宝石乙女まとめwiki

そんなときもあるさ

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匿名ユーザー

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 今日は電気石と二人きりで留守番。
 居間で二人並んで座り、僕はテレビを見て、電気石はお絵かき。
 頬杖を付きながら見るテレビは、どことなくつまらない。
「マスター」
 ぼんやりとしていた僕の袖を、電気石が引っ張る。
「ん、絵でも出来たの?」
 そう尋ねると、電気石は首を横に振る。
 そして、庭に続く大きな窓の方を指差して一言。
「猫……」
 そこには、いつもうちに着て餌にありつこうとする野良猫が、
窓越しにじっと僕の顔を見つめてきていた。
 まだ大人になりきっていない顔つきの、黄色の瞳がやたらと目立つ黒猫だ。
 この猫は結構図々しい。この間なんて、蛋白石が楽しみにしていたちくわを
食べて大変なことになった。主に僕が。
 だが、可愛い猫を見てしまうと、どうしても相手したくなってしまう。例え動物アレルギーでも。
 僕は立ち上がり、窓の方へ向かう。そしてそれを開け放ち、しゃがんで猫の顔を見下ろす。
「こんにちは。あいにく食べ物は……あ、こらこら」
 窓が開けられると同時に、猫は僕の脇をすり抜け、家の中へと入ってくる。
 そして、僕の後ろ姿を振り返りながら、お前も早く来いと言わんばかりの視線を送ってくる。
 食べ物なんてないのになぁ……。

 確かに猫は、気まぐれな生き物だ。
 そして、自分がそのとき一番いたいと思う場所に居座る傾向があるのも、よく分かる。
 しかし……。
「暑い」
 先ほどと同じように、座ってテレビを眺めている。
 しかし、あぐらをかく僕の足の上には、なぜかあの猫が堂々と乗っかり、
居眠りをしているのだ。
 猫の体温が足から伝わり、ぬくもりを通り越してすでに暑い。足だけ夏の気温みたいだ。
 だが、野良なのにこういうのは珍しいかも知れない。僕が背中を撫でても、
嫌がる様子を見せない。
「んー……っ」
 だが電気石は違う。静電気か何かが嫌なのか、手を近づけようとしたらそれを
しっぽで払いのけてくる。
 それでも諦めない電気石。なんとか撫でようとするも、やはりしっぽがそれを許さない。
「むぅ」
 珍しく不機嫌そうな顔を見せ、頬をふくらませる電気石。
 そして諦めたのか、再びクレヨン片手に画用紙と向き合う。
 なかなか難儀な話だ。そんなことを思い、苦笑を浮かべながらまたテレビへ視線を移す。
 しかし退屈だ。だからといって立ち上がることも出来ないし、どうにかならないものか。
「……マスター」
 再び袖を引かれる感触。
 顔を向けると、相変わらず不機嫌そうな電気石が、僕の顔を見上げてきていた。
「どうしたの?」
「ん……」
 猫を指差す電気石。そして一言。
「ずるい」
「ずるい? 僕ばかり猫撫でてるから?」
 首を横に振る。
「ずるいの……」
 そう言って指差すのは、僕ではなく猫の方。
「マスターの、ひとりじめ……ずるい」
 恨めしそうに猫を見つめる電気石の顔。
 こんなに怒った顔を見るのは初めてだ。相当この猫に腹を立てているのか……。
「交代。だっこ」
「え、いや交代って、相手は熟睡……」
「めっ」
 それは、電気石らしからぬ強い口調だった。
 それだけじゃない。感情の高ぶりか何かか、僕の耳は確かに、電気石が放電するような音を感じていた。
 これはまずい……絶対にまずい。
「えっとぉ、とりあえず電気石、落ち着いて」
「交代しないと、ずるい」
「そ、そうだよねぇ。ペリドットさんだってよく言うよねー。でもまだ寝てて」
「めーっ」
 ……僕の目の前で、光がはじける。
 覚えているのは、そこまでだった。

「……ねぇ、まだ抱っこしてないとダメ?」
「めー」
「せめてご飯食べるときぐらいはさ、降りないと行儀悪い」
「やー」
「はぁ……そう言えば猫は一体」
「ずるいの、めー」
「そ、そうだね。ずるいのはダメだよね……」

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