星が降る by ◆QKZh6v4e9wさん

13-16



「…ちょっと待て。落ち着け、上田」
山田はトランクを降ろし、俺の手をひっぱった。導かれるままソファに腰をおろした俺はそわそわと指を組んだ。
「よく考えたら、噂も下火になった事だし、youが出て行く必要はないんじゃないかと思ったんだ」
「何ですか、それ」
立ったままの山田は顔をしかめた。
「もともとはお前が出てけって」
「そうだよ。だが」
俺は指に力を入れながら何度も何度も組み直した。
「真に受ける馬鹿がどこにいる」
「………」
「俺が本気で行き場のない貧乏で貧乳の奇術師を追い出すような、器の小さい男だと君は」
「追い出そうとしたじゃないか、現に」
山田はきゅっと下唇を噛み締めた。
「明日電話すれば完了ですよ。やっかい払いできて嬉しいでしょう、上田さん」
「…完了?ああ、そうだな。だが…」
「元通り、次郎号と二人きりのロンリーでスライムな生活が待ってるんですよ。おめでとうございます」

覚えてたんだな、you。

「不動産屋には」
俺の喉は、絞り出すように声を出した。
「俺が電話しておく。この話は断るんだ」
「……何言ってんのかわかってんのか、上田?」

わかっているつもりなんだがな。
今ひとつ自信がない。

俺は首をまわして彼女の顔をじっと見あげた。
「今、youがいなくなると──俺にも行き場がないんだよ」
山田の頬に血がのぼった。
「今日見たあのアパートは前のとは違うし、それに…」
俺は組んでいた指をはずし、自分の横の座面を撫でた。
「座らないか」
「……」
「頼む。す、座ってくれ」
心臓が喉から飛び出しそうだった。
俯いた山田が小さな声で言った。
「頼んでるんですか?」
「そ、そうだ」
「お願いですか?」
「……ん」
「寂しいって認めるんですね」
「……」
「でも…」
「…?」
「座ったら…その…そ、それだけじゃないんでしょ」
「そ、そ、その通りだ」
「いやです」
山田の片手が俺の肩を押した。いつの間にか俺の手は山田の肘を掴んでいた。
「ここじゃいや」
山田はまっかな顔で俺の耳に囁いた。
「上田さんの部屋に入れてください」


 *

「え」

俺はその時どんな顔をしたのかわからない。
おそらく固まっただけかもしれないが、問題は心臓だった。
飛び出すどころの騒ぎではなく、本当に止まるかと思ったのだ。
俺は一世一代の決心で──キスをするつもりだった。
山田に近づいてみたかった。だから、傍に座らせて、抱き締めて。
なのに山田は、俺の部屋に…寝室だろう、話の流れからすると……そこに連れて行けと言う。
それって──。

抱けって事か。

自分がどんな顔をしているのか掴めないまま凝視している俺を彼女がさっと見下ろした。
反応の鈍さに怪訝そうだったが、やがてまっかな顔がますます染まり、大きな目が急に潤んだ。

「あっ」

ばっと山田は俺の手を払いのけた。
「ご、ごめんなさい。訂正! 今の間違い。違います」
とんでもない勘違いに気付いたらしい。俺はむやみに咳払いしたいのを堪えて呟いた。
「いや。別に…入れるくらいは…いいけどな」
「ここでいいです」
山田は急いで俺の隣に座り、発作的な仕草でクッションを掴んでぎゅうと顔を埋めた。
「…っ…うわあ…!!」
「恥ずかしがってろ。馬鹿め」
「紛らわしい事言うからですよ!上田さんが!」
山田はクッションを投げ捨て、俺を睨んだ。まっかだから全然怖くない。
「し、真剣な顔してるから。そ、それでもって肘とか掴むからっ」

「普通、そこまで飛び越えて解釈するとは思わないじゃないか」
俺は口早に叱った。
「youは処女だろう。なんでそういうはしたない勘違いをするんだ」
「だって……」
山田の動きが止まった。
潤んだような目がぴたりと視線をあわせて離れない。
「だって、私は」
山田の唇は震えて、風のような吐息を漏らした。
肘に山田の指が絡んでいる事に俺は気付いた。
これがキスに最適な距離である事にも。
仰向いて動きをとめた彼女の顔。
今しかない。

「上──」

触れた唇はやっぱり震えていた。
軽くつむいだ線は俺の唇をしっとりと受け止めた。
押し付けると、肘を掴んだ彼女の指に力が入った。
逃げ出すための根回しなどという正当な理由なく山田にキスしたのは初めてだった。
俺は顔を離して息をつぎ、やむにやまれない衝動のまま、改めて押し付けた。
重心をずらし、山田の指をほどいてその躯に腕を廻した。
温かくて艶かしい唇の感触。




近すぎる顔をまた離す。
目を半ば閉じて、俺は山田を見た。
山田もうっすらと目を見開いて俺を見た。
もう一度唇を押し当てた。
触れるだけのキスのたびにみずみずしい唇がかたちを変える。
柔らかい。温かい。
……気持ちいい。

