入れ替わり not ラブラブ編 by 243さん
7
奈緒子は上田を抱き締めたまま起き上がり、そっと体を倒した。
疲れてしまったのか、上田は虚ろな目をして奈緒子を黙って見つめている。
「…えーと。上田さん、正常位でいいんですか?」
「へ?あ、あぁ…任せる」
少しは知識があるようだ。
雑誌の立ち読みなどで覚えたのだろうか。
「…あんまり長くはもたないと思います…」
「何回でもすればいいじゃないか。
今日は何も用事はないから」
「明日は?」
「明日は大学に行かなきゃならないんだ。
まぁ俺がサポートするから心配しなくていい」
「心配するなと言われても」
「…話はこれくらいにしないか?」
「あ…はい」
繋がったまま普通に会話するとは、やっぱり俺たちはどこかずれているのかもしれない。
そんなことを呑気に考えていると、奈緒子が腰を強く打ち付け始めた。
突然の衝撃で頭がくらくらする。
「あっ…やっ、奈緒…っ」
「気持ちいいですか?」
上田はもはや頷くこともできなかった。
振動に任せて体ががくがく震える。
「…ふぁっ…あ、あ」
奈緒子が何度も体を引いては、最奥まで突いてくる。
突然頭の中が真っ白になり、体が熱くなる。
「…っあっあぁーっ!!」
体が大きくびくんと跳ねる。
秘部から愛液が溢れ、力強くペニスを銜え込んだ。
薄れる意識の中、奈緒子の体に必死にしがみついた。
「上田さん、いった?…だめ、きつぃっ…」
「…なぉ…ひゃうっ!」
絶頂を迎えて敏感になっている秘部を、奈緒子は何度も突き続ける。
結合部がぎゅっと収縮した瞬間、奈緒子も絶頂を迎えた。
「…あぁっ!!」
上田の体の中でペニスがどくどくと熱を放つ。
はぁはぁと息を荒げ、二人はぎゅっと抱き締めあった。
「…上田さん…すき」
「…奈緒子?」
奈緒子は繋がったまま離れようとしない。
上田は不安になり、そっと結合部に手を伸ばした。
「…奈緒子、まさか外れないわけじゃ…」
「違…もう少しこのままでいさせて」
離れたくないのだろう、体が震えている。
不安にさせたくない。
上田はその一心で、奈緒子を精一杯抱き寄せた。
「…結婚、しよう」
奈緒子は体を起こして、涙が溜まった目で上田を見つめた。
上田は秘部からペニスを抜き、奈緒子に向き合って笑う。
「恐いかもしれないけど、俺がいるから」
奈緒子は両手で顔を覆い、頷きながら泣いていた。
きっと大丈夫。
奈緒子と俺なら、きっと幸せになれる。
それから、俺たちはセックスをしまくった。
人間の生まれついての欲、食欲・睡眠欲を忘れて
とにかく性欲しか残っていなかった。
幸福、恐怖、不安、何もかもが性欲に変わっていった。
まるでセックスの快感を覚えたての幼いカップルのように。
「う…ん?もう朝か…」
一体何時間寝ていたのだろうか。
性欲が尽きたあと、押し寄せた多大な睡眠欲に負けたらしい。
隣では、むにゃむにゃと寝言を言いながら奈緒子が眠っている。
か細く柔らかな体を抱き寄せ、長い髪を撫でた。
なんて幸せな朝なんだ…。
…ん?
隣に眠っているのは、…奈緒子…。奈緒子!?
