宝石乙女同士でも、疎遠な間柄というのは存在する。
だから、互いの距離を縮めるための交流は、悪いことではない。
「わっ、これ美味しい! 【蛋白石のマスター】っ、これ何!?」
「S姉はしゃぐな、恥ずかしい。あとこれはどら焼きだろう」
でも、来るなら来ると先に言っておいて欲しい。
殺生石と向かい合ってテーブルに座る、二人の女の子。僕も初めて会う、磁石の姉妹らしい。
「……で、いきなりうちに何の御用で? あまり騒がれると、主様に迷惑が」
「あぁ、そんな気にしてないからさ、殺生石もそう怒らずに」
互いの間に座りながら、殺生石をなだめる。
騒がしいのが嫌いな殺生石にとって、この状況では不機嫌になるのも無理はない。
追加のどら焼きをテーブルに置き、ため息を一つ。さて、これからどうするべきか。
「ありがとぉー。あむっ」
と、早速追加したどら焼きの一つに手を伸ばすのは、姉のSちゃん。
その姿を、もう少し遠慮しろと言わんばかりに睨みつけるのは妹のNちゃん。
二人とも、顔つきはそっくりだ。きっと双子なのだろう。
「それで、今日はどうしたのかな?」
「え、あぁ……S姉が、たまには知らない人に会いに行こうと言い出したのがきっかけで」
「ふぁっき、ふぇんがふぇきのふぉこにも……行っへひはよ」
「食べながらしゃべらない」
そんな二人のやりとりに、思わず苦笑を浮かべてしまう。
何というか、すごく仲がよさそうな、そんな気がする。
「主様、微笑ましく思われるのは結構ですが、本日はこの後学校では?」
「え? あぁ、今日午後からか……えっと、あまり相手は出来ないんだけど、どうする?」
その言葉を聞くと、Nちゃんがこちらへ顔を向ける。
「それじゃあ、私達もすぐに……っと、S姉が何かやっておきたいことがあるって……ちゃんと飲み込んで」
「んっ……ふはぁっ。そうそう、やりたいことがあるんだよ。ここにきたら絶対やっておけって、月長石が言うから」
月長石。
その名前を聞いて、殺生石が嫌な顔をしないはずがなかった。
嫌な予感を察したのか、僕の隣に移動してくる。
頼ってくれるのは嬉しいけれど、守れる自信はあまりない。
「……で、そのやっておけっていうのは」
「殺生石さんの尻尾に触っておけって。今まで感じたことがないふかふか感を味わえるらしいから」
やっぱりと、ため息をつく殺生石。
確かに、その辺では滅多に触れないぐらい、彼女の尻尾の毛並みは魅力的だ。
だけどそれを触られるのを、殺生石は特に嫌がる。一緒に暮らしている僕でさえ、
そう簡単に触れるものではない。多いのは風呂上りのドライヤーかけの手伝いぐらいか。
で、この子はそれを触りたいという。でも初対面の子に許可するほど、殺生石は甘くないからなぁ。
「ねぇねぇ、触らせてー。触らせてもらったらすぐ帰るからぁ」
Sちゃん、なかなか物の頼み方が上手いかもしれない。
早く帰って欲しいと思っているであろう殺生石に、その頼み方は効果的だ。
だが、嫌なものは嫌なのだろう。嫌悪感むき出しの顔を浮かべ、僕とSちゃんを見比べる。
そして僕の顔を数秒見つめた後、ため息を付いて口を開く。
「……少しだけですよ」
きっと、僕のことを思って、そう言ってくれたのだろう。
今日はお稲荷さんでも買ってこないといけないかな。
だから、互いの距離を縮めるための交流は、悪いことではない。
「わっ、これ美味しい! 【蛋白石のマスター】っ、これ何!?」
「S姉はしゃぐな、恥ずかしい。あとこれはどら焼きだろう」
でも、来るなら来ると先に言っておいて欲しい。
殺生石と向かい合ってテーブルに座る、二人の女の子。僕も初めて会う、磁石の姉妹らしい。
「……で、いきなりうちに何の御用で? あまり騒がれると、主様に迷惑が」
「あぁ、そんな気にしてないからさ、殺生石もそう怒らずに」
互いの間に座りながら、殺生石をなだめる。
騒がしいのが嫌いな殺生石にとって、この状況では不機嫌になるのも無理はない。
