたなり一人でベッドを占領し、寝た。それはもう聞くに堪えない鼾と寝言を伴ってな!
お陰で視ろ!このオレの隈を!! 」

次郎号をゆさゆさ揺らして、『世田谷の母』のおわすビルへ向かう道程、延々と上田は喋っている。
確かに、目覚めてみれば、ホテルについて水彩画の裏の御札の話題に触れた辺りから記憶は曖昧だ。
確認をしてみたが、お札は破れてさえいなかった。
ただほんの少し、位置が変わっていたのだが、寝相が寝相だから蹴ってしまったとか。言及しないことにした。

「 …うーん。…でも凄くリアルだったんですよ。本当に、本当ですか? 」
「 だからオレは貧乳はお断りだと前々から言っているだろう、この馬鹿め 」
「 ば、馬鹿って何ですか。だいたいシングルベットってところがそもそも誤解を生むんですよっ! 」

「 にゃっ! 」
次郎号が急停車して、運転手は暫く驚いたような顔でこっちを見詰める。それから、何だか少し紅くなって
ふん、とだけ言った。

上田はその日しきりにポケットの中で何かの紙をくしゃくしゃやっていたのだが、どうやらスーツのズボンと
一緒にガムの包み紙を洗ってしまったらしい。
まったく、粗忽者だ。







---------- 終了。ここまで読んでくれた方、乙&GJ -----------
最終更新:2006年09月04日 10:13