宝石乙女まとめwiki

流血注意

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匿名ユーザー

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 2月も終わり、そろそろ外も暖かくなってきた。
 今日は仕事を早めに切り上げての帰宅。まだ夕焼け色に空が染まっている時間帯に
帰れるのは、久しぶりだ。
 ――さて、帰ったら何をしようか。歩きながら、同僚からもらったトマトジュースを飲む。
 まぁ、何をしようと考えたところで、天の相手をさせられるのが関の山、か。
 そんなことを考えているうちに、すでに視界には我が家のドアが見えてきた。
 きっと、こんな時間に帰ってきたら二人とも驚くだろう。
 そんなことを思い、ドアの前へ。ドアノブに手をかけ、鍵がかかっていないのを確認して回す。
「ただいま」
 ほっと一息つきながら玄関へ。
 すると、早速居間のドアを開け放ち、天が玄関に駆け込んでくる。後ろには珊瑚もいるようだが、
顔がうかがえない。
「あーっ、おかえりなさぁーい!」
 残っていたトマトジュースを口に含みながら、天へ視線を向ける。
 相変わらずの笑顔で、こちらへと駆け寄って……何か勢いよすぎないか?
「今日は早かったねーっ!」
 ……腹部に衝撃。
「ぶはぁっ!!」
「にゃーっ!」
 思いっきり人に抱きついてきた天。
 当然、口に含んでいたトマトジュースはすべて口から噴出した。
「どうした、ずいぶんとやかまし……いっ!?」
 そして、様子を伺いに厳寒に顔を出した珊瑚は、見事に硬直した。
 口からトマトジュースを垂らす俺。黄色いドレスを赤く染め、俺の腹にしがみついたままの天。
 その様相は、珊瑚からすれば天のタックルで俺が吐血したように見えたのだろう。
 だからあんなにも青ざめ、身を小刻みに震わせているんだ。
「あ、ある、あ……あるあぁ……はうぅ…………」
 目が合った瞬間、まるでねじが切れたかのように、音を立てて倒れる珊瑚。
「おい珊瑚っ、これは血じゃない! トマトジュースだ!」
「にゃぁ……」

 風呂で体をきれいにし、俺はソファに寝かせた珊瑚の様子を伺う。
 天はすっかり涙目になりながら、俺の隣で正座している。先ほどまでずっと、
もう少し考えて行動しろと説教していたところだ。
 ……しかし、そんなことをしている間中、珊瑚は気絶しっぱなし。現在も起きる気配はない。
 試しに顔を覗き込む……近くで見るのは久しぶりだが、相変わらずきれいな顔だと思う。
「これじゃあ強いんだか弱いんだかわかんねぇな」
 そんな俺の悪口に反応したのか、珊瑚の眉が釣り上がる。
「ん、ぅ……某は、弱く……」
 そんなことをつぶやきながら、ゆっくりと目を開いて……。
「ん……ある、じ……っ!?」
 あぁ、きっと珊瑚の目には俺の顔がアップで映っていたのだろう。
 だから、思いっきり体を跳ね上げ、俺はその煽りを食って珊瑚の額で鼻を打ったんだ。
 声も出なかった。あまりの衝撃で体はのけぞり、そのまま鼻を押さえて悶絶する。
「なっ、あ、あれ? 主が天河石の当て身で吐血っ……主っ、どうした!?」
「お、お前なぁー」
 勢い良くこちらを振り向いた珊瑚に、にらみを送る。だが鼻声では、
俺の怒りも伝わらないだろう。
「ん、某が何か……しかし主、天河石の当て身程度で吐血するほど
軟弱ではいかん……いやいや、まずは医者に連絡を」
「吐血じゃねぇよ。ただのトマトジュースだっ」
 鼻を押さえていた手を離し、テーブルに置かれた空き缶を指差す。
 ちょうどその方向には天もいたためか、俺に指を差されて肩をびくつかせた。
「む、トマトジュース……って、主、鼻から……は、鼻、か……」
「む……これはお前のでこでだな」
 ……話なんて、聞いていなかった。
 俺の鼻血を見て相変わらず顔を青くする珊瑚。
 確かに手は、思ったよりも多い出血で汚れている。だが、それも直後だけで、
今は幾分マシになった。
「主の、血が手にあんな……いや、某は主の使い、傷を負っているならば手当てを……
だが、血があんなに……いやいや」
「何ブツブツ言ってるんだよ。ったく」
 顔を上に向けながら、テーブルに置かれたティッシュ箱に手をやる。
「あ、主っ、ここは某が」
「え? いや、いいって。お前血苦手だろ?」
「苦手がどうという問題ではない! 主の治療も出来ずに、宝石乙女を名乗れるかっ」
 と、偉そうにこちらを指差す珊瑚。その指は震えているが。
「じゃ、じゃあ天河石もっ!」
 そういうと、背後にいた天までそんなことを言い出す。
「まずはお鼻をふきふきするねっ」
「いや、だから自分で……あー」
 俺の言葉も聞かず、胡坐をかく俺の右隣に座った天が、ティッシュ箱から
取ったティッシュで俺の鼻を拭く。
 小さく、細い指が、俺の鼻を撫でる。とてもやわらかい感触だ。
「そ、それでは某も……」
 天に遅れ、左膝に座った珊瑚も、ティッシュを持った震える指先を向けてくる。
 ゆっくりと、まるでカタツムリの歩みのように近寄る指……あ、触れた。
 天よりは一回りほど大きな指。だが、その柔らかさは同じだ。
 状況としては、両手に花ってことだろう。だが、それで鼻血を拭いてもらっているというのは、
どうにも間抜けな光景しか浮かばない。
「なぁ、もういいからさ」
「ううん、止まるまで吹いてあげるよっ」
「そ、そうだ。止まるまでだ……止まる、まで」
 ティッシュに染み込む血を見て、その動きがさらにぎこちなくなる珊瑚。
 何を思ってか、一心不乱に俺の鼻を拭き続ける天。
 ありがたいことなのかもしれないが……なんだか、腹が減ったな。

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