pink marriage blue by ◆QKZh6v4e9w さん

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上田が入ると奈緒子はとろけるような呻きを漏らした。
すんなりした脚が彼の腰に巻かれる。腕が、彼女の躯が彼を受け入れてからみつく。
「上田さん」
初めて抱いた時の彼女の反応を思い出す。
恥ずかしがって我慢してて痛々しくて、こんな甘い声は出せなかった頃の奈緒子の姿を思い出す。
「奈緒子」
「あん、あ、…………上田さん…」
上田のものが標準よりも大きいから余計に苦労をかけたと思う。
でも奈緒子は、だからといって行為そのものを厭がった事はない。
愛されていると上田は思う。
声だけではなくて、奈緒子が感じているのがわかる。
興奮しきった上田のものを、興奮しきった彼女の蜜と肉がうねってしめつけて、限界目指して煽りたてていく。
その熱を制御する事など考えられないし、ためらう理由もなにもない。
幸せだ、と思う。

いつまでこうして二人で抱き合っていられるのだろう。
生涯一緒にいられるとして、奈緒子はいつまで抱かせてくれるだろうか。
いつかそれにも倦んで、顔を見る事もいやになる日は来るだろうか。
奈緒子が感じれば感じるほど、甘い声をあげればあげるほど、その日が来るのが怖くなる。

 *

満足した後の気怠さのせいかもしれない。
「なあ」
腕の中でくたりと丸まっている彼女に囁いた。
「──俺のどこを好きになったんだ。youは」
奈緒子が身じろぎして白い顔をあげた。目尻に上気が残って色っぽい。
「…どうしたの」
声は不思議そうだった。上田は咳払いした。
「参考までに聞いておきたいと思ってな。…才能か?容姿か財力か人格か。それとも……その、コレか」
「何言ってんですか。バカ上田」
奈緒子はまたくたりと、頬を上田の胸につけた。
「重要な事なんだよ」
上田の声に何か感じたらしく、奈緒子はまた少し顔をあげた。
しなやかな髪が流れてくすぐったい。
「………どうしたんですか」
彼女は真面目な目で上田を見つめた。
「上田さんらしくないです」
吐息が上田の顎に触れた。
「マリッジブルーですか?」







かもしれない。昨日の奈緒子が苛々していたように。

「馬鹿な事言うなよ。俺に限ってそんな事あるわけないだろう」
上田はせせら笑った。
「どの面においてもパーフェクトに決まってる。言っただろ、あくまでも参考までにだ」
「重要って言ったじゃん。さっき」
「幻聴だ」
「言った」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
「言った!認めろコラッ!」
奈緒子は手をのばして上田の顎を掴むと、そのまま顔を近づけた。
「…たまには、認めろって」
上田は度肝を抜かれたような間抜けな顔で至近距離の彼女を見た。
「………認める」
「じゃあ教えてあげます」
奈緒子の目はきらきらして綺麗だった。
「上田さんだからですよ」
「………」
上田ははぐらかされたような気がして眉間に皺を刻んだ。
「何だよ、それ」
「上田さんだから、なんですよ」
「わかんねえよ」
「いいんですよ。それで」
吐息が柔らかい。
そして甘い。
「違うぞそれは。そういう結末に至るまでの的確な説明を述べるべきだろ、具体的な実証例をあげて」
「学者って厭な人種ですね」
上田は促した。
「………早くキスしろよ。いつまでも喋ってないで」
「…そっちからすればいいじゃないですか」
奈緒子は笑った。
「マリッジブルー、治るかもしれませんよ」

上田は眉間の皺をゆるめ、目を閉じて、奈緒子の躯を引き寄せた。

 *

数量化できない領域においても真理に似たものはあると仮定する。
幸せだから感じる不幸もあるという事。
そんな不幸は幸せの一種だという事。
それもたぶん人生なのだという事。

pink marriage blue.




おわり
最終更新:2006年11月02日 22:57