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漬物石といえば

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匿名ユーザー

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「キュウリの浅漬け……私が漬けたの」
 PCモニタ相手に持ち込みの仕事をしていたときに差し出される浅漬け。
 振り返ってみると、どこか照れくさそうな漬物石の顔。
「さ、最近、言ってませんでしたよね、この台詞……えへへ」
「あー、そういえば……」
 ――私が漬けたの。
 このフレーズを初めて聞いたのは、俺が漬物石と出会ったその日だった。
 まだ慣れていない俺を和ませようと差し出してきたのはたくあん。
 そしてあの一言だ。
『たくあん……私が漬けたの』
 あのときの言葉。緊張していた俺の肩から、力を抜いてくれたのがこの一言だった。
 あぁ、確かにこの子は漬物石だと、何故かおかしくて笑ってしまった。
「仕事じゃなければ晩酌でもするんだけどなぁ」
「駄目ですよ。お仕事をおろそかにしちゃ。代わりにお茶を持ってきますね」
「分かってるって。とりあえず頼む」
 あれから一年。
 お互いがいることが当たり前になった日常。
 あの一言も、いつしか聞かなくなっていた。漬物石が漬ける漬け物は、漬物石が漬けたに決まってるからだろうか。
「なぁ、漬物石」
 部屋を出ようとした漬物石の後ろ姿を呼び止める。
「はい?」
 振り返り、首をかしげる漬物石。
 ……今思えば、ずいぶんとバカなリクエストだと思う。
「さっきの台詞、もう一回」
「へ?」
 拍子抜けしたかのように、目を丸くする漬物石。何か大切な用事とでも思ってたのかな。
「え、えと、駄目ですよ?」
「それより前」
「え、ええ……キュウリの浅漬け……私が漬けたの……?」
「そうそう。もう一回」
「えぇー」
 困ったように顔を赤くする漬物石。
「もっと自然な表情でよろしく」
「そ、そんなぁ……きゅ、キュウリの浅漬け……私が漬けたの」
 極力自然に振る舞おうと努力していたのであろう漬物石。だが顔は真っ赤だ。
「もぉ、いきなり何ですかぁ?」
「ん、いや、次いつ聞けるか分からないからな。という訳でもう一回」
「だ、駄目ですっ。もぉっ」
 頬を膨らまして、部屋を出て行く漬物石。
 そんなに恥ずかしいものなのかな、アレって。
 ……まぁ、いいか。久々に懐かしい気分になれたし。さぁて、漬け物漬け物っと……。

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