try・try・try by ◆QKZh6v4e9w さん


ジェントル上田が好きな人は今回の話は読まないでください。



空中に香りを漂わせながら、長い髪が散った。
抑えたルームライトに照らされた美しい艶が輝いている。
髪が落下していく滑らかな頬は染まり、唇が半ば開いたままで浅く早い呼吸を繰り返す。
吐息のたびにかすれて混じる喘ぎは、だが拭いきれない羞らいを映してとても小さい。
「あっ、…あっ」
うねりのたびに楕円の軌跡を描く白い肩はうっすらと汗ばみ、細い鎖骨に沿って赤い痕が点々と灯っていた。
休みなく、ふるふると揺れるささやかな薄桃色の乳房。
鮮やかな先端はぴんと尖り、何度もまぶされた唾液で輝いてみえる。
「んっ、あん、あっ」
細くひきしまった腹がくねり、続く腰が、逃げようとしてそれも叶わずぴくぴくと跳ねた。
「ううん、あっ、あっ…ああ、あっ」
太腿にぴったりと密着した尻が前後左右に揺さぶられている。
しっかり掴んだ上田の指が、柔らかな肌に食い込んで離れない。
繋がっている場所から、たっぷりと粘液を孕んだ躯が食み合う卑猥な音がする。
上田の腿は、溢れ、滴り落ちる奈緒子の蜜でてらてらと濡れていた。

奈緒子は顎を仰け反らせ、深く吐息を吐き出した。
「はあぁあ…!」
「you」
耳朶に荒々しい男の声がぶつかる。
はあはあと呼吸を貪りながら、奈緒子はようやく目を開いた。
間近の上田の目に合った焦点がわずかにぶれ、恍惚に潤んでいる。
「上、田っ、さ、ん…あっ…」
「なあ、イイか?ん?」
「あん、あっ」
「声出していいんだ。もっと」
「あっ…はっ、は、ああっ」
上田の肩に廻した手に、奈緒子は力を入れた。
眉が苦し気に寄り、喘ぎは艶っぽさを増していく。

尻を引き締めて奈緒子の躯を突き上げながら、上田はその甘い声に聞き惚れていた。
汗ばんだ首から肩へ、そして背中へと彼女の細い指が落ち着きなく彷徨っている。
白くて熱い躯の奥深く収まったモノは摩擦と抵抗と強烈な締めつけの悦楽に震えていて、そろそろ危ない状態だ。
すっぽりと腕の中に抱いた彼女の重みと温もりの愛らしさ。
目の前で喘いでいる、綺麗な顔。表情のささいな変化だってつぶさに見てとれる。

今夜ようやく奈緒子に許してもらったこの交わりかたに彼はすっかり満足していた。
恥ずかしがったり照れたりでなかなかうんと言わなかったが、一度言わせてしまえばこっちのものである。
「you……」
動きをおさえて、キスをする。
「んん……ん…」
奈緒子は自分から唇をほどき、上田の唇を貪ってきた。
(お、おおぅ!…積極的じゃないか、you!)
柔らかな舌を絡めた極上のキスに上田は酔った。
やはり冒険は必要だ。
『いつもの』も充分かつ非常にいいものだが、こうして新しい挑戦に二人で挑むのはなんと楽しい事だろうか。



「ん……you」
「……ぷ…あ…」
ようやく離れた唇を、奈緒子は軽く歪めた。
上田がリズミカルな突き上げを再開している。
「あん、あ、ああん………やだ…上田さん…」
「そうか。この体位、好きか?俺もだ」
「ち、違っ、そうじゃなくて…あっ、あっ…」
「わかってる。俺の顔が見えて、嬉しいんだろ」
「んっ……ばかぁ…」
くねくねと奈緒子の躯はふらつき、既にあまり呂律が廻ってない。
「だ、だめ。もうだめ…私、もう、上田……」
「馬鹿言うなよ、you。もっとだ」
「……もっと…?」
奈緒子の目がとろんと上田を見た。
「来月まで、できないんだぞ」
「でも」
上田はぴたりと動きを止めた。
初めて躯を重ねた時よりもはるかに、堪える要領は心得ている。
今夜はできるだけ長い時間彼女を楽しみたい。

明日の夜から二週間の予定でアメリカの学会に出席する。
奈緒子も連れていきたかったのだが、彼女にも都合というものがある。
珍しく今回は馘にならず続いている花やしきのバイト中なので、無碍に連れて行くわけにも──。