上田は瞬時に起き上がり、自分の股間を見つめた。
見慣れた巨根に安堵と歓喜を覚え、思わずガッツポーズをとる。
そばに置いてあった眼鏡をかけ、奈緒子の体を揺さぶり、叩き起こした。
「おい起きろ!奈緒子っ」
「うにゃ~…ビビンバ…冷し中華」
睡眠欲の次は食欲か。
奈緒子が目を擦りながら無意識に唇を寄せてくる。
一度だけ口付け、目が完全に覚めるまで顔を押さえて待った。
「奈緒子…わかるか?俺だよ」
「……。上田さん!?」
やっと起きたか。
口をぱくぱくさせる奈緒子を、ぎゅっと強く抱き締めた。
「よかったな…奈緒子」
奈緒子は何も答えず、上田の体を押し離した。
不安そうに涙を湛え、震えた目で上田を見上げる。
「どうした?嬉しくないのか」
「戻ったから…結婚、する意味なくなっちゃいましたね…」
奈緒子は真剣に落ち込んでいるらしい。
思わず鼻で笑ってしまった。
「馬鹿だな。戻れたからこそ結婚するんだよ」
「…ほんと?」
奈緒子は安心したようにふにゃっと笑った。
溜まっていた涙が、一筋頬を伝って落ちる。
上田は奈緒子の頭を撫で、頬を流れる涙を唇で受けとめた。
「…上田さん、すき」
「結婚するのに『上田さん』はないだろ」
「う…ぇ、あう…」
俯き、困ったように髪の先を弄んでいる。
やがてちらりと目を上げ、真っ赤な顔で唇をそっと開いた。
「じ…次郎、さん…?」
これはなんだ、予想以上に…その、
…かわいいじゃないか。
何も言えず、奈緒子を抱える腕に力を込めた。
奈緒子は苦しそうに藻掻き、腕の中でくすくす笑っている。
「好き、大好き…」
寄り添って、耳元に舌を這わせてくる。
昨日も思ったが、奈緒子は意外と積極的だ。
あぁ、でも今日は…
「奈緒子、今日は大学に行くから…」
「…ちぇ」
残念そうに耳にかぷっと噛み付き、奈緒子は腕を振りほどいた。
本当は講義も学会も捨ててしまいたいくらい、奈緒子が愛しいのに…。
無言で服を探して身を包んでいく奈緒子を見ていると、忘れていたことに気が付いた。
「そうだ!服…」
シンクには、水を含んだままのズボンと下着が放置されている。
服のボタンを留めながら近寄ってきた奈緒子が、笑って言った。
「あーあ。普通、洗ったら干すでしょ」
おいおい、そもそも奈緒子が射精したから俺が洗ってやったんだろ。
…多分、服が乾くまで一緒にいられると喜んでいるんだろう。
期待に添えなくて悪いが、今日は本当に急いでいる。
「…ジャージ借りるぞ」
「はっ!?入るわけないだろ!」
それもそうか。仕方なくそばにあったタオルを拾いあげて腰に巻いた。
その格好でいいのか…という視線を感じるが、他に方法もない。
家に帰るまでに誰にも見られなければ怪しまれることはないんだ。
「YOU、ここまでどうやって来た」
「上…次郎さんの車で」
よし、それならすぐに身を隠せるな。
唯一乾いたままのシャツを身にまとっていると、奈緒子が背中にもたれかかってきた。
昨晩と違い、恐ろしい程か弱く健気な女に見える。
一瞬騙されているのかと思ってしまうが、顔が見られなければ素直になれるのだろう。
向き直って奈緒子を見つめてみると、恥ずかしそうに顔を背けた。
おもしろい奴だ。
できることならもう少しこの反応を楽しみたい。
「…またすぐ会いに来るよ」
小さく頷く奈緒子の手を握り、ドアに向かった。
玄関前で数回キスを交わし、名残惜しそうに手を離すと、
上田は周囲を気にしながら階段を駆けおりていく。
「さよなら~」
階段の上から、ジロー号にこそこそと乗り込んだ上田を手を振って見送ると、
奈緒子は一目散に部屋に戻って電話に向かった。
「…もしもし、奈緒子です!」
電話の相手は、奈緒子の母・山田里見だった。
いつもの穏やかな声が返ってくる。
「あら奈緒子。恋愛成就のお守り届いた?
正式に結婚決めてほしくて作ったんだけど、よく効いたでしょう」
母の心遣いが嬉しく、奈緒子は思わず顔を綻ばせた。
「うん、すごく効い…じゃなくて!」
それどころじゃない、あの謎を説き明かしたい。
奈緒子は原因が里見にあるのではと考えていた。
「自分でも信じたくないんだけど、私たち体が入れ替わってね」
「お母さん忙しいから切るわね」
「ちょっと待って、何度考えてもトリックがわからないんだけど…ねぇお母さん」
「上田先生によろしくね~」
喚いている奈緒子を無視し、里見は受話器を置いた。
「…販売したら、いくら取れるかしら」
にやっと笑い、いそいそとパソコンを立ち上げる。
たくさんのお札やお守りの中に、新しい画像が追加された。
「文字の力は、愛の力…」
里見は怪しげにほくそ笑んでいた。
=END=
最終更新:2006年09月16日 11:49