赤い靴履いてた女の子
異人さんに連れられて行っちゃった――
異人さんに連れられて行っちゃった――
「ひとつ、ふたつ――」
細い指がおはじきを弾く。
丘の上の館に住む、緋色の髪に赤いドレス、赤い靴の女の子。
「はい、わたくしの勝ちですわね」
大人の目を盗んで忍び込んだ館で、時折遊ぶようになった。
彼女は姉のように私たちを叱り、共に遊んでくれた。
細い指がおはじきを弾く。
丘の上の館に住む、緋色の髪に赤いドレス、赤い靴の女の子。
「はい、わたくしの勝ちですわね」
大人の目を盗んで忍び込んだ館で、時折遊ぶようになった。
彼女は姉のように私たちを叱り、共に遊んでくれた。
――今となっては、そのとき彼女がどのような声で話したか、どのような姿だったかはおぼろげにしか思い出せない。
――燃えるような緋色の髪と、赤い姿だけが、印象的だった。
――燃えるような緋色の髪と、赤い姿だけが、印象的だった。
「お別れですわ」
別れの日のことは、はっきりと覚えている。
凛とした姿で、淡々と別れを告げる彼女。
耐えられなくなって泣きついた私を、優しく抱きとめてくれた。
「いい子にしていたら、いつかまた会えることもあるでしょう。わたくしは、あなたよりほんのちょっと、長生きですから」
頭を撫でてそう言った彼女は、立派な老紳士に連れられて、波止場から船に乗って異国へと旅立った。
別れの日のことは、はっきりと覚えている。
凛とした姿で、淡々と別れを告げる彼女。
耐えられなくなって泣きついた私を、優しく抱きとめてくれた。
「いい子にしていたら、いつかまた会えることもあるでしょう。わたくしは、あなたよりほんのちょっと、長生きですから」
頭を撫でてそう言った彼女は、立派な老紳士に連れられて、波止場から船に乗って異国へと旅立った。
「――幼い日の私は、船が見えなくなるまで見送ったんだよ。彼女の赤い髪が見えなくなるまでね」
祖父の話はいつもここで終わり。
「じいちゃんの初恋だよな」
「これ、年寄りをからかうな……ああ、もうこんな時間か。あの子に声をかけておいで、お茶にしよう」
「うっす」
俺は庭に出た。
祖父の趣味で建てた洋館の中庭は、邪魔くさいくらいに草花が生い茂っている。
花の合間に見え隠れする緋色。
「鶏冠石! お茶にしようぜ」
「あなたもマスターの孫なのですから、お爺様を見習ってもう少し言葉遣いに気をおつけなさい……今、参りますわ」
そう言って微笑む彼女の姿に、俺はいつも目を奪われる。
「……じいちゃんがライバルってのも、あんまり聞かねーよなあ……」
「何かおっしゃいました?」
「いーや。参りましょうか、お嬢様?」
じいちゃんにはぜってえ負けねえ、と心に誓って、俺は愛しい緋色に手を伸ばした。
祖父の話はいつもここで終わり。
「じいちゃんの初恋だよな」
「これ、年寄りをからかうな……ああ、もうこんな時間か。あの子に声をかけておいで、お茶にしよう」
「うっす」
俺は庭に出た。
祖父の趣味で建てた洋館の中庭は、邪魔くさいくらいに草花が生い茂っている。
花の合間に見え隠れする緋色。
「鶏冠石! お茶にしようぜ」
「あなたもマスターの孫なのですから、お爺様を見習ってもう少し言葉遣いに気をおつけなさい……今、参りますわ」
そう言って微笑む彼女の姿に、俺はいつも目を奪われる。
「……じいちゃんがライバルってのも、あんまり聞かねーよなあ……」
「何かおっしゃいました?」
「いーや。参りましょうか、お嬢様?」
じいちゃんにはぜってえ負けねえ、と心に誓って、俺は愛しい緋色に手を伸ばした。