突然だが、我が家は現在停電状態だ。
いや、我が家というのはおかしいか。この地域一帯が、台風の影響で停電中だ。おかげで懐中電灯やらろうそくやら用意するので大忙しだった。
「まったく、これぐらいもっと早くできませんの?」
ちなみに、こんなときでも優雅に紅茶を飲む相方は手伝う気ゼロなので、全て俺がやった。
「いや、そうは言うけどな……できれば鶏冠石も手伝って」
「乙女に仕事をさせるような殿方に育てた覚えはありませんわ」
……そうっすか。まぁ、今さらどうこう言うつもりもない。鶏冠石らしいじゃないか、実に。
「だいたい、これだけ大きな家なら自家発電ぐらい用意したらどうですの?」
「ちょ、病院じゃないんだからさ」
「お黙りなさい。貴方は宝石乙女のマスターという自覚があるのですか? 常に万全の配備を整え、私の身の安全を保護する義務が――」
と、ろうそくの明かりの下で小言が始まろうとしたそのとき……。
「あっ」
窓から差し込む閃光。わずかに遅れて響く轟音。……雷か。けっこう大きかったな。
「そりゃあ停電もするってモンだよなぁ……鶏冠石?」
気づけば、鶏冠石がテーブルの下に隠れていた。震えながら。
「……なぁ、それは地震のときの対応じゃないのか?」
と、俺の言葉を聞いて鶏冠石の顔色が変わる。
「べ、別にっ、ちょっと床に物を落としただけですわっ」
「ふーん……まぁ、頭ぶつけないようにな。俺ちょっと戸締まり確認してくる」
こんな台風の日に泥棒が来るとは思えないけど。
「……なぁ、何なんだその、お前は常識を逸脱した行動を取っていると言いたげな目は」
いや、自分で言っててどういう目かいまいち分からんけれど。とにかく、こっちを鶏冠石が目を丸くして凝視してきているのだ。ついでにちょっと青ざめているような。
「と、戸締まり……そんなもの、必要ありませんわ。こんな日に泥棒なんて」
「いや、だってお前が言っただろ。身の安全をどーのこーのと」
「それとこれとは話が別ですわ。とにかく今はここで私の……」
あ、また雷。
「ひっ」
そして、鶏冠石のうわずった悲鳴。さっきまでの気丈な態度が嘘みたいだ。
いや、我が家というのはおかしいか。この地域一帯が、台風の影響で停電中だ。おかげで懐中電灯やらろうそくやら用意するので大忙しだった。
「まったく、これぐらいもっと早くできませんの?」
ちなみに、こんなときでも優雅に紅茶を飲む相方は手伝う気ゼロなので、全て俺がやった。
「いや、そうは言うけどな……できれば鶏冠石も手伝って」
「乙女に仕事をさせるような殿方に育てた覚えはありませんわ」
……そうっすか。まぁ、今さらどうこう言うつもりもない。鶏冠石らしいじゃないか、実に。
「だいたい、これだけ大きな家なら自家発電ぐらい用意したらどうですの?」
「ちょ、病院じゃないんだからさ」
「お黙りなさい。貴方は宝石乙女のマスターという自覚があるのですか? 常に万全の配備を整え、私の身の安全を保護する義務が――」
と、ろうそくの明かりの下で小言が始まろうとしたそのとき……。
「あっ」
窓から差し込む閃光。わずかに遅れて響く轟音。……雷か。けっこう大きかったな。
「そりゃあ停電もするってモンだよなぁ……鶏冠石?」
気づけば、鶏冠石がテーブルの下に隠れていた。震えながら。
「……なぁ、それは地震のときの対応じゃないのか?」
と、俺の言葉を聞いて鶏冠石の顔色が変わる。
「べ、別にっ、ちょっと床に物を落としただけですわっ」
「ふーん……まぁ、頭ぶつけないようにな。俺ちょっと戸締まり確認してくる」
こんな台風の日に泥棒が来るとは思えないけど。
「……なぁ、何なんだその、お前は常識を逸脱した行動を取っていると言いたげな目は」
いや、自分で言っててどういう目かいまいち分からんけれど。とにかく、こっちを鶏冠石が目を丸くして凝視してきているのだ。ついでにちょっと青ざめているような。
「と、戸締まり……そんなもの、必要ありませんわ。こんな日に泥棒なんて」
「いや、だってお前が言っただろ。身の安全をどーのこーのと」
「それとこれとは話が別ですわ。とにかく今はここで私の……」
あ、また雷。
「ひっ」
そして、鶏冠石のうわずった悲鳴。さっきまでの気丈な態度が嘘みたいだ。
「そっかぁ、雷苦手なんだ」
「なっ、そ、いや、そんなことはっ!」
「ドカーンっ!」
「ひぃっ!!」
……うーむ、これはさすがに後で殴られるかもなぁ。いや、決して普段からひどい目に遭わされてるから仕返しをとか、そんなことは思ってない。
