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うそつき

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匿名ユーザー

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  帰りが遅くなるのはよくあることだ。時刻は午前1時……くそっ、アホの後輩がヘマさえしなければ……。
「ただいまー……」
  案の定、うちの食客二人はすでに就寝済みだろう。しかし、真っ暗な家に帰るというのはどうもいい気分ではない。不気味だし、寒々しいし。
  ……文句を言っても始まらない。とっとと飯食って寝てしまおう。もちろん晩飯はコンビニ弁当。最近のは美味しくなったが、家で作ってもらう飯に比べたら味気ない。コンビニ主食時代には分からなかったことだ。
  廊下を抜け、居間の明かりを点ける……あれ?
「珊瑚?」
  テーブルがピンク色の塊に覆われていて一瞬驚いたが……何とも珍しい、珊瑚がテーブルに突っ伏して居眠りをしていた。人形だから風邪を引くことはないだろうが、珊瑚は意外と薄手のドレスのためか、寒そうに見えて
仕方ない。見てるこちらも背中に寒気が……。
「何やってるんだか……おい、起きろー」
  珊瑚のかたわらに座り、彼女の肩を揺する。髪の毛に隠れていた横顔が、その姿を現す……。
「ん……ぅ」
  ……可愛い寝顔だった。というか、珊瑚ってこんな子供っぽい顔して寝てるんだな。少し意外だ。
  それにしても目を覚ます気配はない。まぁ、眺めていて悪くない光景なので、放っておいてもいいのだが……。
「……うりうり」
  こういう顔を見ると、イタズラをしてみたくなるのが世の常。とりあえず頬をつんつんしてみる。
「むぅ……主ぃ、やめろぉ……」
  夢の中でも俺が何かやっているようだ。しかし寝言とはな。これは明日が楽しみだな。
「おりゃー」
「ぅー……」
  おぉ、よく伸びる頬だな。
「けっこう楽しいなぁ」
「……っ」
  のど元をくすぐってみると、今度はくすぐったそうに体を一瞬震わせる。よし、次は何を……そう思ったとき、今度は俺の腹が盛大に鳴り響いた。とりあえず飯を食おう、うん。

  俺が隣で飯を食っている間、結局珊瑚が目覚めることはなかった。よくこんな明るい場所で寝てられるな……さすがに少し感心してしまう。
  だがこのまま放置しておくわけにもいかない。とりあえず起こすなりなんなりしてちゃんと寝かせてやらなければ……。
「主ぃ……いい加減に……しろぉ」
  また寝言。しかも夢の中の俺は何をやっているんだか。
「顔……近いぞぉ……主ぃ……」
  キスでもしようとしてるのか、夢の中の俺は。つーか、先の一件以来俺は変人扱いですか、そうですか。なんか悔しいぞ。
「ダメ、だぁ……んぅ……」
  ……なんだ?
「んー……ぅ」
  ……なんで、俺こんなに悶々としてるんだ?
「ある、じ……んぅ……」
  ……たかが寝言で、何でだ?
  だがその寝言が止まり、部屋を珊瑚の寝息だけが包む。横目で再び珊瑚の寝顔を見つめる……先ほどと変化のない、実に可愛いというか萌えというか、そんな寝顔。
「……くそっ!」
  自分の頬に平手を放つ。
  今、俺は確かに自分の顔を珊瑚の顔に近づけていた。馬鹿野郎、そんなことやっていいわけないだろ。そんな卑怯なこと……アニメみたいに直前で目ぇ覚ましたら、俺本気で殺されるだろうが! そんなアホな死に方まっぴら御免だ!!
「珊瑚っ、起きろー。ちゃんと自分の寝床で寝ろっ」
  先ほどよりも強く、珊瑚の肩を揺する。
「ん……主?」
「目、覚めたか?」
「あぁ……んぅ、こんな時間か」
  時計を横目に、珊瑚が呟く。
「いつ帰ったのだ?」
「1時ごろ」
「……それからずっと、ここにいたのか?」
「飯食ってたからな」
「そうか……寝顔、見られたのか」
  予想通り、珊瑚の顔が赤くなる。だがここで煽ってはいけない、命が惜しければ……。
「何も、しなかったか?」
「お前は俺を何だと思ってるんだ……」
「変人の気がある主だ」
「……何もしてねぇよ!」
  なんだかすごく悔しかった。確かにイタズラは少しだけしたが。こんなことならキスの一つや二つ……いやいや、やめておこう。
  しかし何だ? さっきからこっちをちらちらと……。
「……主は、嘘つきだ」
「え……?」
  やべ、イタズラしたのバレてたのかっ。
「……何でもない。主、ちゃんと寝るように。おやすみ」
  手刀の一発が来るかと思ったが、なぜか珊瑚は顔を赤らめたまま居間から出て行ってしまう。何なんだか……まぁ、あいつのチョップ痛いからな、何ごともないのはいいことだ。少々腑に落ちないけど。
「んー……おやすみぐらい顔見て言えよー。おやすみ」
  とりあえず、ドアの向こうにいるであろう珊瑚に、それだけは告げておいた。

「……あれだけ顔を近づけておいて……それなら、最初から何もするな」

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