「っ……」
奈緒子が、とても困った顔になった。
躯が波打ち、上田のモノをきゅうっとしめつけたが、それに続く新しい波を見失ったらしく、彼女は喘いだ。
「あ…あの、……………上田…さん…」
腰を掴んだ腕を持ち上げ、躯を捻る。
巨根が、蜜を滴らせて抵抗しながら彼女の狭い胎内から抜き出された。
移った彼女の体温は、湯気のたちそうな熱さだった。
「ん……!」
それだけでも相当強烈な快感なのか、奈緒子のすんなりした背筋がぴくぴく震えた。
「ん、ああ…あっ…」
「まだイくんじゃないぞ、you」
上田は囁いた。
物事には機会というものがある。機会はとらえるべきだ──滅多にない機会なら、特に。
すっかり行為に溺れている状態の奈緒子と、もっと試したい事がある。
今の彼女なら拒絶はしないだろう。
いつもよりは。

口に出す愚はおかさず、上田は奈緒子の華奢な躯をそっと、うつぶせにベッドに横たえた。
座位で愛し合っていたのでシーツにはまだそれほど温もりが移ってはいない。
ひんやりとしたその上等のリネンの感触がまた心地よかった。

「上田……?あ」
背中に被さると、奈緒子の声は安堵を示した。
いきなり離れたのが不安だったらしい。
「上田さん」
肩をひねって、彼の腕に掌を触れようとする仕草が可愛い。
上田は、彼女の白い背中一面にひろがったしなやかな髪を指で集め、片側に流した。
露になったうなじにキスを始めると、奈緒子は首を縮めるようにして反応した。
「ん…」
キスは染みのない背中の肌に移り、肩甲骨のくっきりとした窪みに舌を這わせ、ラインにそって続いた。
「んん」
腰がくねった。


腹の下に掌を滑り込ませ、上田はなにげなくといった軽さでぐいと彼女の腰をひきおこした。キスは続けている。
「ん……」
腰椎あたりの肌を吸った上田が膝でたち、両腕で彼女の腰を挟み込むと奈緒子はぎょっとしたような声を出した。
「う、上田?」
「遅い。いいだろ、you」
掌で腿の裏を押し込み、さらに腰を高く掲げさせる。
「いいだろって、……何っ?」
「このままヤっても」
「って、にゃっ、ちょっと、あの…!」
上田はさっさと身を屈め、奈緒子の肘を押さえ込んだ。
「おおぅ、グレート……濡れてんなぁ、you…」
固すぎるほど屹立したモノは、支えずともすんなりと奈緒子の茂みをかき分けてお馴染みの場所に到達した。
「ん。ここだ」
「ええっ」
ようやく奈緒子が糖度を下げて危機感を露にした声を発した。
「こ、こんな格好で!?」
「そう。…ずっとやってみたかったんだよ。だけどほら、youの躯がよく慣れてからでないと、可哀相だろ」
「……可哀相?」
「凄く奥まで感じるんだそうだ」
「ええっ!?奥って、でもいつもあの…それって…あっ、ちょっと、やめ」
「大丈夫だ。さっきのでも大丈夫なんだから」
適当な事を口走りながら、上田は腰に力を入れた。

「あああっ!」
「ん…っ…おう…」
捏ね回されて熟れた隘路に、大きすぎる男根がずぶずぶと入っていく。
奈緒子はぎゅっとシーツを握りしめ、その直後声にならない喘ぎを漏らした。
「…!!上田…さ…っ…」
のけぞった背を眺めながら、上田は先端に突き当たる柔らかで強靭な反応をじっくりと味わった。
いつもキツいが、体勢のせいか、更に更にキツい。
「うっ…ふ…」
「んー…っ…ん、や、やあぁ…」
「…奈緒子」
わずかに引き抜き、肩の力を抜きかけた奈緒子の腰を上田は掴む。
「いくぞ」
「えっ、あ、きゃあっ!」
ずん、と突き込まれて奈緒子は思わず悲鳴を漏らした。
一瞬頭の中が空白になるほどの衝撃だった。
上田との行為にはかなり馴れてきたはずだったが、今のが快感か痛みかすら判断できない。
それほどに強い刺激。

「あ、ひ、あん…あっ……」
微妙に屈した部分を、強い力で抉られて無理矢理に従わされていく。
「you。おうぅ…youっ…!」
背にぽつりとぬるい水が落ちた。彼の躯から滴った汗だろうか。
いつもは優しくて情熱的だと思っていた上田の動きが、急に獣のそれに思えて奈緒子は怯んだ。
「あっ、ああ…」
奈緒子は腰をくねらせた。
なんとか自由になろうとするが、あまりにも動きが力強くて自分の意のままには動けない。
「…んううっ!」
また一番奥にねじ込まれた。シーツに食い込んでいた奈緒子の指は力を失い、肩からベッドに崩れ落ちた。
……崩れ落ちてしまってから気がついた。
この体勢だと、ますます彼をしめつける事になり、苦しい。
戻ろうとして、戻れなかった。尻だけを高く掲げた奈緒子に、上田がのしかかってきている。
鼓動のたびに脈打つ、深く深く繋がった部分。
「…ん…あ、…あん、…んっ……」
「──気持ち、いいか?」
上田の甘い声がした。その瞬間、彼の中の毒の存在を奈緒子は信じた。




