宝石乙女まとめwiki

乙女たちが生まれた日

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匿名ユーザー

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「どうしたの? あらたまって話がしたいなんて。珍しいこともあるものね」
  ペリドットのマスター君が訪ねてきた。相変らず、からかいがいのある可愛い顔をしている。
  こういう顔を見るとウズウズするのは年増女の性癖なのだろうか?
  いやいや、年増なんて思っちゃダメよ真珠。年月を重ねた真珠は大きさも輝きも増すのだから……。
「あの……」
「ああ、ごめんなさい。あがってちょうだいな」
  居間へ彼を通す。私のプライベートな場所だけど、彼ならいいだろう。
「で、何の話かしら?」
「実は、ペリドットの誕生日がいつなのか知りたいんです」
「あら、そんなことなの。なんだ……私はもっとドロドロした相談かと思って期待してたのに」
「そんな期待されても……昼メロじゃないんですから……」
「残念ね……」
  本当に残念だわ。私の知識と教養、そして美貌を生かせないなんて……まあ、しかたないわね。
「ペリドットの誕生日ねぇ。ねえ、それを聞いてどうするのかしら?」
「いやぁ、実はふだんのお礼も兼ねてプレゼントを贈りたいなぁ……なんてことを思いついたものですから」
「プレゼントねぇ。いいわねぇ。こんなにも想ってもらって。我が妹ながら嫉妬するわ」
「あ、あの、真珠姐さんの誕生日も教えていただければ……」
「いいのよ、気をつかわなくても」
  貴方が欲しいって誘惑したら困るでしょ。困った顔も見てみたい気もするけどね。
  いけないお姉様っていうのも、面白いかしらね。
  ま、あの娘が悲しむ顔は見たくないし、妄想だけで止めとくわ。
「誕生日ねぇ……正直言って記憶がはっきりしないのよね。なんせ昔のことだから」
「そこをなんとか。本人には聞きずらいことなもので」
「そうねぇ……日差しが穏やかな季節だったわ。草木が芽吹くころだったかしら。ちょうど今ごろね。木蓮の白い花に囲まれたなかで、ふっくらとした柔らかそうな頬と唇で、小さな女の子が眠っていたわ。私の膝の上で目を覚まして、オリーブグリーンの瞳をキラキラさせて、私を見上げてにっこり微笑んだのよ。『はじめまして、姉様』って、言ったわ。とても愛らしい声でね。いまの天河石より少し幼いくらいだったかしら……」
「そんなことが……」
「あったのよ……昔々の話だけどね。だから、正直なことを言うとね、いつ生まれたのかは私にもわからないのよ。ただ、私がベリドットのことを知ったのはそのとき。それからは姉妹で仲よくやってきたわ。ときどき、喧嘩もしたけどね」
「そうなんですか……」
「でもね、私たち宝石乙女には誕生日なんていう概念はないのよ。私たちは人に必要とされたから存在している。これはわかるわね? だから、必要としてくれるマスターと出合ったとき、それが私たちの誕生日だと言えるわ。貴方とあの娘が出会ってから半年が過ぎたわね。二人の関係も進展しているようで安心しているわ。これからも頼むわね」
「それはもちろんです」
  お酒を勧めたが丁寧に辞された。まっすぐに家に帰るなんて、愛妻家かしら?
「あまり役に立てなくて悪いわね」
「いえ、ペリドットの子供のころの話が聞けただけでも収穫ですよ」
「あ、そうそう。物を贈るのもいいけれど、時間を贈るっていうのはどうかしら?」
「時間ですか?」
「そう。たとえば、あの娘の庭園の仕事を手伝うとか。一緒に植物を育てるのもいいわね。野菜を収穫したり、木の実を拾ったり。私なら、自分のプライベートな時間と価値観を共有できる人がいると嬉しいわ。忙しい貴方でも、頑張ればなんとかできるでしょ? 女ってね、自分のために頑張ってくれる姿がたまらなく嬉しいものなのよ」
「なるほど……どうも僕は女心に疎いようでして……」
「本当にねぇ……」
「真珠さん、それフォローになってません……」
「あら、ごめんなさい」
  身支度を済ませて玄関へ向かう彼。いい男ね。
「最後に質問してもいいかしら?」
「なんですか?」
「貴方の目には、私はどう見えるかしら?」
「……綺麗ですよ。とてもね」
「……そう。ありがと」
「それがなにか?」
「いいのよ。こっちのこと」
  ふう……。
「今日はありがとうございました」
「いいのよ。またいらっしゃい。ペリドットといっしょでも、一人でも。お酒につき合ってくれる相手が欲しいのよね」
「か、考えておきます。それでは、失礼します」
  ふふっ、逃げられたか……そっか……見えないか……残念ね……。

    ◇    ◇    ◇    ◇
  真珠さんにも困ったね。あんなに色っぽく艶然と『貴方の目には、私はどう見えるかしら?』なんて聞かれたら言葉に詰まるじゃないか……しかし、おっそろしく綺麗な人だよな。マリリン・モンローが天国で歯軋りしてるよ。まったく。お酒が入ったら……見てみたいかも……。
  さて、家に帰ろうか。彼女が待ってるから。


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