追加のどら焼きをテーブルに置き、ため息を一つ。さて、これからどうするべきか。
「ありがとぉー。あむっ」
と、早速追加したどら焼きの一つに手を伸ばすのは、姉のSちゃん。
その姿を、もう少し遠慮しろと言わんばかりに睨みつけるのは妹のNちゃん。
二人とも、顔つきはそっくりだ。きっと双子なのだろう。
「それで、今日はどうしたのかな?」
「え、あぁ……S姉が、たまには知らない人に会いに行こうと言い出したのがきっかけで」
「ふぁっき、ふぇんがふぇきのふぉこにも……行っへひはよ」
「食べながらしゃべらない」
そんな二人のやりとりに、思わず苦笑を浮かべてしまう。
何というか、すごく仲がよさそうな、そんな気がする。
「主様、微笑ましく思われるのは結構ですが、本日はこの後学校では?」
「え? あぁ、今日午後からか……えっと、あまり相手は出来ないんだけど、どうする?」
その言葉を聞くと、Nちゃんがこちらへ顔を向ける。
「それじゃあ、私達もすぐに……っと、S姉が何かやっておきたいことがあるって……ちゃんと飲み込んで」
「んっ……ふはぁっ。そうそう、やりたいことがあるんだよ。ここにきたら絶対やっておけって、月長石が言うから」
月長石。
その名前を聞いて、殺生石が嫌な顔をしないはずがなかった。
嫌な予感を察したのか、僕の隣に移動してくる。
頼ってくれるのは嬉しいけれど、守れる自信はあまりない。
「……で、そのやっておけっていうのは」
「殺生石さんの尻尾に触っておけって。今まで感じたことがないふかふか感を味わえるらしいから」
やっぱりと、ため息をつく殺生石。
確かに、その辺では滅多に触れないぐらい、彼女の尻尾の毛並みは魅力的だ。
だけどそれを触られるのを、殺生石は特に嫌がる。一緒に暮らしている僕でさえ、
そう簡単に触れるものではない。多いのは風呂上りのドライヤーかけの手伝いぐらいか。
で、この子はそれを触りたいという。でも初対面の子に許可するほど、殺生石は甘くないからなぁ。
「ねぇねぇ、触らせてー。触らせてもらったらすぐ帰るからぁ」
Sちゃん、なかなか物の頼み方が上手いかもしれない。
早く帰って欲しいと思っているであろう殺生石に、その頼み方は効果的だ。
だが、嫌なものは嫌なのだろう。嫌悪感むき出しの顔を浮かべ、僕とSちゃんを見比べる。
そして僕の顔を数秒見つめた後、ため息を付いて口を開く。
「……少しだけですよ」
きっと、僕のことを思って、そう言ってくれたのだろう。
今日はお稲荷さんでも買ってこないといけないかな。
僕の隣に座る殺生石。さらにその隣に立つSちゃん。Nちゃんは触るつもりがないのか、僕の隣に座っている。
「あまり撫ですぎないでください。崩れたら直すのが大変なのですから」
「分かってるよぉー。それじゃあ……」
そう言って、一番手前にある尻尾に手を伸ばすSちゃん。
彼女の小さな手が尻尾に触れ、そのまま毛並みの中に沈んでいく。
「お……おおぉぉっ」
「S姉、気持ち悪い声を出すな」
「だ、だってNちゃんっ。これはホントにこの世のものとは思えない……おぉぉ」
「もっと他の言い方があるでしょう……ほら、もういいでしょう?」
「い、いやもう少し。むぅ、これは毛皮にしたらいくらになるか」
その一言で、殺生石の顔にわずかな怒りが。
「マフラー、コート、掛け布団……あぁ、なんと素晴らしい」
尻尾触っているだけで、ここまで幸せそうな顔を浮かべる子を初めて見た気がする。
確かに天河石ちゃんや電気石は、尻尾に抱きついて気持ちよさそうに寝ようとするけど、
こんな顔を浮かべるようなことはない。
それだけ至福の表情だ。何というか、変わった子だなぁ。
「あぁ……何だか触ってるだけで、眠くぅ……」
「ちょっと、そんな抱きつこうと……」
Sちゃんの顔から、力が抜ける。
まぁ、気持ちは分からないでも……そう思っていたときだった、Nちゃんが声を荒げたのは。
「あ、S姉! 今気を抜いたら磁力が」
……磁力?
