宝石乙女まとめwiki

変わった人

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
  別に用事があるわけでもない。
  あの姉……置石とケンカした訳でもないし、別に嫌なことがあったわけでもない。ただ散歩がしたかっただけ。
  相変わらず唐突だねと、置石は言う。
  そう、唐突なのだ。何故か唐突に外へ出たくなったのだ。
  そして、今はこうして河川敷の階段でぼんやりと座っている。
  こういう唐突だったり、気まぐれの行動。時にそれが妙なことを起こす。

虎「……うまい」
  拾ったお金で、自動販売機で試しに買ってみた何とかペッパーなる飲み物を飲んでみる。なかなかの味だ。
  しかし今日はいい天気だ。人間だったら日焼けという現象に注意しなければならないと思う。
  でも雲は遠い。雲が遠いと秋、そして冬が近いと言う。
  私は日本で初めて四季という物を見た。花が咲いたり雲がすぐ近くに感じたり、山が赤くなったり白くなったり。
  見ているだけで面白い。素直にそう思う。
??「あだっ!」
  背後から人間の声。転んだのかどうか分からないが、かなり間抜けな声だった。
  そして、私の隣に何かの本が落ちてくる。おそらく後ろで転んだ人間の私物だろう。
  私はそれを手に取る。本のタイトルは……難しい漢字は読めないが、宇宙というのだけは読めた。
  開いてもどうせ読めそうにはない。でも表紙だけをめくってみる……。
??「ごご、ごめん! 本ぶつかったりしなかった?」
  背後に人の気配。振り返ると、先ほど転んだであろう人間が立っていた。額には青あざ、オマケに鼻血。顔面から転んだようだ。
虎「大丈夫」
  本を閉じ、人間に手渡す。
??「ありがとう。でさぁ、ティッシュか何か持ってないかな? 顔こんな状況でさ」
  鼻血。拭かなければ人前には出られないだろう。
  でもあいにく持ち合わせはない。あるとしたら……。
虎「……これ」
  ハンカチ。
??「え、いやっ、さすがにそれはなぁ……血がついたら汚いよ?」
虎「……血って、汚い物なの?」
  知らなかった。単なる赤い液体だと思っていたのだが。
??「え……いや、まぁ……普通常識じゃない?」
虎「常識はあまり知らない」
??「……」

