宝石乙女まとめwiki

夜の雨音

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 昼夜問わず雨のひどいこの季節。月明かりもない、闇一色の空から無数に降り注ぐ雨粒が、廊下の薄いガラス窓を叩く。
 別段気になる音でもない。だが眠ってしまうには、少々名残惜しい音色にも感じる。
 ――本でも読むか。寝室へ行くつもりだった足を止め、書斎の方へ足を向ける。
 ここの主であった人物は本好きであったらしく、その書斎には相当数の本が詰め込まれている。人が一生に読み切るには多すぎるほどではと感じるほどのそれは、私にとってちょうどいい暇潰しとなった。
 ……いや、それほど暇ではない、か。そんなことを頭に巡らせつつ、書斎に到着。重々しい木製の扉を開け、中へ。
「っ!?」
 書斎の一番奥に置かれた、古びた木製の机。その場所を、水色の塊が占拠していた。これにはさすがに驚く。
 だが、耳を澄ませて聞いてみると、その水色の塊は安らかな寝息を立てていた――先客、か。正体が分かればどうということはない。彼女に近づき、寝顔を伺う。
 開いた本を枕にして、安らかな顔で眠っている。昔は、これほどの安らかな寝顔など見ることはできなかったのだが……いや、やめよう。過ぎたときのことを思い出すのは。
 近くに置いてある毛布を手に取り、彼女の肩にかける。宝石乙女が風邪を引くわけもないが、気分の問題だ。

 ガラス窓に雨粒が当たる音。やや厚い書斎のガラスは、廊下とは違い低い音を立てている。そして扉の向こう、廊下のガラス窓の甲高い音。二つの音が混じり合い、興味深い音を奏でる。
「んぅ……すぅ」
 時折聞こえる、彼女の寝息。人間と同じように深い眠りと浅い眠りがある宝石乙女。もちろん浅い眠りのときは夢を見る。
 ――大丈夫か? 悪夢にうなされていないか? 寝息が聞こえるたび、彼女の寝顔を伺う。その顔は安らか。その顔を見て、安堵のため息が漏れる。
 ……どうして、こんなに彼女が気になってしまうのだろう。
 再び、聞こえるのは雨音がガラスを叩く音。本に目を戻し、次のページをめくる。髪のこすれ合う音が、大きく耳につく。ランプで揺らめく火の音も、聞こえそうなほどに。人の声がない、自然の音だけの世界はなんと静かなことか。

「あめ……」
 それらを聞こえなくさせる、彼女の寝言。あめ……外で降るそれか、それとも……。
「……あ、れ?」
 寝言とは違う、意識のこもった声。彼女の顔を伺う……彼女の顔を、朝日が照らしている。カーテンの隙間から覗く空は、いつの間にか暗雲は晴れ、青空を見せている。東の空から顔を覗かせる朝焼け。
「アメ、ジスト……あれ?」
 眠っていた先客が、薄目でこちらへ顔を向ける。
 もう一度、本に目をやる。読み始めてから、ページはほとんど進んでいない。これではここに来た意味がないではないか。
「え、わたし、居眠りを……あうぅ」
 恥ずかしそうにうつむく。本を枕にしていたせいか、それとも恥ずかしがってか、頬が赤い――よかった、うなされはしなかったようだ。
「あ、う……笑わないで」
「あぁ、すまない」
 そういわれても、勝手に笑顔になってしまう。
「……おはよう、ホープ」
 次に聞こえたのは、鳥たちの羽ばたく音。そして、どこか照れくさそうな彼女の声……。


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