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二人の出会いに乾杯

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だれでも歓迎! 編集
「今日も夕食美味しかったよ」
「ありがとうございます」
 梅雨の抜け切らない中で、たまの晴れ間を見せたかと思えば、一段と暑くなった今日。 世間一般的に見れば何でもないとある一日なのだろう。
 だが、僕らにとっては特別な日。いや、特別な前日といったところだろうか。
「マスター、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「ありがとう、お願いするよ」
 彼女の名前は黒曜石。ある日突然、僕の目の前に現れた女の子。
 お世辞でなくても『かわいい』という言葉が口から零れるほどの容姿。その姿はお人形のよう。いや、実際に『ドール』なのだ。
 彼女には沢山の姉妹がいる。お姉さんも妹も皆がそれぞれ個性的だ。
 もちろん、その姉妹らにもそれぞれのマスターがいる。マスターを持たない娘もいるようだけれど。

 そして、黒曜石に出会った『ある日』というのが、ちょうど一年前の明日なのだ。
 正直なところ、忘れっぽい僕が彼女と初めて出会った記念日を覚えていたのはすごいと思う。……誰かが今の僕を見たら、変な人に見られそうだね。自然と顔が緩むのを自覚できる。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもないよ」
 それにしても、彼女は気づいているのだろうか。気づいていなければ、それはそれで好都合なのだけれど。
 にしても、落ち着きがないな僕は。今か今かと身体の疼きが止まらない。
 実は、明日の日のためにこっそりとケーキを買ってある。時計の針が零時を指したと同時に出そうかと計画しているのだ。
「おかしなマスターですね」
「そうかな?」
 実際僕も黒曜石と同意見だ。僕自身でも変だと感じているんだからね。でも、それほど明日という日が待ち遠しい。
「マスター、そういえば私が来た日のことを覚えていますか?」
「ん、もちろん覚えているよ」
 それは、今みたいにじめっとした暑い日のことだった。ちょうど一年前なのだから当り前なのだけど。突然現れた彼女にとても驚いたっけ。
「私がマスターに初めて会ったときは、特に人見知りが激しかったんですよね」
 そういえばあのときの彼女は、どこかよそよそしかったように思う。そりゃ、初対面ならそうなるのも無理ないか。
 でも、今僕の隣にいる彼女は違う。僕に絶対的な信頼と親愛を寄せてくれている。
「そして、しばらくしてから雲母ちゃんがやって来て」
 雲母というのは黒曜石の妹に当たる娘で、黒曜石を追いかけてやってきたと言う。
 それから、徐々に彼女の姉妹がこの町に集結していったのだ。まるで彼女ら宝石乙女の、時代を超えた大移動だね。
「実は、普通こんなにたくさんの姉妹が集まることはほとんどないらしいのです」
 彼女が言うには、同じ時代に姉妹が集まるのはせいぜい数人程度らしい。でも、彼女――黒曜石が目覚めた時代では多くの姉妹が集結するという。黒曜石には、人を集めるような不思議なチカラがあるのかもしれない。そのお陰で、僕も普段の生活が非常に充実している。
「そしてこの時代、私が生きてきた中で一番たくさんの姉妹が集まりました。お姉様が言うには、私とマスターの相性というか、繋がりがとても強いからだそうです」
 ありがとうございます、と彼女は言う。僕は何もしていないけど、あえてそれは口にしない。
 時刻はもうすぐ零時に差し掛かろうかというころ。
「もう一つ、実は明日が私たちの初めて出会った記念日なんですよ。ふふ、マスターは覚えていますか?」
「もちろん、そのためにケーキも買ってあるからね。ほら」
 そう言って、向こうの部屋からケーキを取ってくる。
 記念日のことで驚かしこそできなかったけど、これはビックリさせることができたらしい……でも様子が変だ。
「あ、あの、ゴメンなさいマスター。実は私も……」
 そういってキッチンから取り出されたケーキ。しかもこれは黒曜石の手作りだろう。これは予想外だ。だが、別にどうってことはない。食い扶持はたくさん知っている。
「まあいいじゃないか。せっかくの記念日だし、みんなを招待すればいいさ」
「……はいっ。それじゃあ明日は張り切ってお菓子を作らないとですね」
「そうだね。おっと、もう零時過ぎてるじゃないか」
 そう言いつつ、僕と黒曜石の分のカップに紅茶を注ぐ。
「今は手元にこれしかないけど――」
『僕(私)たちの出会いに乾杯!』


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