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木漏れ日の下で

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  穏やかな陽。柔らかな風。暖かな陽射しに包まれた昼下がり。庭先にテーブルセットを持ち出す二つの影。
  一つは紫の髪に紫の瞳を持った、可愛らしいというよりは凛々しいといった言葉の似合う少女。一つは水色の髪に純白の服を纏った儚げな少女。二人はとても親しげに話しながら着々とセッティングを進めていく。
  テーブル類のセットは終わったのか、二人の少女は屋敷へと戻っていく。いくばくかの後、水色の少女は湯気の立ち上る二つのカップがのったお盆を、紫の少女は黒と白の格子模様をした横長の箱を携えて戻ってくる。
  二人はテーブルの上にそれらを並べ、箱から32個の駒を取り出し、箱を開いてテーブルの中央に置いた。各16個の駒を、二人は手際よく自陣に並べていく。
  水色の少女は白の駒、紫の少女は黒の駒を。並べ終えたところで、二人して紅茶を一口すすり、紫の少女が切り出した。
「それじゃあ、はじめようか」

  カチリ  コト  コトリ
  二人とも腕が確かなのだろう。序盤から中盤にかけて、さほど長い間隔をあけずに、且つ迷いなく駒を進めていく。若干ではあるが水色の少女の方が思考が長い。
  カチ――白のビショップが盤の中央に。
  コト――黒のナイトが進む。
  コトリ――白のルークが位置をずらし。
  カチ――黒のポーンが前進する。
「チェック」
  紫の少女が宣言する。ポーンに進路を邪魔されていたビショップが、射程にキングを捕らえたのだ。
  水色の少女は白のキングと黒のビショップの間、キングの斜め前方にナイトを置くことでその場をしのいだ。
  紫の少女はルークを使い、逃げ道を狭めてゆく。
  水色の少女は腕を止めた。先を、さらに先を見据えるように。
  ……かなりの時間の後、水色の少女は手を動かした。手に取ったのは、白のクイーン。それを、盤面の中央付近に置く。
  それを見た紫の少女は驚いた。予想すらしていなかった奇手にして形勢逆転の一手だったからだ。
  その後はなし崩しだった。優勢だった紫の少女の陣形は崩れ、劣勢だった水色の少女の軍勢は勢いを増した。
「あっはっはっは。してやられたな、あの一手には」
  負けたにもかかわらず、紫の少女は笑っていた。
「ふふふ、本当に。自分でも驚いているくらいです」
  水色の少女も笑っていた。
「これでやっと、五分五分に持って来れました」
  水色の少女はとても嬉しそうにそう言った。
「はぁ、とうとう追いつかれたか」
  紫の少女は、悔しいような嬉しいような複雑な表情を浮かべていた。それをきっかけに、二人の少女はしばしの間、笑いあった。

  柔らかな陽。穏やかな風。やや冷たい空気に包まれた昼下がり。庭先に出されたテーブルセットに座った二つの影。
  一つは紫の髪に紫の瞳を持った凛々しい少女。一つは黒い髪に黒いマントを羽織った快活そうな少女。二人はただ木漏れ日の下で会話をするでもなく佇んでいる。
「ねぇ、アメジスト」
  黒い少女が切り出した。
「なんでテーブルセットなんて庭先に出してるの?」
「あぁ……単なる気分転換さ。たまにはいいじゃないか、外で茶を飲むというのも」
  紫の少女はカップを口に近づけつつ、何とはなしに答える。
『月長石が外出していた隙を狙って行ったことだから、月長石が覚えていない……いや、知らないのも当然だ。思えば、あれ以降彼女とチェスをしていなかったな』
  紫の少女はカップを口から離し、口を開いた。
「なぁ、月長石」
「ん~、なに?」
「チェスの相手を……してくれないか」

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