瑪瑙のことなんて放っておけばよかった。
だってあの子は森に慣れているから、わたくしが心配……じゃない、わざわざ見に来てあげなくても、
もうすぐ屋敷に戻ってきたでしょうから。
ともかく、森の見回りに行ったままなかなか帰らない瑪瑙が悪いのだ。
「……不覚、ですわ」
わたくしは痛む足をさすった。
歩きづらい森の中で、つまづいてひねってしまったようだ。
窪地でたった一人。
涙がにじみそうになるのを、頭を振って振り切る。
その時。
「――何してるの?」
猟銃を背負って、いぶかしげな表情で瑪瑙がのぞきこんでいた。
……いけない。本格的に涙が出てきた。
「……ちょっと散歩に出ただけですわ」
「もしかして怪我したの? ちょっと待って、今行く」
「け、結構ですわよ!」
ざざ、っと葉を揺らして、窪地に瑪瑙が降りてくる。
「鶏冠石、痛いの? 涙が……」
「こ、これは、貴女が乱暴に降りてくるから埃が目に入ったんですわ!」
思わず口をついて出た悪態に、瑪瑙は微笑んで返す。
「その元気があれば大丈夫だね」
だってあの子は森に慣れているから、わたくしが心配……じゃない、わざわざ見に来てあげなくても、
もうすぐ屋敷に戻ってきたでしょうから。
ともかく、森の見回りに行ったままなかなか帰らない瑪瑙が悪いのだ。
「……不覚、ですわ」
わたくしは痛む足をさすった。
歩きづらい森の中で、つまづいてひねってしまったようだ。
窪地でたった一人。
涙がにじみそうになるのを、頭を振って振り切る。
その時。
「――何してるの?」
猟銃を背負って、いぶかしげな表情で瑪瑙がのぞきこんでいた。
……いけない。本格的に涙が出てきた。
「……ちょっと散歩に出ただけですわ」
「もしかして怪我したの? ちょっと待って、今行く」
「け、結構ですわよ!」
ざざ、っと葉を揺らして、窪地に瑪瑙が降りてくる。
「鶏冠石、痛いの? 涙が……」
「こ、これは、貴女が乱暴に降りてくるから埃が目に入ったんですわ!」
思わず口をついて出た悪態に、瑪瑙は微笑んで返す。
「その元気があれば大丈夫だね」
◇
「……一人で歩けますわ」
「何言ってるの、キミみたいなお嬢様が靴も履き替えずに。よく足をひねっただけで済んだね」
「生意気なことを言わないで頂戴」
「はいはい」
わたくしは瑪瑙の背に揺られて、森を出る。
背の丈も同じくらいなのに、しっかりとわたくしを背負って、瑪瑙は歩いてゆく。
「帰ったら手当てしてあげるね」
「……その前に、お茶が飲みたいですわ」
「はいはい」
顔を見られなくてよかった。
わたくしの顔は涙で汚れているし、何より瑪瑙にこんなに甘えて安心しきった顔なんて、見られたら恥ずかしくて
「何言ってるの、キミみたいなお嬢様が靴も履き替えずに。よく足をひねっただけで済んだね」
「生意気なことを言わないで頂戴」
「はいはい」
わたくしは瑪瑙の背に揺られて、森を出る。
背の丈も同じくらいなのに、しっかりとわたくしを背負って、瑪瑙は歩いてゆく。
「帰ったら手当てしてあげるね」
「……その前に、お茶が飲みたいですわ」
「はいはい」
顔を見られなくてよかった。
わたくしの顔は涙で汚れているし、何より瑪瑙にこんなに甘えて安心しきった顔なんて、見られたら恥ずかしくて
死んでしまう。
「……ありがとう……」
思わずつぶやいた後で、恥ずかしくなって瑪瑙の背に掴まる手に力をこめた。
瑪瑙の返事はなかった。
聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしてくれたのか。
「……もうすぐ森を出るよ」
屋敷に帰ったら、ちゃんと瑪瑙にお礼を言おう。
恥ずかしくて言えないかもしれないけど。
わたくしは暖かい背中でうとうととしながら、そんなことを考えた。
「……ありがとう……」
思わずつぶやいた後で、恥ずかしくなって瑪瑙の背に掴まる手に力をこめた。
瑪瑙の返事はなかった。
聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしてくれたのか。
「……もうすぐ森を出るよ」
屋敷に帰ったら、ちゃんと瑪瑙にお礼を言おう。
恥ずかしくて言えないかもしれないけど。
わたくしは暖かい背中でうとうととしながら、そんなことを考えた。