油断した。
仕事場から出るところで雨が止んでいたが、そのせいで傘を仕事場に忘れてしまった。
そして電車に乗っているところで雨音を聞き、目的地で降りたらついには本降り。
こうして駅前で雨宿りをするハメとなった。
自分のドジ加減に、嫌気が差す。ため息をつきながら、大粒の雨を降らせる空をぼんやりと眺める。
ビニール傘でも買えばいい。最初はそう思ったが、家の傘立てに溜まっているあのビニール傘を見て、
果たしてペリドットは何を思うだろうか。
『傘で破産なんてしたら、ダメですからね』
平気でそんなことを言いそうだと思い、結局傘を買う気にはなれず。
「はぁ」
ため息を漏らし、アスファルトに落ちる雨粒へと視線を落とす。
水たまりに無数の波紋を作りながら、地表へと降り注ぐ雨。
この時期は本当、おっくうになってしまう。この雨降り独特の匂いを嗅ぐだけで、
どれだけ嫌な思い出が頭を過ぎるか。
「マスター」
そんな俺の耳に、雨音とは違う聞き慣れた声が入る。
人の気配……顔を上げてみると、そこには傘を差して佇むペリドットの姿。
「え、どうして?」
呼んだ覚えもない同居人の姿に、素っ頓狂な声を上げてしまう俺。
そんな俺に、ペリドットは穏やかな笑みを向ける。
「また、傘を忘れてきたのではないかと思いまして。あれだけビニール傘が溜まっていては、
さすがに買う気も起きないでしょう?」
……結局、全て見抜かれていた訳か。
仕事場から出るところで雨が止んでいたが、そのせいで傘を仕事場に忘れてしまった。
そして電車に乗っているところで雨音を聞き、目的地で降りたらついには本降り。
こうして駅前で雨宿りをするハメとなった。
自分のドジ加減に、嫌気が差す。ため息をつきながら、大粒の雨を降らせる空をぼんやりと眺める。
ビニール傘でも買えばいい。最初はそう思ったが、家の傘立てに溜まっているあのビニール傘を見て、
果たしてペリドットは何を思うだろうか。
『傘で破産なんてしたら、ダメですからね』
平気でそんなことを言いそうだと思い、結局傘を買う気にはなれず。
「はぁ」
ため息を漏らし、アスファルトに落ちる雨粒へと視線を落とす。
水たまりに無数の波紋を作りながら、地表へと降り注ぐ雨。
この時期は本当、おっくうになってしまう。この雨降り独特の匂いを嗅ぐだけで、
どれだけ嫌な思い出が頭を過ぎるか。
「マスター」
そんな俺の耳に、雨音とは違う聞き慣れた声が入る。
人の気配……顔を上げてみると、そこには傘を差して佇むペリドットの姿。
「え、どうして?」
呼んだ覚えもない同居人の姿に、素っ頓狂な声を上げてしまう俺。
そんな俺に、ペリドットは穏やかな笑みを向ける。
「また、傘を忘れてきたのではないかと思いまして。あれだけビニール傘が溜まっていては、
さすがに買う気も起きないでしょう?」
……結局、全て見抜かれていた訳か。
「もう少し気を引き締めてくださいね。これでは見送った後も安心できませんよ」
ペリドットの傘に入れてもらい、並んで帰路を歩く。
説教を受けるのは覚悟の上だ。しかし、どうしてもこの子供に言い聞かせるような物言いは、
聞いていて背中がくすぐったく感じる。
「わ、分かってるって。大体、こんな時間に迎えに来る余裕あったのか? 晩飯の準備とか」
普段は、帰ってくる頃なら台所で夕食を作っている姿ばかりのペリドット。
正直、その話題には触れられたくなかったのだろう。余裕のある笑顔が一転、
どこか困ったような顔色を見せる。
「ええ……ちょっと、お昼寝をしてしまいまして」
「……作ってないと?」
「実は材料すらないんです」
笑顔のペリドットに、俺はため息で答えた。
気を引き締めて……その言葉、状況が状況なら俺が言ってやりたいところだ。