その一言を聞いた瞬間、僕の横っ腹に衝撃が走った。
一体何が。そんなことを考える暇も泣く、僕の体は殺生石に激突し、そしてきつく密着していた。
さすがの殺生石も、何が起きたのか分からなかったらしい。目と鼻の先にあるその顔は、呆然としている。
「え、あ……主、様?」
「だから言った! くそっ、最悪のくっつき方だ……こら起きろS姉!」
「ふかふかぁ……」
密着しているのは、殺生石だけではなかった。
僕の体に、隙間もないほど密着してくるNちゃん。
それと同じ状況が、殺生石のほうにも。反対側のSちゃんが、殺生石の尻尾を抱いたまま彼女に密着している。
「え、えっと、さっき磁力って言ってたけど……まさか」
「ごめんなさい。こうならないように気をつけていたんだけど……」
力ないNちゃんの言葉で、僕は確信する。
あぁ、きっと二人は磁力で惹かれあっているんだと。
さすが磁石姉妹といわんばかりの特殊能力。しかもこの力、僕にとってかなり苦しい状況だ。
「あ、る……うぅ」
そして、目の前にある殺生石の顔。
何だかものすごく赤くて、先ほどまであった嫌悪感むき出しの顔はどこにもない。
何だか照れているようにも見える。
照れる殺生石なんて珍しいけど、予想外の状況だったのだから、仕方ないのかもしれない。
「それで、これはどうやれば取れるの?」
「S姉が目を覚ますしか……こらっ、起きろ! 何寝ている!?」
「主さまぁ……」
「なかなか起きな……って、殺生石顔近いっ!」
「っ、ちょ、【蛋白石のマスター】っ、そんな暴れたらさらにきつくっ」
「あまり撫ですぎないでください。崩れたら直すのが大変なのですから」
「分かってるよぉー。それじゃあ……」
そう言って、一番手前にある尻尾に手を伸ばすSちゃん。
彼女の小さな手が尻尾に触れ、そのまま毛並みの中に沈んでいく。
「お……おおぉぉっ」
「S姉、気持ち悪い声を出すな」
「だ、だってNちゃんっ。これはホントにこの世のものとは思えない……おぉぉ」
「もっと他の言い方があるでしょう……ほら、もういいでしょう?」
「い、いやもう少し。むぅ、これは毛皮にしたらいくらになるか」
その一言で、殺生石の顔にわずかな怒りが。
「マフラー、コート、掛け布団……あぁ、なんと素晴らしい」
尻尾触っているだけで、ここまで幸せそうな顔を浮かべる子を初めて見た気がする。
確かに天河石ちゃんや電気石は、尻尾に抱きついて気持ちよさそうに寝ようとするけど、
こんな顔を浮かべるようなことはない。
それだけ至福の表情だ。何というか、変わった子だなぁ。
「あぁ……何だか触ってるだけで、眠くぅ……」
「ちょっと、そんな抱きつこうと……」
Sちゃんの顔から、力が抜ける。
まぁ、気持ちは分からないでも……そう思っていたときだった、Nちゃんが声を荒げたのは。
「あ、S姉! 今気を抜いたら磁力が」
……磁力?
