宝石乙女まとめwiki 金剛石のご褒美は

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「そうです、その感じです。今の感じを忘れないでください」
  金剛石のその一言でいったん区切りがつく。ボクは一気に空気を肺に流し込む。
「ぜっ! はっ、はっ……ふ……そう……かな……よくわからなかったけど……」
「いい感じでした。お世辞じゃなくマスターは飲み込みが早いですわ」
「はっ……は、はは……そう言ってもらえると嬉しいよ」
  やっと息が整ってきた。
  金剛石に護身術を教えてもらって3ヶ月になる。最初は体力作りが目的だったのだが、最近は組み手メインで相手をしてもらっている。やるにつれて、上達するにつれて楽しくなってきた
「それじゃあ、マスター。お昼からは手合わせしてみましょうか」
「……え? ……いまなんて?」
「マスターもだいぶ上達してきたみたいですし、一度真剣勝負してみませんか、と」
「無理無理無理無理!」
「そうですか? 結構いい勝負ができそうなんですけど」
「いやー無理だよ、金剛石にはかなわないって」
「そうですか……私から1本取れたら、何かご褒美を差し上げようと思っていたのですが……」
「やらせていただきます」
  即答した。絶対に1本取る。死んでも取ってやる!

  午後の日差しが窓から入ってきて、板張りの床がその光を反射している。その光の向こう側に金剛石が立っていた。
「それでは、お願いします」
  にこやかに金剛石が笑い、頭を下げる。
「お願いします」
  こっちにはそんな余裕なんて欠片もない。意地でも1本取るのだ。
  お互い前に進み出て、構える。金剛石は軽く足を開き、左手のひらをこちらに差し出している。ボクもそれに習うように右手を前に出す。金剛石に教えてもらったのだから似るのはしかたがない。
「……来ないのなら、こちらから行きますよ」
「お、お願いします」
  阿呆か、オレは……くすりと金剛石は笑う。
「それじゃあ――」
  目の前で声がした。
「――遠慮なく」
  一瞬にしてボクの懐に金剛石が潜り込んできた。
  やばい!!
  ボクはとっさに体をねじる。その瞬間、ボクが今までいた空間を金剛石の掌底が切り裂いた。
「いい反応です」
  金剛石が笑ったかと思った次の瞬間、目の前にはすらりと伸びた足首が迫っていた。首を反らしてそれをかわす。間一髪、首の皮一枚で逃れたが、追撃は終わらない。回した足を利用し回転を加えて第二撃、三撃が迫る。ムリだ、こりゃ。かわすことを諦め頭部をがっちりガードする。意識を持っていかなければどうにかなるかも……。
  ゴギん!!!! 
  そんな甘い考えを一蹴する一撃が入った。盛大にぶっ飛ばされ、床を転がる……痛ぇ。
「あら……強すぎましたか?」
  この野郎……。
「そんな……ことは……ないさ」
  肩で息をしながら答える。説得力なんてこれぽっちもないが、一本取るまで床に這いつくばるつもりはない。絶対に一本取る!
  は、すーぅ……息を吸い込む。まっすぐに金剛石を見据え、そして一気に突っ込んだ。
「直情的で大変よろしいですわ」
  ボクの拳を軽くいなし、そこを軸に半回転して裏拳を打ち込んでくる。よろしくないっつーの! ボクは前に行く勢いを利用し、その場で腰を落として回転した。金剛石のわき腹にむけてかかとを飛ばす。
「!!」
  一瞬、金剛石の驚いた顔が見えた。
  がっツン!!
  裏拳の体勢だった金剛石の脇腹にボクの蹴りがカウンターでヒットした。金剛石の体が後方へ舞う。
  やばい、思い切りやっちゃった。実際の話、当たると思ってはいなかった。一本取ると躍起になっていたが、勝てるわけないと思っていた。
「金剛石、大丈夫かい!?」
  と、前に進みでようとして、ずきりと足が痛むことに気づく。
「っつ……」
「さすがです、マスター」
  何ごともなかったかのように金剛石が立っている。こいつしっかりガードしてたな……。
「少々本気でいきます」
「本気で、って――」
  そこまで言って息を呑む。プレッシャーが違う、マジかこれ……喉が鳴る。汗で視界が霞んだ。
  金剛石の姿が揺らめく。とっさにしゃがむ。その頭上を金剛石の拳が貫く。
「いい反応です」
  勘だっつーの! しゃがんだボクに向かって蹴りだされた足をクロスガードで受ける。後方へ飛ばされるが、これで間合いをとって仕切りなおす。しかしすごい力だ。大の男を蹴り一発でここまでふっ飛ばすかね。
「マスター、やっぱり筋がいいですわ」
  追撃せず、金剛石は嬉しそうに笑う。
「そうかな……ありがとう」
  ボクが言い終わるのが先だったか、金剛石がボクの懐に入るのが先だったか。目の前にいた金剛石の姿はなく、胸元で旋風が走る。
「油断、大・敵・ですわ」
  ドズンっ!!!! ドがしゃーーーーーーん!!
  ボクは盛大に吹っ飛び、壁に突っ込んだ……らしい。実際にはほとんど記憶がない。ただ金剛石が最後に
「ヒートエンドですわ」
  と呟いたのだけ、うっすらと覚えている。

「申し訳ございません」
「いや、いいよいいよ」
  ボクはベッドに寝ていた。体のあちこちがギシギシいう。金剛石は心配そうにこっちを見ている。
「私、つい調子にのってしまって……マスターが予想以上にできたので……手加減もなく……」
「いいっていいって……結局一本取れなかったし……」
  ぼそりと呟く。
「あ、でも、途中の回し蹴りは危なかったですし……一本取られてもおかしくありませんでしたわ」
「……でも……一本じゃないし……」
「本当に上達されましたし、一本じゃなくてもご褒美は差し上げようと……」
「ホントに!!!」
「えぇ……今日はマスターの大好きなシチューですよ」
「……え?」
「え? シチューじゃない方がいいですか」
「いや……そうじゃなくてね……まぁそんなことだろうとはうすうす思ってましたよ、でも夢を追い続けた漢を笑わないでください……」
「?」
  うなだれるボクを、金剛石は不思議そうに見ていた。

  金剛石のシチューは美味しそうだったが、ボクは3日間、まともにご飯を食べることができなかった……流し込んだけどね。