溜め息を漏らし、彼女の躯をひき寄せて俺は飽かずに唇を重ねた。
重心がさらに山田に凭れ掛かる。
ふっくらとした唇を確認したくて俺は軽く口を開いた。
ついばむように唇を挟み、彼女についた自分の唾液を軽く吸いとる。
ちゅっ、ちゅっ、と甘い音が響く。その音に興奮した。
彼女の唇の、濡れた面積が広くなる。我慢できなくて舌をのばした。
舐めてしまうとおしまいだった。
俺は山田を押し倒した。

 *

──言ってる事とやってる事が全然違う。
そう叱られるんじゃないかと頭のどこかでちらりと思った。

俺の掌や指が、彼女の腰の曲線やくびれを辿っている。
着古したジャージに包まれた線は驚くほど細くて柔らかかった。
「上、田」
肉を確かめるようにやわやわと摘むと、山田はびくんと腕を震わせた。
腿の曲線に沿って指を滑らせる、俺の吐息が彼女の首の付け根に大量にあたる。
「山田」
「あっ…」
あまりにも滑らかなので寄せた顔が張り付きそうな耳朶の下の首筋を吸うと、山田は小さく身もだえた。
ウエストを俺の掌で支えられ、圧し潰されているから動けない。
彼女を食べているような気がした。

俺がいつもの俺ではない事に山田は気付かざるを得なかっただろう。
仕方がない。俺は天才物理学者である前に男なのだ。
その証拠に例のモノがすっかり勃起している。
……我ながら、でかいな。
あまり考えないようにしたいが、遠慮なく山田の腰に当たっているので意識せざるを得ない。
「you」
俺は彼女の唇や顎や頬や首筋だけじゃなく、ほかのところにまで唇を押し当てはじめた。
邪魔なトレーナーを押し上げ、頭や細い腕から抜く。
乱れた長くて甘い匂いの髪を撫で付ける。
息は荒い。だんだんブレーキが利かなくなってきているのがわかる。
掌が、指がせわしなく山田の躯をまさぐっている。
見覚えのあるブラの肩ひもをずらし、ホックを指で外した。
自分の熱に彼女を巻き込みたくて、でもそれがまだ少し恥ずかしかった。

……だめですよ、ここじゃ、と。
いつか山田が言うんじゃないかと。

こんな見境のない男と初めての夜を過ごすのかと山田が思わなければいいのだが。
彼女の肩に掌を置き、腕から胸に滑らせる。
ささやかな肉を揉みしだく。山田は俺の躯の重みに耐えている。
俺の掌は大きいから小さな乳房は全部入ってしまう。
力の強弱で白い肌の陰影が歪み続け、小さいなりにきちんと膨らんでいる事がわかる。




山田の不安そうな上気した顔が随分幼く見え、俺はいけない事をしているような気分になった。
でも彼女の瞳は潤んでいる。
愛撫されて漏れる声も吐息も腰や太腿の曲線も存分に艶かしい。
表情とのアンバランスさが少しやばい。
…そういう気は、ないはずなんだがな、俺。
指先から伝わる温かさと柔らかさ。揉むと大きくなるって、そういえば。
よし、山田。俺が大きくしてやるぞ。

彼女が何か言いたそうに頭上で喘いだ。
俺は顔をさっとあげた。
掌の開閉速度が遅くなると、彼女は目を開けて俺を見た。
「……い、痛いです。上田さん」

揉み過ぎたらしい。
「…ふっ…」
俺は狼狽を隠すために意味もなく微笑を漏らし、がばっと上半身を起こした。
パジャマのボタンを外しさり、勢いよく脱いだ。
勢いだ。もうあとは勢いしかない。
考える時間があるから細かい事が気になるのだ。これはきっとそういうものだ。

俺はまた山田の躯を擦り始めた。掠れるような声で彼女が言う。
「く、くすぐったい」
「そうか」
密着した胸板をこすりつけ、片手を間にすべらせて俺はまた乳房を揉み始めた。
「あん、あ、…上田っ」
山田は赤くなって身をよじる。
「しつこいですよ」
「当然だろうが!」
俺は耳元で怒鳴った。
「触りたかったんだ、ずっと」

開き直った者勝ちだ。
現に俺は淫らな気持ちで一杯だ。
山田の躯は綺麗すぎる。

「でも、でも上田は──」
彼女は喘ぎながら涙声で囁いた。
「上田さんは、いつも、ひ、ひんにゅうって」
「youが心底厭そうな顔するのが面白かったんだよ。それだけだ」
「このサドッ」
「ふん、処女め」
「な、なにをっ……こ、この童貞っ……あ、あーーーーーーーっ!?」
俺は腿を這っていた指をぐいと引き戻し、下着の中に滑り込ませた。
茂みの中に指先をいれると、行き着く先は谷間しかない。

「深いな…」
指を這わせ、構造や感触を確かめた。
「んあ…あ」
「痛いか」
「ん、ん…ああ」
「大丈夫みたいだな」
なめらかなぬめり、蕩けそうな襞の動き。
俺はもう片方の掌を山田の尻に沿わせ、ジャージごと小さな下着を引き摺り下ろした。
細い足首を次々にひきぬき、要らなくなった服をソファの下へと放り出す。
空いた手で、無防備な乳房を握りしめた。
「やん、あん、あん、あ…あんん」


最終更新:2006年11月17日 22:26