殺生石は巫女が嫌いだという。
確かに、妖怪と神事では仲が悪いのは当然だと思う。だけど初詣に行こうとしたら。
『神に頼るぐらいならわたくしを頼ってください!』
なんて、泣きながら言われるとは思いもしなかった。
「マスター……おみくじ」
そういって、電気石が手渡してきた物。
他の子と初詣に行ったときに取ってきたおみくじかな。その紙は、まだ開かれた形跡がない。
「これは僕の分?」
うなずく電気石。
「そっか、ありがとう」
「いいんだよー」
電気石からおみくじを受け取り、早速中身を開いてみる。
僕じゃなく電気石が引いてきた物なんだから、僕の運勢でもない気が……お、大吉だ。
「小吉?」
「ううん、大吉」
「大吉……すごい?」
「うん」
「マスター、すごい……ばんざい」
まるで背伸びをするように、両腕を頭上に上げる電気石の姿。
それにしても、何年ぶりの大吉だろう。この手の物はあまり信じていないけど、何かいいことがあるかもと期待してしまう。
と、そこに玄関のドアが開く音。そして廊下から迫る足音。
「ご主人様ーっ、ただいま戻りましたー!」
紙袋片手の蛋白石が、勢いよく居間へと入ってくる。
「おかえり。蛋白石、もう少し静かにね」
「えへへ、ごめんなさい。それでご主人様、殺生石はどこですか?」
そんな蛋白石の言葉と同時に、台所からミカンを取ってきた殺生石が姿を現す。
腕に抱えるほどのミカン。ホント好きだなぁ。
「妾が何か?」
蛋白石の方に顔を向ける殺生石。
黄色い耳が、わずかに揺れる。
「あっ、よかったー。あのね、今日ペリドット姉様からいい物もらってきたんだよっ」
「ペリドットから……?」
話は聞いていなかったかのように、殺生石が呟く。
そんな彼女に笑顔を向ける蛋白石。床に紙袋を置き、おもむろにその中へ手を。
一体何が出てくるのか。蛋白石の笑顔と共に、袋の中身がその姿を見せる。
「じゃーんっ」
蛋白石は笑顔を浮かべ、電気石はぼんやりとその光景を眺める。
そして殺生石は……あぁ、やっぱりすごく嫌そうな顔をしてる。抱えていたミカンも、床に落としてしまった。
「おめかしにどうですかって、紅白の着物だよー」
いかにも巫女さんの服を連想させる、二着の着物。着物についてはよく分からないけれど、普段殺生石がしているように、重ねて着る物なのだろう。
だけど、形状を察するに赤い方を上に着るような気がする。何だか金色の刺繍もしてあるし、上に羽織った方が見栄えがいいと思う。
「殺生石は洋服好きじゃないんだよね。でもこれなら、今年のクリスマスは殺生石もサンタになれるよっ」
「いや、妾はそのようなものを……」
殺生石が、巫女さんの服を連想したのは間違いない。本当に嫌そうだ。
「それに日本では紅白はめでたいよー。ねっ、ご主人様?」
蛋白石の笑顔が、今度はこちらに向けられる。
「え、うん。多分」
どうしてなのかとか、理由までは知らないけど。
「ほら、ご主人様もそういってるから。はいっ」
それがどういう理由になっているのか。とにかく、嬉しそうに二着の着物を殺生石に向ける。
当然、殺生石の表情は困り果てている様子だ。蛋白石の厚意を無碍にも出来ないし、生理的嫌悪感も拭えないだろうし。
……でも、着たら似合いそうだよなぁ。
「わ、妾にそのような煌びやかなのは似合いませんから。気持ちだけで」
「えーっ、絶対似合うよぉー。そうですよねー、ご主人様っ」
「……綺麗なの、似合う。ばんざいー」
蛋白石に続いて、電気石までこちらに顔を向けてくる。
どうしてここで僕に振るかなぁ……しかも、すごく期待に満ちた眼差しまで。
「そ、それは……うん、似合うと思う。うん」
ごめん、殺生石。この二人の眼差しに勝てなかった。
多分、僕の答えが最後の頼りだったのだろう。期待を裏切る答えで、殺生石の顔に焦燥の色が浮かぶ。
「そそ、そんなっ。妾はっ」
「よかったね。きっと着たらご主人様も喜んでくれるよー」
「ばんざーい」
「確かにそれはよい話……じゃなくてっ、何を詰め寄ってきているのですかっ。主様っ!」
着物を手に詰め寄る蛋白石と電気石。
そんな二人から助けてくれと言わんばかりの、殺生石の視線。
「え、えっと、二人とも……」
何とか二人を止めようと、声を掛ける。
だけど……。
「さぁっ、向こうで早速試着だよーっ」
「だよー」
「あっ、こら、離しなさい! あ、主様ってば!」
「殺生石……あの、二人とも話を」
「ご主人様ー、着替えを覗いちゃめーですよー」
「めー」
結局僕の言葉は聞き入れられず、隣の部屋とを仕切るふすまが、電気石の手によって閉められる。
「いやぁーっ!」
……ごめんね、殺生石。今度実家からミカン届くから、それで許して。
確かに、妖怪と神事では仲が悪いのは当然だと思う。だけど初詣に行こうとしたら。
『神に頼るぐらいならわたくしを頼ってください!』
なんて、泣きながら言われるとは思いもしなかった。
「マスター……おみくじ」
そういって、電気石が手渡してきた物。
他の子と初詣に行ったときに取ってきたおみくじかな。その紙は、まだ開かれた形跡がない。
「これは僕の分?」