「で、晩飯はどうするつもりだったんだ?」
「え、ええ。【レッドベリルのマスター】さんのお店へ行こうと思っていたんですが」
「つまり、迎えに来たのは外食の為の口実ってか?」
その問いに、半々ですとごまかされる。ひどい奴だ。
「実際、マスターも困っていましたよね?」
「……ま、まぁ。というか、ずるいなお前」
横目で睨む俺の顔に、ただ笑顔を向けるペリドット。
どうやら、俺の方が完全に手込めにされているらしい。これが年の功って奴か。
「さすが年寄りとか、思いませんでした?」
「思ってない」
「本当ですか?」
「本当」
「そのお顔は、嘘を付いていますね?」
「付いてない」
今度は目をそらす俺を、ペリドットが見上げてくる番だ。
ペリドットにごまかしなんて通じる気がしない。が、ここで負けるのも癪に障る。絶対に認めるものか。
「もう。お顔を見ればすぐ分かるんですからね」
どこかふてくされ気味に呟くと、今度は俺の腕を自分の胸元に引き寄せてくる。
いきなり何をするか……照れ隠しで睨み付けると、そこには満面の笑顔のペリドット。
「それなら、今日は同い年のように振る舞いますよ」
年なんて全く感じられない、ペリドットの顔。
その頬が、俺の腕に当たる。
「久々のデート、ということで」
……そんな大胆な一言に、結局俺は赤面させられる。
あぁ、やっぱり敵う気がしない。この同居人には。
「……はいはい」
でも負けるのは悔しい。俺は出来るだけ、不機嫌そうに返事を返した。
ペリドットの傘に入れてもらい、並んで帰路を歩く。
説教を受けるのは覚悟の上だ。しかし、どうしてもこの子供に言い聞かせるような物言いは、
聞いていて背中がくすぐったく感じる。
「わ、分かってるって。大体、こんな時間に迎えに来る余裕あったのか? 晩飯の準備とか」
普段は、帰ってくる頃なら台所で夕食を作っている姿ばかりのペリドット。
正直、その話題には触れられたくなかったのだろう。余裕のある笑顔が一転、
どこか困ったような顔色を見せる。
「ええ……ちょっと、お昼寝をしてしまいまして」
「……作ってないと?」
「実は材料すらないんです」
笑顔のペリドットに、俺はため息で答えた。
気を引き締めて……その言葉、状況が状況なら俺が言ってやりたいところだ。
「で、晩飯はどうするつもりだったんだ?」
「え、ええ。【レッドベリルのマスター】さんのお店へ行こうと思っていたんですが」
「つまり、迎えに来たのは外食の為の口実ってか?」
その問いに、半々ですとごまかされる。ひどい奴だ。
「実際、マスターも困っていましたよね?」
「……ま、まぁ。というか、ずるいなお前」
横目で睨む俺の顔に、ただ笑顔を向けるペリドット。
どうやら、俺の方が完全に手込めにされているらしい。これが年の功って奴か。
「さすが年寄りとか、思いませんでした?」
「思ってない」
「本当ですか?」
「本当」
「そのお顔は、嘘を付いていますね?」
「付いてない」
今度は目をそらす俺を、ペリドットが見上げてくる番だ。
ペリドットにごまかしなんて通じる気がしない。が、ここで負けるのも癪に障る。絶対に認めるものか。
「もう。お顔を見ればすぐ分かるんですからね」
どこかふてくされ気味に呟くと、今度は俺の腕を自分の胸元に引き寄せてくる。
いきなり何をするか……照れ隠しで睨み付けると、そこには満面の笑顔のペリドット。
「それなら、今日は同い年のように振る舞いますよ」
年なんて全く感じられない、ペリドットの顔。
その頬が、俺の腕に当たる。
「久々のデート、ということで」
……そんな大胆な一言に、結局俺は赤面させられる。
あぁ、やっぱり敵う気がしない。この同居人には。
「……はいはい」
でも負けるのは悔しい。俺は出来るだけ、不機嫌そうに返事を返した。