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台風が来た!

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だれでも歓迎! 編集
 最強級とかいう物騒な二つ名を得た台風が来た。だいたい最強とか、子供がつけるんじゃないんだから……もっといい表現はないのだろうか。
「最強なのは認めるけどよぉぉぉ!」
 頭上に差すはずの傘を真横にして、自宅への道を進む。
 風が強い。顔に当たる雨が痛い。というか歩きにくい。しかも夜になってからひどくなるという最悪のパターン。この状態で道を行くのは危ない。向かってくる車が見えない。だからって、素直に傘を頭上に掲げるなんてできるわけがなかった。やった時点で傘は崩壊する。高いんだからな、これ……。
「……ったぁぁーっ」
 風に乗って、声と区別もつかない音が聞こえる……いや、声だ。聞き取りにくいが、確かに女の子の声だ。この声は……。
「…………すったぁーっ!!」
 スター? にしきの?
「まっすったぁーっ!!」
 あぁー、マスターか。なるほど俺のことか。
「って、誰だっ!?」
 傘を上げて、前方を確認……やめた。今顔面に豆鉄砲が当たった。痛すぎる。
「マスターっ! あたしですよぉーっ!! むっかえに来ましたー!!!」
 先ほどよりもはっきりと聞こえる声。きっと目の前まで来ているのだろう。
「ってぇ、マスター止まって止まって! ぶつかるか……ますからぁーっ!!」
「……は?」

「風に身をゆだねて走るとか、お前はどれだけ無茶をするつもりだっ」
 同じ傘の中に入る、透明ビニールの雨合羽を被った少女……金剛石。
 俺を迎えに来たのはいいけれど、追い風をいいことに全力疾走をしていたらしい。おかげで雨合羽の効果も薄く、中の服が透けて……あまり見るのはよそう。
「だって楽し……じゃなくて、早く迎えに行かないとたいへんなことになってるなぁーって!」
「傘も雨合羽も持たずに迎えかっ?」
「あ……」
 相変わらず、どこか抜けているというか。
「でもまぁ、ありがとう。こうして傘を押してくれる相方がいると助かる」
「えー? 何か言いましたかーっ?」
「……お前がいると助かるっ!」
「あーあーあー、ありがとーございまーっす!」
 風のおかげで、並んで歩いていても会話が成り立ちにくい。
「……え、……のな…………ですよー」
「えー? 何だってぇ?」
「たとえ火の中水の中ーっ」
「あー。そりゃあ頼りがいがあるっ」
 むしろ雨にも負けず風にも負けずって感じだけどな、この状況は。
 しかし、ちゃんと俺たちは家に向かっているのだろうか。こんな地獄のような状況で迷ったら、それこそ大変なことになる。
「……って、何にやけてるんだよっ」
「へ?」
 隣の金剛石の顔。こんな極限状態で、なぜかやたらと嬉しそうだった。というか、テンション高い?
「だって、マスターと相合い傘ですよーっ!」
 足を風に取られそうになった。
「ちょ、おま、いきなり大声で何をっ」
「いいんですっ、どーせ周りに聞こえませんよーっ」
「俺は聞こえる!」
 何というか、しらふの俺にとっては恥ずかしい以外のなにものでもない。ホント、困った奴だ……抗議ついでに、にらみつける。
「マスターだけなら」
 だが、金剛石はそんな俺に笑顔を向けて……。
「聞かれたっていいですよっ、今日ぐらい!」
 ……台風で嬉しそうな顔を浮かべる女の子を、俺はこのとき初めて見た。で、結局それ以上金剛石の顔を見ることはできなかった。
 あー……早く帰りたい。早く黒曜石の作ったご飯が食べたい。
 ……早く止んでしまえ、台風。相合い傘なら普通の雨でもいいだろう。


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