宝石乙女まとめwiki

お箸を使おう

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匿名ユーザー

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 今日の晩飯は、白いご飯におでんと味噌汁、そして天の好物ハンバーグ。
 そして、俺達三人の手には、それぞれ自分専用の箸。珊瑚の焼くハンバーグは
小さくて柔らかいため、箸でも十分食べられるものだ。
 それにしても、箸というのは便利ではあるが慣れてない人には使いにくい代物だと、つくづく思う。
「天河石、また箸の持ち方が悪いぞ」
「あうぅー……」
 珊瑚と天河石の、毎日食事時に繰り返されるやりとり。
 天河石の手にある箸は、いつも通りバツ印を描きながら、危なっかしい
箸使いでおかずを取ろうとしている。
 俺も、子供の頃は親にこんな感じで怒られた。天には悪いが、日本の子供が通るべき
宿命として、耐えてもらうとする。
「こら、刺して食べようとしない」
「えうぅ」
「だけど一応箸にはフォークとしての使い方も」
「そういう問題ではない」
 思わずフォローしようと口を挟むも、珊瑚の厳しい視線には勝てそうにない。
 さすがというべきか……しつけには厳しいな。
「天河石はやれば出来るだろう。だから頑張るんだ」
「う、うん。頑張るよっ」

 日曜日。
 珊瑚は買い物に出かけ、暇つぶしに新聞を眺めていたときのこと。
「ん、なんだそれ?」
 台所から戻ってきた天河石。
 その手には、何か光沢のある黒い物が盛りつけられた皿が一つ。
「納豆巻きだよー」
「納豆ぉ? お前、いつからそんなモン食べるようになったんだよ」
「納豆はぁ、体にいいんだよー」
「いや、そうじゃなくてだな……」
 ピーマンとか嫌いな癖に、何で癖の強い納豆は平気なんだ、天。俺はかなり苦手なのに。
「で、何でいきなり納豆巻きなんだ?」
「今日のおやつだよー」
 納豆巻きがおやつって、何か変な話に感じてしまう。
 それよりも、時計を確認してみたらすでに午後3時。ぼんやりと新聞眺めてただけで
2時間も経過してたのかよ。
「あっ、お醤油ー」
 そういって、再び台所へ戻る天。
 食器棚を開け閉めする音が響いた後、小皿と醤油差しを持った天河石が、再びこちらに戻ってくる。
「ちょろちょろぉー」
 ご機嫌な様子で、小皿に醤油をわずかに注ぐ。
 そして、事前に持ってきていた箸を手に、納豆巻きと向き合う……。
 しかし、箸は相変わらずのバツ印。これは注意するべきなのだろうか。
「んー……」
 しかし、納豆巻きに手を付ける前に、箸を持つ右手をどこか困った様子で見つめている。
 首を何度か左右にかしげる天。しばらくして、その視線は俺の方に向けられる。
「マスタぁー、お箸の持ち方教えて?」

 天を膝の上に座らせ、箸を持った右手に俺の右手を重ね、納豆巻きと向き合わせる。
「いいかー、上になる方を親指と人差し指で押えて、箸同士の間に中指を挟むんだぞ」
「うん。えっとぉ、人差し指、ひとさし……んぅー」
 自分の指を目で確認しながら、ぎこちない動作で箸を持つ。
 だが、震える手から箸が片方、テーブルの上に落ちてしまう。
「あっ」
「そんなに堅くなるなよー。ほら、こうやってな……」
 近くにあった色鉛筆2本で、箸を持つ動作を見せてやる。
「マスタぁー上手ー」
「そりゃあ、俺も天みたく怒られながら覚えたからな」
「怒られたの? お母さん?」
「いや、親父」
 うちの親父、珊瑚と違って飴と鞭なんて生易しい方法はやらない。ダメならダメと
徹底的に怒鳴りつけてきやがった。
 それからすれば、珊瑚のしつけはホント上手くできていると思う。現にこうして、
あいつのいないところでも天は練習するんだから。
 何というか、羨ましい話だ。俺もあんな姉貴がいたら……。
「マスタぁー?」
「……あぁ、悪い。ほら、箸持ったか?」
「うん。えーと……こぉ?」
 バツ印にならない、きちんとした持ち方。
 しかし、上の箸を動かすときに、中指が下の箸に付いたまま動いていない。
 おかげで、箸の動きは震えてしまい、ぎこちなくなってしまう。
「あー、中指は人差し指達と一緒に動かそうな」
「んー……下のお箸、落っこちそうだよ?」
 不安げな表情を、こちらへ向けてくる。
 本当は、こういう事を教えるの苦手なんだがなぁ……。
「下の箸は親指と薬指で押えるんだよ。こうして……」
 だが、真剣に練習をしようとする天の手前、協力しない訳にはいかない。
 とことん付き合ってやろうじゃないか。納豆巻きに手を付けられるのは
しばらく後になりそうだが。

 今日の晩飯は、白いご飯に肉じゃがと豚汁、そして天の苦手なピーマン入り野菜炒め。
「天河石、箸の持ち方が上手くなったな」
「えへへー。マスタぁーと練習したんだよー」
 そう言って、笑顔を浮かべる天。
 しかし、珊瑚の表情はそれほど穏やかなものではない。天の前に置かれた皿に
視線を置き、ため息を漏らす。
「箸は上手く使えても、ピーマンは特別掴めないらしいな」
「あう……え、えっとね、ピーマンさんはぁ、食べられたくないよぉーって、逃げるのっ」
「天河石」
 有無を言わさぬ珊瑚の視線。その顔を見ることが出来ず、困った笑顔で俯いてしまう天。
 これもまた、相変わらずのやりとり。だが箸とは違い、なかなか上手くいくものでもなさそうだ。
「好き嫌いはダメだ。少しずつでいいから、他のおかずと一緒に食べるんだ」
「うぅー……で、でもっ、マスタぁーも納豆は嫌ーって。せっかく一緒に食べたかったのに……」
「ちょっ、なぜそこで俺に振る!」
「それとこれとは話が別だ。だが主……」
 今度は俺にまで向けられる、厳しい視線。天河石に向けられるのよりも、一層厳しさを感じる。
 これはあれか、納豆が食べられるようになるまで俺は調教を受けるのか?
 有無を言わさぬ珊瑚の視線に、俺の顔も俯いてしまった。

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