「また貴女という人は……」
うちに遊びに来ることについて、文句を言うつもりはない。
姉妹なのだから受け入れるのも当然。
だけど、いちいちうちに来るたび、廊下を全速力で駆け回ることだけは許し難い。
一度だけならまだしも、これを往復でやられたら、姉としてその行為を
たしなめる必要がある。乙女として。
「そ、そんなに怒らないでよぉ。うちこんなに広くないし」
「言い訳無用。大体廊下で走るなどと言うふしだらなこと、許されると思いまして?」
「……ダメ?」
こちらの機嫌を伺うかのような、苦笑。
「走るなら外で走りなさい!」
この反省の色が見えない顔を見ていると、気付かないうちに怒鳴ってしまう。
自分でも改めるべきと思っているのだけど……ダメだ、どうにも怒りが収まらない。
大体、乙女を目指す者として、この子はどうしてこういつもいつも……。
「大体ですね、貴女には乙女として足りない物が多すぎますわ。
礼儀、作法、気品、常識、慎ましさ、淑やかさ、落ち着き。そしてなにより……」
「速さが足りない?」
「それは十分でしょうが!」
というか、何故そこでそのような発言が出るのだろう。
「貴女に足りないのは努力ですわ。自分のうずく欲求を抑え、乙女としての
気品ある行動を行う努力!」
「それはまぁ、分かってるけど……でもマスターいないしぃ」
「そういう態度がダメなのですわ。常日頃からの努力で、初めて気品というのは
身に付くのであって……」
うちに遊びに来ることについて、文句を言うつもりはない。
姉妹なのだから受け入れるのも当然。
だけど、いちいちうちに来るたび、廊下を全速力で駆け回ることだけは許し難い。
一度だけならまだしも、これを往復でやられたら、姉としてその行為を
たしなめる必要がある。乙女として。
「そ、そんなに怒らないでよぉ。うちこんなに広くないし」
「言い訳無用。大体廊下で走るなどと言うふしだらなこと、許されると思いまして?」
「……ダメ?」
こちらの機嫌を伺うかのような、苦笑。
「走るなら外で走りなさい!」
この反省の色が見えない顔を見ていると、気付かないうちに怒鳴ってしまう。
自分でも改めるべきと思っているのだけど……ダメだ、どうにも怒りが収まらない。
大体、乙女を目指す者として、この子はどうしてこういつもいつも……。
「大体ですね、貴女には乙女として足りない物が多すぎますわ。
礼儀、作法、気品、常識、慎ましさ、淑やかさ、落ち着き。そしてなにより……」
「速さが足りない?」
「それは十分でしょうが!」
というか、何故そこでそのような発言が出るのだろう。
「貴女に足りないのは努力ですわ。自分のうずく欲求を抑え、乙女としての
気品ある行動を行う努力!」
「それはまぁ、分かってるけど……でもマスターいないしぃ」
「そういう態度がダメなのですわ。常日頃からの努力で、初めて気品というのは
身に付くのであって……」
◇
夕食時……。
「はぁ……」
俺が帰ってきてから、ずっと疲れた表情を浮かべていた鶏冠石。
ついにため息まで漏れたか。
「何かあったのか?」
「え? あぁ……少々、妹と揉めまして」
「なるほど、また金剛石ちゃんか」
何故それをと、驚きの表情を向けてくる鶏冠石。
まぁ、鶏冠石が妹に対して頭を悩ませると言ったら、大体金剛石ちゃんだからなぁ。
この前なんて、騒いでいる金剛石ちゃんに2時間説教とか……。
「鶏冠石はちょっと厳しすぎるんだよ。もう少し肩の力抜いてもいいんじゃないか?」
「それは出来ませんわ。あの子には乙女としての自覚をしっかりと……やめましょう、
こんな話。食事中にすることではありませんので」
「あはは。でもまぁ、いきなり金剛石ちゃんが鶏冠石みたくなったらびっくりだよなぁ。
やっぱ元気な方がいいと思うよ」
そもそも、そんな姿が全く想像できないわけだが。
「ずいぶんな言い方ですわね。まるで私みたいなお堅い女性はお断りと言っているように聞こえますが」
こっちは軽い気持ちで言ったつもりだった。
だが、鶏冠石の方は捉え方が違うようで……恨めしそうにこちらを睨み付けてきている。
「い、いや、そうじゃなくってさ。金剛石ちゃんには金剛石ちゃんらしさというか、
それに鶏冠石は鶏冠石で……」
「別に、フォローする必要はありませんわ。それが貴方の素直な意見なのでしょう?」
こちらから目をそらし、不機嫌そうにため息をつく。
「……そんなに、明るい子の方がいいですか」
「だからさ、別にそういう意味じゃ……分かった、分かったから睨むなって」
目を合わせたかと思えば、その視線は鋭い。なんだか泣きそうになってきた。
そして、気付けば沈黙が食堂を包む。
食器の音、遠くから響くバイクのエンジン音。
普段は気にならない小さな物音が、やたらと気になってしまう。
「……ま、マスター」
その沈黙を破ったのは鶏冠石だった。
先ほどとは違い、頬を赤くしながらこちらを睨み付けている。
背後には、何故かただならぬオーラが見えるような……何なんだ。
「きょ、今日の、料理は……お、美味しい、じゃない」
何だ、このぎこちない口調は。
「なぁ、もしかして何か入れちゃいけない物でも入れたか、俺?」
「そ、そんな訳ないでしょ……ないじゃない。美味しいんだから」
「いつもと違う口調で言われても困るんだが」
……これはもしかして、明るい子を演じようとしているのか? というか、
金剛石ちゃんの真似?
