宝石乙女まとめwiki

偉大なるいし

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jewelry_maiden

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だれでも歓迎! 編集
  まぁ、何というか……別におかしな光景じゃない。
  だいたい名前がそうなんだから、彼女がやっていることのは正しいことなのだ。
「な、なぁ漬物石……それ、ずっと乗ってなきゃいけないのか?」
「マスターに美味しい漬物を食べてもらうためですから」
  夕食後、居間でのひとときにちょっとしたスパイス。
  漬物石が、木の樽に乗っかっている……漬物石として。

  もとはといえば、俺の軽率な発言が全ての発端だった。
  『漬物、最近あんまり食べなくなったな』
  確かそんな感じのことを呟いたのだ、最近酒の肴で出してもらえなかったのが寂しくて。
  そしたら漬物石、いつも通りゴメンナサイスパイラル発動したと思えば、今度は部屋の中で樽に座っている始末。
  ちなみに樽自体はそれほど大きくない。家事のほとんどを俺がやらなければならないというリスクはあるが、まぁ料理のときは台所に運んでやればいいから別に気にすることでもない。
  だが……。
「つ、漬物石、寝るなら布団で……」
「んぅ……はっ、ね、寝ませんっ。寝ていませんっ!」
「張り切りすぎだろ。別に漬物石自身が乗っている必要はないような気も……」
「こ、こうした方が美味しくなります……んぅ」
  さっきから首を上下に振っている漬物石。
  この体勢になって丸二日、飯は食っても寝てはいないのだ。
  人間ならば絶対できない、宝石乙女ならではの荒技といったところか。
「私の微妙な重さ加減は、お父様がわざわざ漬物石を美味しくする最高の重さにしてあるんですよ」
「そ、それは分かったから……でも身体に障るぞ、ちゃんと寝ないと」
「あ、あと一日ですっ。あと一日がまんしゅれば……くぅ……はっ!」
  ……やばい、ちょっと面白い。
「うぅ~……ま、マスターっ、コーヒーお願いします!」
「お、おいおい、お前コーヒー飲めないだろうが」
「こういうときこそあのにがーい飲み物に頼るのが一番ですからっ。お願いします!」
  まぁ、漬物石がそこまで言うなら……。
  とりあえず台所へと向かう。
「とびきり濃いの、お願いしますっ」
「はいはい。あーもぉ、どうなってもしらないからな……」
  漬物石の要望通り、とびっきり苦いコーヒーを用意してやる。
  しかし大量の砂糖とミルクも用意しておく。せめてもの気休めになれば……。
「ほら。とびきり苦いから、気をつけろよ」
「ありがとうございますっ」
「って、言ってるそばから一気飲みするな!」
  ……あ、顔が青ざめた。
  でもここで吹いたりしたら乙女としてはしたない……あ、ちゃんと全部飲んだ。
「……きゅぅ~」
「って、目ぇ回すな! 漬物石っ、気を確かに!!」
「い、今……お星様が見えましたぁ……はうぅ」
  星が見えても樽から降りないあたり、かなり気合いが入ってる。
「って、感心してる場合じゃないって。ちょっと待ってろ、今甘いお菓子持ってくるから」
「あうぅぅぅ……」
  とりあえず、あいつの好きな饅頭で良いよな、あんこの詰まったとびきり甘い奴。

「本物の漬物石は、やっぱりすごいですね」
「とか言いながら結局降りないお前も充分すごいぞ」
  一騒動の後、二人列んで座って夜を過ごす。
  いつもより高い視線の漬物石に、ちょっとだけ違和感。
「でも、マスターが漬物少ないって言ってくれたとき、すごく嬉しかったんですよ。マスターが私の作った漬物、そんなに楽しみにしてくれていたっていうことが分かって」
「それで張り切った、ということか」
「はい。マスターに喜んでもらえる漬物を作れるなら、苦労は惜しみません」
  ……相変わらず、嬉しいことを言ってくれるな。
「でも、もうあんな苦い飲み物は二度と飲みません……うぅ、口の中が」
「そりゃあ自業自得だろ……くくく」
「わ、笑わないで下さいっ」
「そうは言ってもなぁ。吹かなかったのは偉かったぞ……フフフ」
「まっ、マスターっ。もう知りませんっ」
  そっぽを向いてしまう漬物石。少しからかいすぎたか。
「とりあえず、美味い漬物期待してるからな。でも身体には気をつけてくれよ」
  漬物石の頭を、軽く撫でる。
  すると、さきほどまでそっぽを向いて拗ねてた顔が、一気に笑顔になって。
「はいっ」
  と、相変わらずのいい元気。
  ……ホント、退屈しないんだよなぁ。この顔を見てると。

  次の日の朝食……。
「マスター、今日の漬物はどうですか?」
「うん、漬物石が頑張っただけのことはあるな、すごい美味い」
「えへへ……よかった……くぅ」
「……ホント、よく頑張ったな」
  その後、漬物石が目を覚ましたのは日が暮れるころだったのは言うまでもない。


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