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着飾らない乙女へ

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匿名ユーザー

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「珊瑚って、あまりオシャレとか興味ないのか?」
 食器を片づけていた珊瑚にそんなことを尋ねてみると、
あからさまに不機嫌そうな睨みを返された。
「乙女として最低限には着飾っているつもりだが。過剰に行うほど興味はないし、
武士として動きにくくなるのは控えているが」
「そ、そうか。悪いな、変なこと聞いて」
「別に気にしてなどいない」
 と、その言葉を疑うような、どこか怒りの籠もった口調でぼやく。テレビを見ていた天も、
少し困ったような表情を見せる。
「ま、マスタぁーっ、こっち来てっ」
 そして何を思ったのか、立ち上がって俺の手を引っ張り、居間を出るよう諭してくる。
 いったい何なんだか……妙に重たく感じる腰を上げ、天に付き合って廊下に出る。
「マスタぁー、ああいうこと言っちゃめーっ」
「いや、ちょっと気になっただけで」
「それでもめーっ。お姉ちゃんね、本当はきれいなもの欲しいなって思ってるんだよ」
「まぁ、そうかも知れんけど……って、何で知ってるんだよ?」
「この前女の人いっぱい載ってるご本読んでたよ。綺麗なお洋服とかいっぱいなの」
 なるほど、雑誌読んでたわけか。そんな素振りは見たことなかったが。
 やっぱりそういう年頃なんだよなぁ。性格のせいでよく分からんけど。
「動きにくくなるのは控える、か」
 ポケットに入れたままだった財布に、ズボンの上から手を当てる。
 ……ま、たまにはな。
「んにゅ?」

          ◆

 次の日の夕方。
 寄り道して帰宅が遅くなったため、俺は早足で帰路を進んでいた。
 ポケットの中には軽くなった財布。そして片手には、紙袋が一つ。
 普段の買い物なら、別段気になるようなことは何もなかっただろう。
 だが、この紙袋の中身は特別だ。それを思うと、胸の鼓動が妙に早まる。
 らしくない。こんな緊張する俺なんて。もっと冷静になれと、珊瑚に怒られるだろう。
 二回深呼吸をし、自宅前に続く最後のT字路を曲がる。
 目の前に見える我が家。何となく地に足が着いていないような感覚を覚えながら、
玄関の前に立つ。
「ただいま」
 いつもより小さい声で言いながら、玄関のドアを開ける。
 ……なんてこった。夕刊取りに来た珊瑚と鉢合わせじゃないか。
「おかえり主。今日は遅かったのだな」
「あ、あぁ、ちょっとな」
 ぎこちない俺の様子、そして手に持った紙袋へと視線を送った後、
呆れた様子の表情を見せる珊瑚。
「主、あまり無駄遣いをするなと言っているだろう」
「っ。む、無駄遣いじゃねぇよ。れっきとした必要なモンだ!」
「あぁ、分かった分かった。とにかく早く夕食にしよう」
 まるでガキをあしらうかのようなその態度に、腹立たしさを覚えてしまう。
 このまま好き勝手に言わせるのもしゃくに障る……俺は珊瑚の手を取り、
無理矢理こちらへ振り返らせる。
「む、主っ。いきなり何を」
「無駄遣いじゃねぇって言ってるんだよ。ほら」
 振り返らせた珊瑚に、持っていた紙袋を差し出す。
 それが予想外の行動だったのか、珊瑚は唖然としながら、
突き出された俺の手を眺めていた。
 手に取る様子はない。俺は仕方なく、紙袋からその中身を取り出す。
 入っていたのは、20センチほどの長さの箱を白い包装紙と青いリボンでラッピングした物。
「これは、だな……その、お前にだ」
「……は?」
 あまり面と向かって言いにくかったことを言ったのに、
どうしてコイツはこんなすっとぼけた反応なのか。
 だが、そんな苛立ちも、やっと上京を理解してくれたのであろう珊瑚の様子を見て、
すっかり吹き飛んだ。
「え、あ……え? そ、某に?」
「そうだって言ってるんだよ……頼むから受け取ってくれ。恥ずかしいから」
 曖昧な返事をしながら、俺の手から箱を受け取る。
「ん……」
 特にリアクションを見せる様子もなく、呆然と手に取った箱を眺める珊瑚。
 ――気まずい空気だ。
 最初は反応を期待していた俺だが、終いには恥ずかしさが前に出て、珊瑚から目をそらしてしまう。
「あ、開けても、いいのか?」
「……ああ」
 俺がぶっきらぼうに答えると、リボンをほどき、包装紙を丁寧に剥がす。
 中には白い紙の箱。その蓋を開けると、中から更に藍色の……まぁ、
長方形だがよく指輪とかが入っているあの箱が出てくる。名前は知らない。
「どういうのが良いか分からんから、とりあえずその、値段で選んだ」
 その中から出てきた、ネックレス。ちょっと高いシルバーのアクセサリ。
 正直、この手の物にはかなり疎かったし、どうにも買いにくい雰囲気だったが……。
「似合うとは、思うぞ。あと、動きの妨げにならない物、選んだつもりだ」
 横目で、珊瑚の様子を確認する。
 箱から出したそれを手に乗せたまま、まるで石のように硬直してしまっている。
 顔は真っ赤で、今にも倒れてしまいそうな……。
「あ、あ……アクアマリンの、ネックレスか」
「珊瑚が、なかったからな。うん……だから同じ3月のって」
「そそ、そぉか…………あ、主」
 上目遣いで、珊瑚が俺の顔を見上げる。
「世の女性が、その……どう考えるか、知らんが。某は、値段で物を評価など、しないぞ」
「そう、か」
 ぎこちないやりとり。
 目を合わせられない俺に、視線を泳がせる珊瑚。
「に、似合ってるか、真剣に考えてくれただけで……某は嬉しいぞ」
 嬉しい。
 その一言を聞けて、俺の肩から力が抜ける。
「これなら、その……動きの邪魔に、ならないな。お守りとして、身に付けさせてもらおう」
「あー……そうしてくれ。うん、お前の好きにしろ」
 プレゼントするのもされるのも、どっちも慣れていない照れ屋な二人。
 やっとお互い目を合わせると、何故か自然と顔が笑顔になる。
「ありがとう、主」
 そして真っ向から礼の言葉を言われた瞬間、俺はまた珊瑚から目をそらしてしまうのだった。
 笑顔が、眩しすぎる……。

「えへへ、お姉ちゃんすごく嬉しそうだよー。マスタぁーいい子いい子」
「な、撫でるなっ。あとほら、お前にも買ってきたから……」
「ほんと? やったーっ」

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