だとしたら、すでに大失敗しているのだが。
「何を笑っている……笑ってるのよ?」
「ん、俺笑ってたか? いやぁ、すまんすまん」
「謝るぐらいなら、その笑顔をやめな……やめてよね!」
言い慣れない口調に悪戦苦闘する鶏冠石の姿。
つまり、これが鶏冠石なりのイメチェンって奴か。
鶏冠石には悪いが、これを笑うなといわれても無理がある。早々にやめた方が……
いや、これで金剛石ちゃんの苦労が少しは分かるかも知れない。
これは、しばらく放置しておく方がいいかも知れない。見ている方も面白いし。
「いい加減に、そ、その笑顔をやめて!」
「あー、はいはい。笑わないからそんなカリカリするなって」
「はぁ……」
俺が帰ってきてから、ずっと疲れた表情を浮かべていた鶏冠石。
ついにため息まで漏れたか。
「何かあったのか?」
「え? あぁ……少々、妹と揉めまして」
「なるほど、また金剛石ちゃんか」
何故それをと、驚きの表情を向けてくる鶏冠石。
まぁ、鶏冠石が妹に対して頭を悩ませると言ったら、大体金剛石ちゃんだからなぁ。
この前なんて、騒いでいる金剛石ちゃんに2時間説教とか……。
「鶏冠石はちょっと厳しすぎるんだよ。もう少し肩の力抜いてもいいんじゃないか?」
「それは出来ませんわ。あの子には乙女としての自覚をしっかりと……やめましょう、
こんな話。食事中にすることではありませんので」
「あはは。でもまぁ、いきなり金剛石ちゃんが鶏冠石みたくなったらびっくりだよなぁ。
やっぱ元気な方がいいと思うよ」
そもそも、そんな姿が全く想像できないわけだが。
「ずいぶんな言い方ですわね。まるで私みたいなお堅い女性はお断りと言っているように聞こえますが」
こっちは軽い気持ちで言ったつもりだった。
だが、鶏冠石の方は捉え方が違うようで……恨めしそうにこちらを睨み付けてきている。
「い、いや、そうじゃなくってさ。金剛石ちゃんには金剛石ちゃんらしさというか、
それに鶏冠石は鶏冠石で……」
「別に、フォローする必要はありませんわ。それが貴方の素直な意見なのでしょう?」
こちらから目をそらし、不機嫌そうにため息をつく。
「……そんなに、明るい子の方がいいですか」
「だからさ、別にそういう意味じゃ……分かった、分かったから睨むなって」
目を合わせたかと思えば、その視線は鋭い。なんだか泣きそうになってきた。
そして、気付けば沈黙が食堂を包む。
食器の音、遠くから響くバイクのエンジン音。
普段は気にならない小さな物音が、やたらと気になってしまう。
「……ま、マスター」
その沈黙を破ったのは鶏冠石だった。
先ほどとは違い、頬を赤くしながらこちらを睨み付けている。
背後には、何故かただならぬオーラが見えるような……何なんだ。
「きょ、今日の、料理は……お、美味しい、じゃない」
何だ、このぎこちない口調は。
「なぁ、もしかして何か入れちゃいけない物でも入れたか、俺?」
「そ、そんな訳ないでしょ……ないじゃない。美味しいんだから」
「いつもと違う口調で言われても困るんだが」
……これはもしかして、明るい子を演じようとしているのか? というか、
金剛石ちゃんの真似?
だとしたら、すでに大失敗しているのだが。
「何を笑っている……笑ってるのよ?」
「ん、俺笑ってたか? いやぁ、すまんすまん」
「謝るぐらいなら、その笑顔をやめな……やめてよね!」
言い慣れない口調に悪戦苦闘する鶏冠石の姿。
つまり、これが鶏冠石なりのイメチェンって奴か。
鶏冠石には悪いが、これを笑うなといわれても無理がある。早々にやめた方が……
いや、これで金剛石ちゃんの苦労が少しは分かるかも知れない。
これは、しばらく放置しておく方がいいかも知れない。見ている方も面白いし。
「いい加減に、そ、その笑顔をやめて!」
「あー、はいはい。笑わないからそんなカリカリするなって」