「……ひっくっ、うっ、えぅ……」
「って、泣くほど……あー、悪い悪い。もう驚かさないからさぁ」
途中から行く気はなくなっていたが、これでは戸締まりどころではない、か。
ソファに座り、鶏冠石の肩を抱く。決していやらしい意味合いはない。ただ怯える鶏冠石に体を貸しているだけだ。
「……うぅ」
雷が落ちるたび、俺にしっかりとしがみついてくる。まぁ、これも身の安全がどーのこーのってやつだ。さすがに雷が目の前に落ちたらどうしようもないけど。
「後で……絶対、お仕置きですわ…………鞭で、百叩き」
「いや、さすがにそういう生々しいのは許してくれ」
「嫌、ですわ……」
すっかりひ弱になったくせに、口ばかりいつも通りとは。まぁ、鶏冠石らしいといえば鶏冠石らしい……お、また落ちた。
「っ!」
先ほどより強くしがみついてくる。
「んー……今夜中はこんな感じなのかなぁ」
何となくつぶやいた一言にも、過剰に反応する鶏冠石。すっかり絶望しきっているような、そんな顔だ。
「そ、そんな……そんなの認めません!」
「自然現象にまで命令するなって」
「う、うぅっ! もういいですわっ、今ここで百叩きっ!」
とか言いながら、俺から離れる気配はまったくない。それどころか、虚勢もすぐに抜けきってしまい……。
「……百叩き……されたくないなら、一晩……」
つまり、朝になるまでこうしていろということか。
「お前もお姉さんなんだから、一人で寝ろよなぁ」
「っ、これはれっきとした身の安全――」
鶏冠石の言葉を遮るように、雷が落ちる。
「……つ、つべこべ言わずに、私を守りなさい」
俺の体に、潜り込むような感じで寄り添ってくる鶏冠石。普段のお嬢様らしさを残しつつ、すっかり小動物になってしまったようだ。
……よし、今日は寝不足覚悟でつき合ってやろう。あとあと何かいいことがあるかもしれないし。
「なっ、そ、いや、そんなことはっ!」
「ドカーンっ!」
「ひぃっ!!」
……うーむ、これはさすがに後で殴られるかもなぁ。いや、決して普段からひどい目に遭わされてるから仕返しをとか、そんなことは思ってない。
「……ひっくっ、うっ、えぅ……」
「って、泣くほど……あー、悪い悪い。もう驚かさないからさぁ」
途中から行く気はなくなっていたが、これでは戸締まりどころではない、か。
ソファに座り、鶏冠石の肩を抱く。決していやらしい意味合いはない。ただ怯える鶏冠石に体を貸しているだけだ。
「……うぅ」
雷が落ちるたび、俺にしっかりとしがみついてくる。まぁ、これも身の安全がどーのこーのってやつだ。さすがに雷が目の前に落ちたらどうしようもないけど。
「後で……絶対、お仕置きですわ…………鞭で、百叩き」
「いや、さすがにそういう生々しいのは許してくれ」
「嫌、ですわ……」
すっかりひ弱になったくせに、口ばかりいつも通りとは。まぁ、鶏冠石らしいといえば鶏冠石らしい……お、また落ちた。
「っ!」
先ほどより強くしがみついてくる。
「んー……今夜中はこんな感じなのかなぁ」
何となくつぶやいた一言にも、過剰に反応する鶏冠石。すっかり絶望しきっているような、そんな顔だ。
「そ、そんな……そんなの認めません!」
「自然現象にまで命令するなって」
「う、うぅっ! もういいですわっ、今ここで百叩きっ!」
とか言いながら、俺から離れる気配はまったくない。それどころか、虚勢もすぐに抜けきってしまい……。
「……百叩き……されたくないなら、一晩……」
つまり、朝になるまでこうしていろということか。
「お前もお姉さんなんだから、一人で寝ろよなぁ」
「っ、これはれっきとした身の安全――」
鶏冠石の言葉を遮るように、雷が落ちる。
「……つ、つべこべ言わずに、私を守りなさい」
俺の体に、潜り込むような感じで寄り添ってくる鶏冠石。普段のお嬢様らしさを残しつつ、すっかり小動物になってしまったようだ。
……よし、今日は寝不足覚悟でつき合ってやろう。あとあと何かいいことがあるかもしれないし。
「昨日はずいぶんとからかってくれましたわね」
「え? いや、その鞭はいったい……一晩つき合ったらなしにしてくれるんじゃ……」
「問答無用、ですわ♪」
「え? いや、その鞭はいったい……一晩つき合ったらなしにしてくれるんじゃ……」
「問答無用、ですわ♪」
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