宝石乙女まとめwiki 鶏冠石と暮らす日々

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「はぁ……」
  最近どうもうまくいかない。バイトも先輩に迷惑かけてるし、学校だって……。
「なんかダメだな、俺」

「ただいまー」
「おかえりなさいませ、随分と遅いおかえりでしたわね」
「あぁごめん。 俺今日は晩飯いらないからさ、先風呂入って寝るよ」
「? どうかなさいましたの?」
  鶏冠石の気遣いが、今日はやけに癇に障った。
「別に何にもないよ。 悪いけど飯は勝手に食ってくれるか?」
「それは別に構いませんわ。 でもその……」
「ほっとけって! 何もないって言ってるだろッ!?」
「っ!?」
  ヤバ……いつもの鶏冠石の小言が始まっちまう……。
「わかりましたわ、ごめんなさい。 それでは晩ご飯の支度をしますので。 ごめんあそばせ」
「……じゃ俺も風呂入るから」
  なんだよ……こんな時は何もなしかよ……。

  ザーー……シャワーの音で外の雨の音も聞こえなくなる。熱いお湯を浴びたら自己嫌悪に陥ってしまった。
「鶏冠石に怒鳴ったのなんて初めてかな……」
  今回はどう考えても俺が悪い。悪いけど……どうしろってんだよ。
「くそっ! なんでうまくいかないんだ!? 俺が悪いのかよ……?」
  髪も適当に拭いて部屋に籠る。眠れない。自然と、明日鶏冠石と顔を合わせたときのことを考えてしまう。そんなとき、扉をノックする音が響いた。
「あの……まだ起きていらっしゃる?」
「なんだよ?」
  ダメだ……感情に抑えがきかない。
「お粥を作りましたの。少しは何か胃に入れないと……」
  俺のために作ってくれたのか? 体調でも悪いと思ったんだろうか?
「いらない。 もう少しで眠れるところだったんだけど」
「……」
  ドア越しでも鶏冠石が息を飲むのが分かる。もう感情を吐きだすことしかできなかった。
「なんだよ!? いつもなら言い返してくるだろ!? そんなに今の俺は惨めなのか!!?」
「そ、そんなことありませんわ!」
「じゃあなんで言い返さないんだ!? こんな時だけ親切ぶりやがって……別にお前が作ったお粥なんて食いたくねぇ!!」
「な!? 私は心配して――」
「余計なお世話なんだよ!!!!」
「っ……大きな声で……叫ばないでください……」
  なんだよ……! なんでいつもみたいに……。
「……心配です」
「?」
「心配するのも……迷惑ですか……?」
  鶏冠石の言葉に、胸がズキリと痛んだ。
「最近様子がおかしいのは薄々感づいていましたわ……もう一緒に暮らし始めて結構な時間になりましてよ」
「……」
「私には何もできませんわ……今も怒らせるだけ。でも……心配なんです」
  ……俺は、馬鹿だ。それもとびっきりの大馬鹿だ。鶏冠石が人に同情なんかするか? いや、絶対にしない。あいつは、どんな人間にも一対一でちゃんとぶつかってくれる。それに……人の気持ちも考えられる繊細なヤツだ。今だって泣いてるかもしれない。っていうか絶対泣いてる。
  俺は大馬鹿だ。
「お粥は置いていきますわ……お口にあわないかもしれませんが、少しでも……」
  バタン!
「きゃッ!」
  珍しい。鶏冠石がびっくりしてる。いつもの赤い髪飾りと髪が眩しい。でも……それ以上に真っ赤になった目が俺の胸を締めつける。俺には怯えている鶏冠石なんか見てられない。
「ごめん! お粥……下で食うよ。いいかな?」
「……い、いいに決まってますわ!! 大体この家の主はあなたでしょう!?」
「はは、そうだな。 じゃこれは俺が運ぶから」
「あ……それはもう冷めてしまってますわ。 もう一度作り直し……」
「いいんだ。せっかく鶏冠石が作ってくれたのにさ。これは残せない」
「!! 別にそんな大層なものではありません!! そんなに冷めたお粥が食べたいならどうぞお食べなさい!」
  もう大丈夫だ。俺には鶏冠石がいた。それだけで大丈夫だったんだ。
「鶏冠石さ、とりあえず顔洗ってきたら?」
  鶏冠石といるだけで心に余裕ができることはわかっていた。
「っ! もう知りませんッ!!」
  いつの間にか俺の心には鶏冠石の居場所ができていたんだ。
「あぁ、後さ……その、ありがとな」
  鶏冠石になら、本心も言える。
「……別に私は何もしていませんわ。それに、あなたは私のマスター。しっかりしてもらわないと困りましてよ?」
  俺は鶏冠石に出会えた。かなりの幸せ者だ。
「あぁ。約束する。もう絶対泣かせないから」
「泣いてなんかいません!!」
「そういうことにしとくよ。じゃぁお粥食ってくる」
「せいぜい感謝して口にすることね。こんなこともう二度とありませんわよ」
「わかってるよ」
  辛いことがあったらまた鶏冠石に甘えることがあるかもしれない。でも、もう鶏冠石の涙を見なくてすむように、俺は強くなりたい。
「おーし! 明日のためにもしっかり食うか!」
  明日からも鶏冠石との日常があることを思い、俺はまた歩きだした。
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