うなずく電気石。
「そっか、ありがとう」
「いいんだよー」
電気石からおみくじを受け取り、早速中身を開いてみる。
僕じゃなく電気石が引いてきた物なんだから、僕の運勢でもない気が……お、大吉だ。
「小吉?」
「ううん、大吉」
「大吉……すごい?」
「うん」
「マスター、すごい……ばんざい」
まるで背伸びをするように、両腕を頭上に上げる電気石の姿。
それにしても、何年ぶりの大吉だろう。この手の物はあまり信じていないけど、何かいいことがあるかもと期待してしまう。
と、そこに玄関のドアが開く音。そして廊下から迫る足音。
「ご主人様ーっ、ただいま戻りましたー!」
紙袋片手の蛋白石が、勢いよく居間へと入ってくる。
「おかえり。蛋白石、もう少し静かにね」
「えへへ、ごめんなさい。それでご主人様、殺生石はどこですか?」
そんな蛋白石の言葉と同時に、台所からミカンを取ってきた殺生石が姿を現す。
腕に抱えるほどのミカン。ホント好きだなぁ。
「妾が何か?」
蛋白石の方に顔を向ける殺生石。
黄色い耳が、わずかに揺れる。
「あっ、よかったー。あのね、今日ペリドット姉様からいい物もらってきたんだよっ」
「ペリドットから……?」
話は聞いていなかったかのように、殺生石が呟く。
そんな彼女に笑顔を向ける蛋白石。床に紙袋を置き、おもむろにその中へ手を。
一体何が出てくるのか。蛋白石の笑顔と共に、袋の中身がその姿を見せる。
「じゃーんっ」
蛋白石は笑顔を浮かべ、電気石はぼんやりとその光景を眺める。
そして殺生石は……あぁ、やっぱりすごく嫌そうな顔をしてる。抱えていたミカンも、床に落としてしまった。
「おめかしにどうですかって、紅白の着物だよー」
いかにも巫女さんの服を連想させる、二着の着物。着物についてはよく分からないけれど、普段殺生石がしているように、重ねて着る物なのだろう。
だけど、形状を察するに赤い方を上に着るような気がする。何だか金色の刺繍もしてあるし、上に羽織った方が見栄えがいいと思う。
「殺生石は洋服好きじゃないんだよね。でもこれなら、今年のクリスマスは殺生石もサンタになれるよっ」
「いや、妾はそのようなものを……」
殺生石が、巫女さんの服を連想したのは間違いない。本当に嫌そうだ。
「それに日本では紅白はめでたいよー。ねっ、ご主人様?」
蛋白石の笑顔が、今度はこちらに向けられる。
「え、うん。多分」
どうしてなのかとか、理由までは知らないけど。
「ほら、ご主人様もそういってるから。はいっ」
それがどういう理由になっているのか。とにかく、嬉しそうに二着の着物を殺生石に向ける。
当然、殺生石の表情は困り果てている様子だ。蛋白石の厚意を無碍にも出来ないし、生理的嫌悪感も拭えないだろうし。
……でも、着たら似合いそうだよなぁ。
「わ、妾にそのような煌びやかなのは似合いませんから。気持ちだけで」
「えーっ、絶対似合うよぉー。そうですよねー、ご主人様っ」
「……綺麗なの、似合う。ばんざいー」
蛋白石に続いて、電気石までこちらに顔を向けてくる。
どうしてここで僕に振るかなぁ……しかも、すごく期待に満ちた眼差しまで。
「そ、それは……うん、似合うと思う。うん」
ごめん、殺生石。この二人の眼差しに勝てなかった。
多分、僕の答えが最後の頼りだったのだろう。期待を裏切る答えで、殺生石の顔に焦燥の色が浮かぶ。
「そそ、そんなっ。妾はっ」
「よかったね。きっと着たらご主人様も喜んでくれるよー」
「ばんざーい」
「確かにそれはよい話……じゃなくてっ、何を詰め寄ってきているのですかっ。主様っ!」
着物を手に詰め寄る蛋白石と電気石。
そんな二人から助けてくれと言わんばかりの、殺生石の視線。
「え、えっと、二人とも……」
何とか二人を止めようと、声を掛ける。
だけど……。
「さぁっ、向こうで早速試着だよーっ」
「だよー」
「あっ、こら、離しなさい! あ、主様ってば!」
「殺生石……あの、二人とも話を」
「ご主人様ー、着替えを覗いちゃめーですよー」
「めー」
結局僕の言葉は聞き入れられず、隣の部屋とを仕切るふすまが、電気石の手によって閉められる。
「いやぁーっ!」
……ごめんね、殺生石。今度実家からミカン届くから、それで許して。
「主様が……あんな事を言うから……」
「ご、ごめんね、本当。でも巫女服じゃないからそんなに嫌がる必要は」
「連想するだけでも嫌です! あんな、あんな……あぁ、思い出したら腹が立ってきました」
……例の着物を着せられ、涙目の殺生石。
一体、昔神様か何かとどういう因縁があったのか。ちょっと気になってしまった。
でもね、口には出せないけれど……やっぱ殺生石って着物が似合うなぁ。
「ご、ごめんね、本当。でも巫女服じゃないからそんなに嫌がる必要は」
「連想するだけでも嫌です! あんな、あんな……あぁ、思い出したら腹が立ってきました」
……例の着物を着せられ、涙目の殺生石。
一体、昔神様か何かとどういう因縁があったのか。ちょっと気になってしまった。
でもね、口には出せないけれど……やっぱ殺生石って着物が似合うなぁ。