「ああぁっ!」
声が裏返る。押される強さに、体勢を保つのが難しい。
「いや、あっあっ…あ、待ってぇ…っ」
上田が掻き回し、押しつけるたびに、ねじ込まれたわずかな空気がぷじゅっ、じゅぷ、と恥ずかしい音をたてる。
「あっ、あっ、ん…!」
柔らかくひきしまった尻の肉が、男の腹や腿と叩き合って妙に乾いたリズムを響かせていた。

びくん、と奈緒子は可能な限り躯を縮めた。
気が転倒しそうなほど恥ずかしい感触。
上田が、繋がっている部分の上の、尻の穴のあたりに親指の腹を当てている。
温かい。
「やだっ!!さ、触るな、触らないでっ」
羞恥のあまり奈緒子の唇は歪んだ。
上田は無視して、ゆるやかに指で円を描くように優しく擦っている。
「いや、いやっ!いやだってば!」
「可愛いな」
「………!」
もう、気絶してしまいたかった。奈緒子は呻いた。
「こ、殺すからな、上田、あとで絶対」
上田は押し当てた指にさらに力を加えてきた。
「あっ、いや!き、汚いでしょっ」
奈緒子の怒りはすぐに崩れ、たまらない羞恥心だけが剥き出しになった。恥ずかしさで壊れそうだった。
「指入れていい?」
「駄目っ」
奈緒子は叫んだ。
「そんな変態だったなんて、し、しらな…ああん!」
「……わかった、今日はここまで」
上田がまた腰を突き入れてきた。
とりあえず指が離れたことに安堵し、奈緒子は躯中の力が抜けそうな気持ちだった。
揺さぶられることすら許してしまいたくなる。
「あ…あ…っ、あ」
激しい動きを受け止める負担で腰が痛みはじめた。
「う、上田っ……変…!あの、」
「変じゃない」
「嘘」
「君を、全部、確認しておきたいだけだ」
背を覆っていた上田の熱が離れる。
根こそぎ引き抜きそうな勢いで上田が腰を退いた。
肩を掴まれ、奈緒子は躯を仰向けにかえされた。

「こっちを向いて」
上田のしかけてきた事は厭わしくて怖いはずのに、奈緒子の心は彼の目と躯の温もりに途端に溶けてしまう。

好きでたまらない。何をされても。

「奈緒子」

「ん…っ、…あっ…」
頬に置かれた上田の大きな手に触れた。指を絡め、涙目で見つめる。
上田はすぐにもう片方の腕で奈緒子の腿を抱え上げ、蕩けた場所に押し入って来た。
「ああっ…」
「──奈緒子。奈緒子…」
よくわからない。上田のそれが破壊衝動だかSM趣味だか、奈緒子にはどうでもいい。
うわごとのように呟かれる上田の言葉を分析している余裕はなかった。
掻き回され、突かれる奥に、じんわりと痺れるような強い快感がある。
躯が浮き上がりそうだった。
そのたびに漂白されそうになる思考。
まさか自分が、こんな激しい行為で感じる事ができるとは思わなかった。



「んあっ…あっ…はあん…あん、あぁん…!」
彼女の喘ぎはとうの昔に悲鳴ではなくなっていた。
「奈緒子」
尻にもシーツにも、かすかにピンク色に染まった蜜がとろとろとまとわりついている。
奈緒子の躯の中はうねってひくつき、限界が近い事を正直に白状していた。
「ああん…!い、いや…死んじゃう…し、死んじゃう、だめ…!」
「…ふっ…ん、んはっ……い、いいぞ。我慢しなくて、いい」
「上田…っ…」
奈緒子の背が強くのけぞった。
声はとても小さかった。
「あっ…」
熱い奈緒子の内側で何度も何度も熱くキツくしめあげられ、上田は呻いた。
「イく…」
「き、来て…!」
無我夢中で腰を柔らかくくねらせている奈緒子の姿も視界からかすむくらいの猛烈な射精欲がこみあげ、既に耐えることもできず、上田はそれをそのまま解放した。
なぜか、彼女の細い躯の内側で射精するたびに、なにかとてもいけない事をしているようなかすかな背徳感を覚える。
なのに極上の快感と興奮で躯中が震える。
「…奈緒子」
何度も気をそらして極限まで我慢したためか、それとも思う存分楽しんだせいか、直後に上田を襲った疲労は凄まじかった。