??「へぇ、人間じゃない……って、はぁ!?」
  私が宝石乙女ということを説明すると、早速この反応が返ってきた。
虎「驚くほど珍しくない」
??「いや、だって! ロボットでもない普通の人形が何でっ」
虎「普通の人形じゃない。宝石乙女」
??「……で、でもさ、どう見たって普通の女の子……って、爪伸びた!? 危ない危ないっ!!」
虎「そういうこと」
  別に隠すようなことでもないのに、何でそんなに驚くのだろうか。蛋白石なんてあんな格好でいつも外に出てるのに。
虎「それより鼻血。早く拭いた方がいい」
  汚い物というのは人間にとってのことなので、私には関係ない。ハンカチを差し出し、拭くように急かす。
  でもこの人間はなかなか手を出そうとしない。なんだか戸惑っているようだが。
  仕方ない。立ち上がり、彼の前に立つ。
??「いや、だってねぇ……!?」
虎「動かない」
  彼の鼻から垂れる血を拭く。乾き始めているらしく、後から流れてくるようなことはなかった。
??「……変わってるね、君」
虎「よく言われる」
  やっぱりねと言わんばかりの苦笑いを浮かべる人間。
虎「……虎目石」
??「え?」
虎「名前。虎目石って言う。あなたの名前は?」
??「ん、あぁ……って、虎目石って変な名前だな」
虎「あまり変じゃない、似たような名前のがいっぱいいる。それよりあなたの名前」
悟「あぁ、俺の名前ね。悟郎だよ、星野 悟郎」
虎「悟郎」
悟「そ、悟郎」
  大学という場所の帰りだったという悟郎。暇なので彼を話し相手にしてみる、気になることもあったから。
虎「悟郎、さっきの宇宙の本」
悟「ん、あれ? ありゃあただ趣味で読んでるだけ」
虎「宇宙……空の向こうにある場所?」
悟「そ。生物が住むことのできない、でも夢がたくさんある場所だよな」
  夢? そんなものが宇宙にあるの?
虎「悟郎は、宇宙に行きたい?」
悟「あー、行きたいねっ。だからホントは苦手な理数系の勉強してるし。要は目指してるわけだ」
虎「じゃあ、悟郎はそのうち宇宙に行くんだ」
悟「だなっ。絶対行ってやる」
  ……変わった人だ。
  テレビで見たことがあるが、あんな真っ暗な場所に何故行きたいのだろうか。
  確かに何もせずに浮かんでられるのは面白そうだけど……でもそれだったらnのフィールドでいくらでもできる。
  あそこは色々な物がある。しかし宇宙は遠くに行かないと何もない……いや、もしかしたらどこまで行っても何もないのかもしれない。
  だが、悟郎は夢があるという。一体宇宙にある夢って何なんだろう。
虎「悟郎、宇宙にある夢って、何?」
悟「夢? そりゃあほら、宇宙人とか未知の惑星とか、とにかくいっぱいだ。でも何よりさ、今まで遠くにしか感じられなかった場所に行けるっていうのが一番の夢だと思う」
虎「遠く……」
悟「そ、昔はいくら手を伸ばしても届かないぐらい遠くだった。でも今はそこに手が届くんだから、夢あるだろ?」
  手を伸ばしても届かない……。
虎「そこに何もなかったら?」
悟「何もない?」
虎「宇宙は何もない、真っ暗な場所って聞いたから」
  手に届いたとしても、それでは何も面白くない気がする。その先で何かが待っているとは限らないのだから。
悟「ははは、何もない訳ねぇじゃん。だって宇宙があるんだし」
  ……なるほど、その考えはなかった。なんか論点がずれている気もするが。
虎「悟郎はなかなか頭がいい」
悟「ありがとさん。なんか褒められても嬉しくないけどな」
  苦笑いを浮かべる悟郎。
悟「今まで危ないし絶対飛べるわけではないとか、周りからいろんな理由で止められそうになったんだ。でもまぁこうして強引に大学通ってるんだけど……でもこんなこと聞いてきたのは虎目石が初めてだ」
虎「夢のこと?」
悟「ああ。でもさ、虎目石に聞かれて、改めて宇宙に行くのが楽しみになってきた。夢を再認識したからかな。もう誰も俺を止められないな」
  夢を……再認識。
悟「それに、虎目石みたいな不可思議な奴もいるってのが分かった。大体人形が動き出すって、呪いか何かだろ」
虎「呪いではない。けどよく言われる」
悟「あはは。でもお前みたいな呪い人形だったら歓迎だな。面白いし」
虎「……悟郎の方が変。だけど面白い」
  なんか悪口を言われている気もするが、嫌な気分ではない。
  なぜか、笑ってしまう。知り合って数十分の相手に向かって。
悟「変かぁ? 俺」
虎「変」
悟「じゃあお前も変な奴だ」
虎「よく言われる」
悟「じゃあおあいこだ。実は俺も変ってよく言われる」

  別に用事があった訳でもない。
  置石とケンカした訳でもないし、別に嫌なことがあったわけでもない。
  でも、こういう唐突だったり、気まぐれの行動。時にそれが妙なことを起こす。
悟「じゃあな。今度ハンカチ洗濯して返すから、気が向いたらここで待っててな」
  今日は、星野 悟郎という人と出会った。
  宇宙という場所に夢を抱く、変わった人。
虎「別に返さなくてもいい。けど……」
  また、この場所で待っている。
  なんだか照れくさい一言だ。あまり言う気にはならない。
悟「……んじゃあ、また今度な。暇があったらお前にも宇宙のロマンを徹底的に叩き込んでやる」
  また今度……再会の約束。
虎「うん、また今度」
  星野 悟郎、本当に変わった人。
  でも、それ故に面白い。彼といると、楽しい。
  ……悟郎の夢、宇宙に行くこと。
  私は、私の夢は何だろう。
  ……まぁいいか、時間はまだたくさんある。
  この興味深い事は、これからゆっくり知っていけばいいんだ。
  せっかく、変わった人と出会えたのだから。

  その後の虎眼石

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