宝石乙女まとめwiki 春の夜更けは、まだ寒い
「虎眼ぇー、もっとくっつきなさいよぉ。寒いんだから」
 夜の森の中。春になっても、こんなところの夜はとても寒い。
 だけど、一枚の大きな毛布を共有して被っている虎眼は、それを気にせず
星空を眺めている。
 見上げる空は雲一つなく、町から離れ、空気も澄んでいるため星がよく見える。
「何か、毎年同じ事言ってる気がするわ、あたし」
「寒がり」
「虎眼が季節選ばず流星群観察なんてするからでしょー。大体まだ1個も降ってきてないじゃん」
 今日あたしがこんなところで震えているのは、この妹の天体観測に付き合わされたため。
 これはすでに年中行事みたいなもので、何かと理由を付けては、こうして登山と
二人だけの寒地我慢大会に付き合わされる。
「ピークにはまだ時間がある」
「どれぐらい?」
 そう尋ねられると、虎眼は懐から懐中時計を取り出し、それを懐中電灯の明かりで照らしながら
時刻を確認。
「2時間ぐらい」
「虎眼ぇーっ」
 もう我慢の限界だ。
 毛布の中に潜り込み、虎眼の体に抱きつく。あぁ、ぬくぬく。
「んっ……く、くすぐったい」
「ここがええんかぁ?」
 脇の下を重点的にほおずりしてみると、くすぐったさを堪える虎眼の声が聞こえる。
「……やめて」
 頭に衝撃。思いっきり肘を打ち付けられた。
 声も出せずに、ただ毛布の中で頭を押さえなら悶絶……相変わらず、容赦がない妹。
何か鈍い音したよ、鈍い音。

 肘打ちを受けた頭頂をさすりながら、再び二人並んで星空を眺める。
「今、一つ」
「えー? 分かんなかったんだけど」
「観察力に欠けてる」
「うっさいなぁ。大きなお世話」
 風が吹き、顔や肩口を撫でる。
 寒い……虎眼の腕に自分の腕を絡め、更に寄り添う。
「本当、寒がり」
「うっさいてばー」
 顔は空を見上げたまま、横目でこちらを見てくる虎眼。その笑っている表情が、少し憎らしい。
「大体、寒がりって分かってるならどーして無理矢理連れてくるのよ。今日だって晩ご飯食べたら
いつの間にか荷物と一緒に運ばれたし」
「無理矢理じゃないとこないから」
 まぁ、確かにその通り。
「たまには、二人で流れ星にお願いも悪くない」
 そして、どうにも虎眼には似合わない言葉を、平気で口にしてきた。
「お願いってねぇ……一応聞くけど、虎眼のお願いって何よ?」
「話すと叶わなくなる」
 そう言って、視線を再び空に向ける。
 そんなに叶えたいほど、重要な願いなのかなぁ。何か無理矢理にでも聞き出したくなってくる。
「あ、また一つ」
「えっ! あーもぉ、こっちが見てないときにばっかりー。もしかして流れ星、あたしの事嫌ってる訳?」
 再び空を見上げてみても、相変わらず動く様子のない星ばかり。
「置石の願いは、ろくなものじゃないから」
「何ですってぇーっ」
 姉を敬わない失礼千万の一言。それに文句を言おうと、虎眼の顔を再び睨み付ける。
 ……なぜか、こちらに顔を向けて、口元だけで笑っていた。
「な、何よ。そんな顔されたら怒りにくいじゃない」
「別に……ただ、楽しいだけ」
 それは、面と向かって言われるには、少しくすぐったい言葉だった。
 もちろん、それがあたしを怒らせるのがという意味ではないだろう。だから、
虎眼から顔をそらし、空を見上げてしまう。
「ふ、ふんっ。あたしは寒いだけなんだから……あっ」
 あたしの目の前を、尾を引いて消えていく一筋の流れ星。
 どうやら、それほど流れ星には嫌われていないようだ。でも3回お願いするには、
あまりにも短いきらめきだ。
「ちょっと虎眼ー、あんなモンにどうやってお願いするのよぉ」
「気合いで3回。目標1秒以内で」
「っ、そんなの無理に決まってるでしょう……あ、またっ」
 先ほどと同じように、流れ星が空に消えていく。今度は虎眼も見ていたようだ。
「……ほら、お願いできた」
「分かんないわよ! 大体あたしにそんな芸当出来ないって」
 そんな私の言葉を、虎眼は私の口元に指を当てて止める。
「大丈夫」
 そして、また口元だけ笑みを浮かべて。
「置石の願いが、叶うように。そう3回お願いした」
 そう言って、指をあたしから離す。
 あたしの願いが叶うように。ただそれだけのこと。
 だけどその気遣いが、素直に嬉しく思う。
「……いたずら以外、だけど」
「えーっ。ちょっとあんた、何余計な指定入れてるのよ!」
 いたずら絡みが絡まないとなると、あたしの叶う願いは……。
 家内安全、円満な姉妹仲。
 そして、早く暖かくなるように……あー、寒い。
「……も、もう少しくっつきなさい」
 そう言って、離れないよう更に虎眼へ身を寄せた。