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夕焼け

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匿名ユーザー

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  夕方になるともう驚くほど涼しいことに気づく。自室で本を読んでいると静けさが心地いい。
「ちょっと目が疲れたかな……電気つけるか」
  ふと外を見た私は、それがどれだけ愚かな考えだったか痛感することになった。
「おーい鶏冠石」
「なんですの? 私は忙しいの。用件を簡潔に述べなさい」
「……まぁいい。ちょっとこっちこいよ」
「え、ちょっと! エスコートするのならもう少し丁寧になさい!!」
  鶏冠石の手を取り自室まで急ぐ。後ろで何か言ってるのはこの際シカトだ。自室に着くとすぐに窓を指差す。
「ほら、スゲー綺麗だろ?」
「まったく、何が――まぁ……これは……」
  夕焼けが森に沈んでいく、世界が朱に染まっていく瞬間。
「もうちょっとすれば紅葉も色づいててもっと綺麗かもな」
「……」
  って聞いていない。鶏冠石はまるで彫刻になったかのように、美しい微笑みを携えて窓の外の景色を眺めていた。
  やっぱり凄く鶏冠石に合う景色だった。あの朱を見た時、すぐに鶏冠石の顔が浮かんだのは間違いじゃなかった。
「……」
  なんかちょっと良い雰囲気かも……一瞬そんなことも思ったが、今は無粋なことはできそうもない。何より俺が一番この景色(鶏冠石入り)を楽しんでるわけだし。
「……」
  もうだいぶ暗黒に近い朱になってきてしまった。俺は別に普段景色とか風情を楽しんだりする感受性なんて持ち合わせていない。でも今だけは少しセンチメンタルな気分になってしまった。
「マスター」
「ん? んっ!?」
  俺の唇に柔らかいものが重ねられる。
「これは素晴らしい景色を紹介してくださったお礼です。そうね……また、紅葉の美しくなる時期にもう一度見たいわ」
「そ、そうだな。そん時はまた鶏冠石に知らせるよ」
「その時にはもう少しセッティングをしておきなさい。しっかりと私を満足させるように」
「ちぇ、わかったよ」
「それでは、ご機嫌よう」
  鶏冠石が部屋から出ていく。まだ唇に柔らかい感覚が残っている。部屋が赤暗くてよかったと思う。きっと今の俺は恥ずかしいくらい顔が真っ赤だ。
「今度はお茶でも出すか……」
  さっきまでの雰囲気の余韻に浸りながらそっと呟いた。

「アレはお礼なのよ! 別にそれ以上の意味があるわけではありませんわ!」
  顔をジャブジャブ洗う。さっきの夕焼けよりも赤くなってるんじゃないかと思うくらい真っ赤。
「思わず雰囲気に流されてしまいましたわ……この鶏冠石とあろうものが……」
  もしかしたら顔が赤いのに気づかれてしまっただろうか?
「そもそもなんで私があんな……本来ならば殿方からするべきでしょう!! そうよマスターが根性なしだから私が代わってあげただけ! ただそれだけですわ!!」
  私は真っ赤なままの顔をひたすら洗い続けた。

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