その一言を聞いた瞬間、僕の横っ腹に衝撃が走った。
一体何が。そんなことを考える暇も泣く、僕の体は殺生石に激突し、そしてきつく密着していた。
さすがの殺生石も、何が起きたのか分からなかったらしい。目と鼻の先にあるその顔は、呆然としている。
「え、あ……主、様?」
「だから言った! くそっ、最悪のくっつき方だ……こら起きろS姉!」
「ふかふかぁ……」
密着しているのは、殺生石だけではなかった。
僕の体に、隙間もないほど密着してくるNちゃん。
それと同じ状況が、殺生石のほうにも。反対側のSちゃんが、殺生石の尻尾を抱いたまま彼女に密着している。
「え、えっと、さっき磁力って言ってたけど……まさか」
「ごめんなさい。こうならないように気をつけていたんだけど……」
力ないNちゃんの言葉で、僕は確信する。
あぁ、きっと二人は磁力で惹かれあっているんだと。
さすが磁石姉妹といわんばかりの特殊能力。しかもこの力、僕にとってかなり苦しい状況だ。
「あ、る……うぅ」
そして、目の前にある殺生石の顔。
何だかものすごく赤くて、先ほどまであった嫌悪感むき出しの顔はどこにもない。
何だか照れているようにも見える。
照れる殺生石なんて珍しいけど、予想外の状況だったのだから、仕方ないのかもしれない。
「それで、これはどうやれば取れるの?」
「S姉が目を覚ますしか……こらっ、起きろ! 何寝ている!?」
「主さまぁ……」
「なかなか起きな……って、殺生石顔近いっ!」
「っ、ちょ、【蛋白石のマスター】っ、そんな暴れたらさらにきつくっ」
祭りの後というか、何と言うか。
やっとの思いで解放された僕達の間には、気まずい空気が流れていた。
やっとの思いで解放された僕達の間には、気まずい空気が流れていた。
「い、いやぁそのぉ……ごめんなさい」
肩を落として誤るSちゃん。
それは僕が学校をサボることになったのに対する謝罪なのだろうか。
「い、いいんだよ、そんな肩を落とさないで」
「いや、今回は厳しく言うべき。S姉、いくらなんでも今回のは」
僕の言葉を断って、お説教モードに入るNちゃん。そこに……。
「も、もういいですから、早くお帰りなさい」
と、こちらと顔をあわせようとしない殺生石が一言。
「謝罪なら、その……後々改めて聞きます。だから今日は」
その言葉にはまるで、拒絶の意図が感じられなかった。
何というか、照れくささとかうれしさとか、いろんなものが混じっているような。
「……また、来ていい?」
そんなSちゃんの言葉に、ただ一言。
「べ、別に。それは主様が決めることですから」
そんな曖昧な返事を返す殺生石。
どうしたんだろうか……と、今度は僕に向けられる、Sちゃんの視線。
「え? あぁ、僕は別にかまわないよ。今度は蛋白石や電気石のいるときにでもね」
結局強く怒ることなんて全く出来ない僕は、その一言で二人から感謝されることになった。
何だか大変な子と知り合っちゃったけれど……賑やかなのは、悪いことじゃないよね。
肩を落として誤るSちゃん。
それは僕が学校をサボることになったのに対する謝罪なのだろうか。
「い、いいんだよ、そんな肩を落とさないで」
「いや、今回は厳しく言うべき。S姉、いくらなんでも今回のは」
僕の言葉を断って、お説教モードに入るNちゃん。そこに……。
「も、もういいですから、早くお帰りなさい」
と、こちらと顔をあわせようとしない殺生石が一言。
「謝罪なら、その……後々改めて聞きます。だから今日は」
その言葉にはまるで、拒絶の意図が感じられなかった。
何というか、照れくささとかうれしさとか、いろんなものが混じっているような。
「……また、来ていい?」
そんなSちゃんの言葉に、ただ一言。
「べ、別に。それは主様が決めることですから」
そんな曖昧な返事を返す殺生石。
どうしたんだろうか……と、今度は僕に向けられる、Sちゃんの視線。
「え? あぁ、僕は別にかまわないよ。今度は蛋白石や電気石のいるときにでもね」
結局強く怒ることなんて全く出来ない僕は、その一言で二人から感謝されることになった。
何だか大変な子と知り合っちゃったけれど……賑やかなのは、悪いことじゃないよね。
◆
「だ、だんな様とあんな……ん、まだぬくもりが残っているようで……ふふ、ふふふふふ……」
「殺生石ぃ、せっかくご主人様のご飯食べてるときに独り言はダメだよー」
「殺生石ぃ、せっかくご主人様のご飯食べてるときに独り言はダメだよー」