毛蟹 (リレー作品)


不意の珍入者があったものの、山田はまだしとどに濡れていたそこに
毛蟹という名のバイブローターをゆっくりとあてがう。
「……っ…んっ…」
上田が間近で見ているという羞恥心が何故かより身体の芯を熱くさせる。
「くふぅっ…」
まだスイッチを入れて無いのに、山田はその感触と上田の刺すような視線に耐え切れず、思わず足を閉じてしまうが、それはより自らを追い立てる。
「それじゃよく見えない、you…足開けよ」
上田の低く、少し怒りさえ滲ませる口調に山田は弱々しくも反論する。
「…そんな鼻息荒くされて、怯まない人は居ませんよ…」
とは言え、山田も少しは自分があまりにも扇情的な格好だとは分かっている。しかし自分が『見せる』と言った手前、ゆっくりとしかし少しだけ足を開いた。
「…さっきよりも濡れてきたな…見られて感じるタイプか、you」
「違いますよっ…この変態教授がっ…!」
「ふ、ならyouはその上をゆくド変態じゃねえか。入れただけで何もしてないのに、どんどんあふ」
「実況っ…するなぁっ…!」
山田は怒りより恥ずかしくて、つい力んだ手が滑りスイッチが最強に入ってしまった。
途端にそれは激しく暴れ、山田を犯していく。
「!!…っきゃうぅっ…!」
あまりに急激に襲ってきた強い刺激に、痛みとは違う涙すら零れる。またさっきより身体が熱くなるのがはっきり分かった。
一方でまじまじと観察していた上田もまた、自身の熱い昂りを感じていた。
「くっ、山田のクセに…なんという媚態を…」



∽∽∽∽∽

上田は、この上無い熱い昂揚を感じていた。目の前に見知った女性が、しかも自分が心惹かれている奈緒子がしている行為に目が離せ無い。固唾を飲んで、ただその場から動け無かった。
「…――ひ、あ…っ…!」
やがて奈緒子は天を仰ぐと、そのまま小さく震え、その場にぐにゃりと崩れた。
同時にゴトリと奈緒子の秘部からピンクの毛蟹――ローターが落ち、まだ低いモーター音が響いている。
最初に見てるだけと約束はしたものの、そのまま肩で息をするだけの奈緒子を放ってもおけずにそろそろと近付く。
「……おい、you―」
上田は次の言葉を飲んだ。長い髪の間から覗いた奈緒子の潤んだ瞳が、うっすらと開いたやけに赤い唇が、上田の理性を揺らがせる。「…うにゃー…」
そして奈緒子が上田の肩に寄り掛かって来た時、完全に上田の理性は吹き飛んでいた。
「うおおー!」
アパート中に上田の咆哮が響き渡る。
「ベストを尽くせー!」「!?上田っ!離せー!解けー、にゃー!」
叫びながらもがいている奈緒子に構わず、素早くシーツを使って簀巻きにしていく。
そこからの上田の行動は素早かった。
簀巻きの奈緒子を抱え、少々乱暴に愛車の後部座席に放り込む。もちろん、奈緒子の部屋にあった毛蟹の箱とその中身も忘れずに。


「上田っ!これは立派な拉致だ、分かってんのか?」
速攻で上田のマンションに連れてこられ、簀巻きのままベッドに投げ出された奈緒子は、そう言うのが精一杯だった。
さすがにこの状況では、自分の貞操が危ない。
「そんな事分かってるさ」
と、服を脱ぎながらもさっきまでとは逆に
実に穏やかな口調で上田は言葉を続ける。
「あの場で流されてするのは嫌だったからな…過ちは嫌いだ」
そうは言ったところで、この状況のがよっぽど犯罪だろうと言う奈緒子の内心のツッコミを余所に、あっと言う間に上田は全て脱ぎ終えていた。ただし眼鏡は着けたままで。
「…なんで眼鏡外さないんだ」
上田はベッドに片膝を乗せたまま、奈緒子に囁いた。
「youの全部が見たい。…ダメか?」
全裸に眼鏡のその格好が間抜けだからだと言いたかったが、上田のあまりにもストレートな物言いに奈緒子は反論する事が出来なくなった。
「…さっきも見たじゃん」
俯いて独り言のように小さく呟くのが精一杯で。
上田はするすると奈緒子のシーツを解いていくと、シーツと同じような奈緒子の陶器のような肌をした裸に目を奪われた。
さっきまでの自慰行為の余韻を残し、白いだけでなく僅かにピンク色がさしている。
(連れて来る際に暴れたせいもあるかと思われる)
「なんか言え、上田」
奈緒子の言葉にはっとし、上田はやっと自分が今まで見惚れてた事に気付く。
多分時間はそれほどでも無いのだろうが、奈緒子の方が恥ずかしくていたたまれなかったのだろう。
ぐいと上田の頭を掴み、乱暴に自分の顔に引き寄せた。
―ガチ、と言う音とともに上田の口に痛みが走る。
「いたた…」
奈緒子は真っ赤な顔で口を押さえ、唖然とする上田に矢継ぎ早に捲し立てた。
「す、するなら早く始めたらいいじゃないか!さっきまで私にさせておいて、また今度もこんなとこ連れ込んだクセに見てるだけで何もしないなんて、なんて…」
一通り話した後でううーと唸り、「ベストを尽くせと言ったのはどいつだ!」と、上田に背中を向けてしまった。



沈黙が流れた。
上田は奈緒子の流れるような黒髪にそっと触れ、指先は優しく顔をなぞっていく。
「…すまん。俺だって、その…実践は初めてだから、youにどうしたらいいかいろいろ考えてだな…」
言い訳がましい上田の言葉を遮るように、奈緒子は上田の手に触れる。
「…考え過ぎなんです」「…?」
「そこで引かれても困るんです。…第一、本気で嫌なら最初にもっと泣いて暴れて…その前にあんな事っ、見せたり…その…何が言いたいかと言うと…」
今度ばかりは上田も理解したのか、まだもごもごと口ごもる奈緒子の唇を塞ぐ。
「すまん」
唇が離れると、二人柔らかく微笑み合った。
―――が。
「それはつまり、この天才日本科学技術大学教授上田次郎の好きにしてもいいと言う事なんだな?」
都合のいい誇大解釈もいいところだった。呆れて何も言い返せない奈緒子を余所に、上田は一人自分を奮い立たせるように饒舌になる。
「案ずるな、you。この日の為にずっと鍛練してきたんだ。今まで体験した事が無いようなめくるめく喜びを体験させてやろうじゃないか」
呆れてぽかんとした奈緒子の唇に指をかけ、上田は再び口付ける。
そのままぬるりと侵入してきた舌の感触に奈緒子は驚き、つい口を閉じかけたが、がっちり顎を押さえられた上田の手によってそれもままならない。
口腔内を縦横に動き回る舌に呼吸をするのを忘れて、やっと上田が唇を離した時には息も絶え絶えだった。
しかし上田はそんな奈緒子をキスにうっとりしたと思い込んだらしく、にんまりと満足気な笑みを浮かべている。
「…あっ」
顎を押さえていた上田の手が耳からうなじに滑ると、奈緒子はピクンと小さく震えた。
ゆっくりと上田の顔が近付いて、首筋をくちづけていく。
思わず肌が粟立つが、決して嫌悪のそれではなく、むしろ口付けられていく毎に感じる自分に気付かされていく。

最終更新:2007年05月06日 23:56