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ヴァレンタインのそのあとは

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匿名ユーザー

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ヴァレンタイン後の週末、夕食も済んだ静かな時間。ペリドットを誘って呑むことにする。

「少し付き合わないか?」
「お酒ですか? 喜んでお付き合いいたしますわ♪」
真珠さんの影響なのだろうか、アルコールに誘うと断ることが無い。
もっとも、酒というよりはその場の、その席の雰囲気が好きなようだ。 肩の力を抜いた、飾らない空気。
ヒトとヒトとの距離感が近くなることを彼女はよく知っている。
お互いに親密な関係になりたいからこそ、彼女は僕とも姉妹ともよく呑むのだ。

『妹達が大きくなるのが楽しみなんです』
頬を赤くしてそう言っていたこともあったっけ。 その時は僕も一緒に飲みたいと言ったら渋い顔をしたっけなぁ。

『マスターとお酒を呑むのは私だけです。本当は姉さん達とも一緒にはさせたくないのですからね』
そう言い切られたっけ。 目が据わっていたなぁ。


「どうしたのですか?」
「いやいや、ちょっと以前のことを思い出していただけですよ」
「あらあら、思い出し笑いなんて嫌ですねぇ」
「貴女以外には こんな顔見せませんよ。 こうして油断できるのも、貴女の前だけです」
「ふふふっ、それはいいことですね」

上機嫌で酒の仕度をしてくれる彼女。 僕と彼女のお気に入りのスコッチと大振りの氷。大き目のゴブレット。
そしてチョコレート。

「まだチョコがあったんだ」
先日、彼女のチョコレートを食べたばかりなのに。

「実は、鉄鉱石と瑪瑙の作ったチョコなんです。今年は3人で一緒に作ったものですから。
 これは、2人からマスターへって渡されていたものなんです。本当は14日に出すべきだったのですけど……」
言葉を濁して視線を外すペリドット。 ふむ、こんな顔をすることもあるんだ。

「14日には自分の作ったチョコレートだけを味わって欲しかった、って言うところかな?」
「ごめんなさい、マスター。私、自分の我侭で彼女達の好意を無にするところでしたわ」
「まあ、僕が彼女達に会う前に食べることが出来て善かったってことでいいでしょ。お礼を言うこともできるし。
 それに、貴女のそういうささやかな嫉妬も 僕は好きなんです」
「んもう。 マスターがいけないのですからね」
ほのぼのとした顔の下に隠された彼女の女としての顔がある。 そのことに気が付いたときはとまどいもしたけれど。

ゴブレットに角を落した大き目の氷を二つ入れ、スコッチウイスキーを注ぐ。 水とウイスキーは1:1のハーフロック。
酒の辛さとチョコレートの甘さが程よくバランスが取れている。 チョコの香りがウイスキーによって引き立つ。
これはいい取り合わせだ。

他愛の無い会話とお気に入りの酒が上質の時間を作ってくれる。酔いが心地よい。

「もう一杯どうだい?」
「あら、私を酔わせてどうなさるのですか?」
頬を赤く染めて瞳をトロンと潤ませた彼女がせまる。 寄り添う温かさと柔らかさにも慣れたものだ。

「そうだね、抱きしめてキスしてもいいかい?」
トロンとした瞳が大きく驚いた目になり、そしてニッコリとした。
僕の大好きな極上の笑み。

ここから先は大人の時間。お月様以外は誰も見ていない内緒の時間。
こうして、僕と彼女はますます仲良くなっていくんだ。

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