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約束しなさい

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匿名ユーザー

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 夜、七夕のお祝いで黒曜石ちゃんの家に向かう準備をしてた時のこと。
『たまにはドレス姿以外の鶏冠石も見てみたいなぁ』
 とか言ったのはちょうど今から数週間前のこと。
 最初は軽くあしらわれるだろうとか、そんなことを考えていたのだが……。
「……何か?」
 その言葉が、何故か現実のものとなっていた。
 いつものドレスと同じ、赤い浴衣姿の鶏冠石。
 いつの間に着たのかは分からないが、何というか……ものすごく新鮮だ。
「いやぁ、まさか本当にドレス姿以外の鶏冠石が見られるなんて思ってなかったから」
「本当は着る予定もありませんでしたけれど……今日は七夕で、姉様がどうしてもと
おっしゃったもので」
「へぇ。ってことは、それ用意したの漬物石ちゃんか」
 心の中で、彼女にGJを送る。
 だが、当の鶏冠石はどこか居心地が悪そうだ。そりゃあ和装なんて
慣れてないんだから当然か。
「……あまりジロジロ見ないでくださらないかしら?」
「え? あぁ、ごめん。でも似合ってるよ、可愛い」
 その一言で、鶏冠石の眉がつり上がる。
「と、当然ですわ。私(わたくし)を誰と思って?」
 赤面しながら言っても、迫力はないんだけどなぁ。

 と、いう訳で、今日はこの格好で黒曜石ちゃん達の家に行くことに。
 隣を歩く浴衣姿の鶏冠石。こういうのもまた新鮮だ。
 ……そういえば、最近は二人で外に出ること、あまりなかったな。
「……確かに、ジロジロ見るなとは申しましたが」
 でも、このどこか不機嫌そうな鶏冠石はいつも通りだ。
「チラチラ見られるのも、出来ればやめて頂きたいのですが?」
 その語尾に大きなとげがあるのは、いうまでもない。
「いや、だってなぁ……もう少し見ていたいというか、何というか」
「……貴方、そういうことを恥ずかしげもなくおっしゃるのは、どうかと思いますわ」
「そうか?」
 俺の反応が気にくわないのか、こちらをにらみつける。
「マスター、今日の貴方はたるんでいますわ。私のマスターという立場を、ちゃんと分かっていて?」
「え? そりゃまぁ……」
「では、もっと気を引き締めなさい!」
「はいっ!」
 やっぱり中身は鶏冠石だ。いつもと何の違いもない。
 しかし、そんなにたるんでるように見えたかな……別にいつも通りだと思うんだけど。
 きっと鶏冠石の浴衣姿が嬉しくて、気付かないうちに舞い上がっていたのかな。
「私だってあまり見つめられるのは……ブツブツ」
「なんか言ったか?」
「な、何でもありませんっ。それより早く歩く! このままでは黒曜石の家に着くより先に
朝になってしまいますわ!」
 俺より先行して歩き出す鶏冠石。
 いつもは危険がないか確認しなさいとかで俺を前に歩かせるのに。

 黒曜石ちゃんの家に到着してみると、すでに結構な子が集まっていた。
「ふふ、【鶏冠石のマスター】さん、嬉しそうで良かったね。ケイちゃん」
「ね、姉様っ、あまり変なことおっしゃらないで!」
 ほほえみを浮かべる漬物石ちゃん。おそらくこの世で唯一鶏冠石が勝てない
相手なんだなと思う。
「それより、ちゃんと短冊は用意した?」
「え、ええ……」
 手に持っていた巾着袋から、短冊を1枚取り出す。
「へぇ、ちゃんと短冊なんて用意してたんだな。俺はすっかり忘れてた」
 というか、七夕なんてもう何年も気にしたことがない。
「……相変わらずですわね」
 なのに、鶏冠石はこちらに冷たい視線を送ってくる。
「まぁいいじゃないか。それより鶏冠石は何て書いたんだ?」
「か、勝手に覗き込まないで……まぁ、見られても減るものではありませんけれど」
 ……確かに。これは見られても構わないな。
 『マスターが真のマスター足りえる人物になれますように』
 うぅむ、ものすごく厳しい願い事だ。主に俺が。
「それじゃあ、その短冊を吊してもらいに……ケイちゃん?」
 差し出された手に短冊を渡す訳でもなく、手に持ったそれを鶏冠石はじっと眺める。
 ……なーんか、嫌な予感がしてきたぞ。
「……姉様、短冊の予備はありますか?」
「え? ええ……どうしたの?」
「いえ、この願い事を吊すのは適さないと思いましたので」
 漬物石ちゃんにほほえみを見せ、次に俺ににらみを向け……。
「これは願い事ではなく、マスターとの絶対なる約束にふさわしいと思いまして」
「え……」
 それは一体どういう意味だろう。
 いや、きっとろくな意味じゃない。絶対そうだ。
「マスター、この短冊は貴方が持っていてください。そして必ずそれを実現させること、
よろしいですね?」
「え? いや、それっていつもの事じゃ……」
「お黙りなさい。大体最近のマスターは……やめましょう。この続きは家に帰ってからじっくりと」
 七夕の夜、俺はお説教コースが決定したようだ。
 明日も仕事、早いんだけどなぁ……寝不足にならないだろうか。
「え、えっと、あまり【鶏冠石のマスター】さんに無理させないようにね」
 苦笑を浮かべながら、漬物石ちゃんが予備の短冊を鶏冠石に渡してくる。
「ありがとうございます、姉様」
「う、うん……あっ、【鶏冠石のマスター】さんもどうですか?」
 鶏冠石が絶対見せることはないであろう、可愛い笑顔の漬物石ちゃん。
 姉妹のはずなのに、ここまで性格に差が出るのはどうしてだろう……あ、ちょっと泣けてきた。
「そうだね、ちょうど願い事も出来たし。俺も書かせてもらうよ」
 漬物石ちゃんから短冊とペンを受け取る。
 書く内容? それはもちろんただ一つ。
「鶏冠石がもう少し優しく……」
「マスター」
「……家内安全っと」

          ◇

 私にふさわしいマスターになってもらうのは、当然のこと。願い事ではない。
 では、私が真に望むこと……。
『これからも、このマスターと共に……』
 ……これ以上書くのは止めましょう。
「なぁ、新しい方は何て書くんだ?」
「べ、別に、家内安全ですわ」

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