私の本命 by 243 さん

予告


超天才美人マジシャンの私・山田奈緒子は、今恋をしている。
その相手は…矢部さん。

今まで色々あったけど、やっぱり好き。
結構いい人だし、鬘を必死に隠してるの可愛いし。
手錠かけられそうになった時とか、手を握られるといつもドキドキしちゃってた。
エヘヘヘ♪

…まぁそのことは置いといて、実は悩んでいることがある。
上田さんが、私のことを好きになってしまったらしい。

バレバレだけど気付いてない振りしといてやるからな、上田。

でも、このままでいいんだろうか?
もし私が矢部さんと恋人になったら。
上田が私に好きだと言ったら。
…どうなるんだ?私たちの関係は。



1


私は恋をしている。相手は矢部さん。
誰にも言ってないし、たぶん誰にも気付かれていないはず。
…でもひとつ、困ったことが。
上田さんに告白された。紙に書かれて、そのうえ叫ばれた。
そりゃ、嬉しいとは思った。上田さんのこと…大好きだし。
でも、恋じゃないから。
大好きだから離れたくない、だけど恋人ではいられない。

私の気持ちは、誰も知らない。
だから、上田さんの告白をはぐらかして。
矢部さんへの気持ちを閉じ込めて。
前と変わらないままでいようって、私は決めた。


「…犯人はお前だっ!」
「思った通りだ」
「よし、逮捕や~!」

今日もインチキ霊能力者のトリックを見破ってやった。
矢部さんが少しでもほめてくれたら嬉しいのに。
今日も言い合いになったり、逮捕されそうになったり…

矢部さんに触れられた右手首をじっと見つめた。
いつか手を繋いで歩けたら、なんて似合わないこと考えながら。

「…何してるんだ」

頭の上から降ってくる声。
確かめる迄もない、上田次郎だ。
振り返り、やたらでかい上田さんを見上げて右手を差し出した。

「上田さん、今日の謝礼は家賃2ヵ月分で手を打ちましょう!」
「高級ホテルのスイート宿泊、もちろん夕食つき。家賃とホテル、どちらかひとつだ!」
「…はっ?高級ホテル?」

あまりにも唐突な選択肢。
なんで私と上田さんがホテルに?
…まて、ホテルってまさか、そういうつもり…だったり…

「なに変な顔してるんだ?事件解決のお礼にってな、タダで泊まれるそうだ。
 矢部さんと菊池さんも今夜はそこに泊まるらしい」



高級。夕食。そして矢部さん?
家賃は惜しいけど、こんな日は滅多に無いだろう。

数分後、私と上田さんはホテルの一室を訪れていた。

「YOU,ふかふかベッドが嬉しいからといってはしゃがないように。
 それからオートロックだから鍵を置いて外に出ないように」
「子供扱いしないでください!」

上田さんは慣れた様子でゆったりとソファに腰掛けている。
私はといえば、どこまで土足で入っていいのかとまごついて…
いや!部屋の装飾をながめていただけだ!えへへへへ。

「…へぇ、なかなかいい部屋ですね」

今まで泊まったことのある宿なんかとは違い、高級感のある綺麗で広い部屋。
私は部屋中の扉を開けては閉めて回った。
満足してベッドに腰掛けると、ふとあることに気付く。

「あれ?ベッドがひとつしかないですよ」
「…ベッドをいくつ使う気だ?ここはYOUの部屋、俺の部屋は隣だ」
「あぁ…一人部屋なんて珍しいですね」
「ぃ、一緒に寝たいのか?」


こらこら、噛むな。何緊張してるんだ上田。
上田は落ち着こうとしたのかひとつ息をつき、眼鏡を直した。
こっちが焦って突っ込むタイミングを失ったせいで、妙な間ができている。

「…えっと…そう、夕食は何時からですか?」
「あ、あぁ、7時だ。あと2時間だな」
「そ、そうですか、楽しみです」

2時間か。夕食までどうしようかなぁ。
矢部さんに会いに行く理由でも考えて…

「YOU」
「は…い?」

ベッドの軋む感触で顔をあげると、いつの間にか上田さんが隣に座っている。

最終更新:2006年09月07日 17:29