クリスマス by 名無しさん



私の名前は山田奈緒子。
子供からお年寄りまで大人気の超本格派の美人マジシャンです。
恐がりで寂しがり屋の上田に乞われて、
私は今、上田のマンションに同居してやっています。
断っておきますが嫌々です、嫌々・・・。
心の広い私は、
情けない上田のために、掃除、洗濯、炊事にご近所付き合い、
全てを完璧にこなしているのです。
今日も素晴らしいクリスマス料理を作ってやったと言うのに、
上田はなにやら不満顔。
言いたい事があるならはっきり言え、上田ァ!!


上田はグラスに注いだワインを飲み干すと、
テーブルの向こうに座る奈緒子をじっと見つめた。

 「なんですか・・・」

何と言うことはない、いつものやり取り。
そう思った奈緒子だったが、
上田の瞳に、いつもとは違う何かを読みとってしまった。
奈緒子は、思わず目をそらしうつむいてしまう。
上田は、うつむく奈緒子にそっと近づき、
奈緒子の手にそっと自分の手を重ねた。
だが、奈緒子は身を強ばらせ、上田の手を振りほどいてしまった。
上田は呆然とし、その場に立ちつくす。
奈緒子の反応を"拒否"と理解したのだ。

 「す すまん・・・。
  別に深い意味はないんだ。」

では、どんな意味があったのだろう?
上田は取り繕いの言葉を続けようとしたが、
それを制するように奈緒子が口を開いた。

 「少し待っててもらえますか。
  私、シャワーを浴びてきます・・・。」


上田は寝室にいた。
目を血走らせ鼻息を荒くして、1人、自分の世界にいる。
毎度毎度の妄想世界である。
そこに奈緒子の姿は見当たらない。
まだシャワーを浴びているのだろう。
しかし、もう1時間が過ぎようとしている・・・。
さすがの上田と言えど、
妄想の世界を堪能し、こちらの世界に戻ってくるには充分すぎる時間だ。

 「ふーっ・・・、
  ふふっ ふふふっ ふっ うふふふ うふ・・。」

上田が妄想の余韻を楽しんでいると、寝室の扉が開いた。
入ってくるのは、シャワーを浴びた奈緒子だ。
1時間という時間。
それは奈緒子、決心の時間であった。


奈緒子が入ってきた事に気付き、上田は振り返る。
そこで見た奈緒子は・・・、
ジャージ姿だった。
しかも、間違いなく湯上がりと言った風のサッパリとした顔をしている。
よく見ると、体全体からほのかに湯気まであがっている。
1時間と言う時間。
それは単に、奈緒子の入浴時間であったようだ・・・。

色気もクソもない奈緒子のジャージ姿を前に、
上田はしばし固まっていた。

 「そうか、そうか。そう来るか・・・。」

 「なんか不味かったですかね・・・。」

 「い いや、別に大したことではないんだが・・、
  その・・・、服装がだな・・。」

 「ああっ!!
  ごめんなさい。つい、いつもの調子で・・。
  そうですよね。
  こんな格好じゃ不味いですよね。
  上田さん、ちょっと待ってて下さいね!。」

と言って奈緒子は部屋を出ていった。
奈緒子の後を追うように手を伸ばし、上田は叫んだ。
「YOUーーーーー!!」


上田は寝室にいた、1人っきりで・・・。
しかし、1人でも寂しくはない。
上田はまた、妄想世界の住人と化していた。

 「ふふっ ふふふっ ふっ うふふふ うふ・・、ヨネ子ぉ。」

 「ヨネ子って誰ですかッ!」

 「うおぅ!?」

現実世界に引き戻された上田のすぐ横には、
バスローブに身を包み、眉間にシワを刻んだ奈緒子がいた。

 「誰です・・?」

 「い いや・・・、そんな事よりYOU。
  今日のYOUは本当に綺麗だ。実に素晴らしい!」

奈緒子の追求をかわすため、
上田はとりあえず適当な事を言って奈緒子を誉めた。
思わぬ上田の言葉に、奈緒子は驚き、顔を赤らめうつむいてしまった。
そんな奈緒子を見た上田は、
自分が言った言葉が口からの出任せではなかった事に気が付いた。
上田は、うつむいたままの奈緒子をそっと抱きしめた。
奈緒子の洗い髪はすっかり冷え切っていた。
無理もない。
妄想世界にいたためにはっきりとした時間は分からないが、
奈緒子が戻ってくるまでに、けっこうな時間が経過していたのだろう。
上田の前にどんな姿で現れるべきか。
衣装箱をひっくり返し、頭を悩ませる奈緒子が目に浮かぶ。


 「すっかり冷たくなってしまったな。」

奈緒子を思いやり、上田は優しい言葉をかけた。
奈緒子の返事は、

 「ハーックション!!
  えぇ~ぃ・・。」

オヤジくしゃみだった・・・。

 「ご ごめんなさい。
  私、いつも自然乾燥だから・・・。
  上田さんも冷たかったですよね。
  私、乾かしてきます。
  上田さん、ちょっと待ってて下さいね。」

と言って奈緒子は部屋を出ていった。
取り残された上田はまた叫ぶ。

 「YOUーーーーー!!」

                            つ づ く・・・・と次回は最終回。

最終更新:2006年10月17日 22:25