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君の笑顔を守りたかった

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匿名ユーザー

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  それは、遠い昔のお話。

  小さな妹と兄の、仲のよい兄妹。けれど、妹はあまりにも早く天に召されてしまった。
  嘆き悲しんだ兄は、その姿をうつして人形を作った。妹の分まで幸せに生きるように。
  そして長い時が流れ、人形は今日も幸せに笑っている。

「お掃除、お掃除~……失礼します、マスター」
「やあ、ご苦労様、黒曜石」
  読んでいた古い本を閉じて、青年は黒曜石に笑いかけた。
「書斎もそろそろ思い切ってお片づけしてはいかがですか? 本棚に入りきらないご本がこんなに……」
「ははは、そのうちね」
「もう、いつもそうやってのばすから片づかないんですよ?」
  ぷっと黒曜石が頬を膨らませる。
「はいはい、さて、お茶でも飲んでこようかなー」
「じゃあ、私はここをちょっとお掃除してから参りますね」
「うん、ありがとう黒曜石」

「よいしょ、よいしょ……あら? 何か落ちちゃった」
  積まれた本の間から、何か紙が落ちた。
「写真……いえ、肖像画かしら」
  古ぼけた紙に、一人の少女の姿。まっすぐな黒髪を肩で切りそろえ、愛らしい笑みを浮かべている。
  どこかで見たことがあるような気がして、黒曜石はまじまじとその絵を見つめた。
「うーん……?」

  “お……様”
  ノイズのようなものが意識に混ざる。急にめまいを覚え、手をつく。

  “お父様”
  ……何を、してたんだっけ。

  『忘れなさい』
  ”いや”
  そうだ、お掃除をして……

  『悲しいことは忘れてしまいなさい』
  ”忘れたくないの”
  ……マスターと……

  『いつまでも笑っていて』

「――黒曜石?」
  声をかけられて、黒曜石ははっと我に返った。
「あ、ごめんなさい、マスター。お掃除終わったから今行きますね」
  にこにこと屈託なく笑う。
「うん、お茶の用意できてるよ」
「はぁい」

「……まいったな」
  青年は床に落ちた紙をつまみあげた。
「見られちゃったか……暗示がきいてたかな?」
  そっと古い本の間に紙を戻す。
「忘れるってのも残酷なものですよ……父さん」
  写し絵は、夭折した、会ったこともない叔母の姿。
「僕は黒曜石を幸せにしてみせます……忘れさせるなんて、させない」
  青年は祈るように、古い本に語りかけた。
「マスター? まだですかー?」
  愛しい声が呼ぶ。
  願わくば、偽りの幸せではないように。
「今行くよ、黒曜石」

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