 *

「…上田。上田?」
「……ん……」
「大丈夫?」
「…ん」
重い躯を預けたまま動かなくなった上田の耳に、奈緒子は染まった頬を寄せて囁いた。
「上田……?」
「…………疲れた」
奈緒子はますます赤くなった。
「…あ…当たり前だ」
「……」
「……」
上田はようやく頭をもたげ、掌をあげて奈緒子の顎を捕まえた。
「キス…」
「?」
「してくれ。動くのが面倒なんだ」
「お、お前…」
ぶつぶつ言いながら、それでも奈緒子はちゅっと小さなキスを上田の頬にした。
「フフフ…」
上田が頬を緩めるのを見て奈緒子は赤くなり、眉を寄せた。
「何」
「あとで、俺を殺すんじゃなかったのかよ」
「……う、うう、うるさいっ」
奈緒子はますます眉を顰めて上田の胸を押した。




「喉、乾かないか、you…」
「さっさと水でも牛乳でも、飲みに行けばいいじゃないですか」
「冷たいな…持って来」
「動けません!」
「………」
上田は渋々躯を退いて、奈緒子の上から降りた。
奈緒子は身を起こそうとして呻いた。
「……いたっ…」
「おい?大丈夫か」
「…おなか、いたいです」
「……そうか」
「腰も」
「……すまん」
「だから、上田。水もってこい」
「わかったよ」
上田は頭を振りながら起き上がった。

水を持ってこいと言ったのに、上田が提げて来たのは牛乳パックだった。
注いだコップを渡しながら、上田が言った。
「you」
「ありがとう…」
「どの格好のが好きだった?」
奈緒子は思わず牛乳を噴き出しかけた。
「ふっ!ごほ、ごほっ……ど、……どれって?」
牛乳パックから直飲みし、上田は口を手の甲で拭った。
「やってる時の体位」
「お、お前…そんな事、聞きますか?普通」
「普通聞くんじゃないか?次に活かしたいからな」
真面目な顔で見つめてくるので、奈緒子は急いでコップを傾け、自分の表情を隠した。
「…………………最後…の」
「正常位?」
「……」
「そうか。うん、俺もだ」
「嘘つけ!」
「嘘じゃない」
「その前もやたらに興奮してたじゃないですか!どうなる事かと思いました」
「違うって。youの好みのリサーチ。そう、リサーチだよ」
「じゃあ、お尻に指いれようとしたのは」
「……いや、あれは別にそんなに変な事じゃ…」
「そんな人だなんて、知りませんでした」
上田は視線を泳がせた。
「だって最初からあんな事したら、you、逃げてるだろ……」
「………計画的か」
「人聞きの悪い事を」
「事実じゃないか!この悪人!」



「………」
奈緒子の追求をごまかすように、上田は勢い良く牛乳を呷った。
そして空のパックをサイドテーブルに置き、奈緒子をじっと見据えた。
「──白状すると、実はだな、他にもじっくりと研究してみたい事例がまだまだ沢山あるんだよ。松葉崩し、帆掛け船、駅弁──体位だけじゃないぞ、亀甲縛り、ピンポン、鞭、ローソク、ヌンチャク…」
「な」
開き直った上田の目は、待ち望んだ昆虫採集にこれから向かう少年のように、きらきらと輝いていた。
「俺を深く愛しているyouなら、喜んで一緒に協力してくれる。いや、協力してくれるに違いない!……ほら、今夜いろいろ許してくれただろ、凄く嬉しかった」
さりげなく、奈緒子ににじり寄ってくる。
「ななな」
甘い、本人にはたぶんわかっていない、毒を含んだ囁き。
「you、愛してるよ……なあ、休んだらもう一度……」

後ずさり過ぎてベッドの端から落ちそうになった奈緒子の腕を、危ういところで上田が掴んだ。
「危ない!大丈夫か?」
「放せ上田!──私、帰ります。帰るっ」
「ええ!?…明日、午後までバイトないんだろ。そう言ってたじゃないか」
「そういう問題じゃない。とにかく帰る」
「なんでだよ?you!」
「自分の胸に聞け!」
「送るよ」
「来るな」

 *

上田次郎はかなりの確率で脳内に歪んだ夢を飼っている。
彼氏にする際には、いくら注意してもしすぎることはない。
それでもうっかり好きになってしまった場合───潔く諦める事。




後の祭り
じゃなかった、
おわり
最終更新:2006年10月13日 23:08