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付け耳じゃない!

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匿名ユーザー

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 元旦の朝。
 殺生石に年始の挨拶をして、郵便受けに年賀状を取りに行ったんだけど……。
「おーい、あけおめーっ」
 と、インターホンも鳴らさずにドアを開けてきたのは、月長石ちゃん。
 片手には紙袋を持って、その表情は相変わらず明るい笑顔。
「って、ちょ、脅かさないでって」
「えー、驚いたの? 相変わらず度胸ないのねー。おじゃましまーす」
 さすがにちょっとは注意を。そんな僕の言葉を待たずして、家に上がっていく月長石ちゃん。
 まぁ、今更だけど……はぁ。
 そして月長石ちゃん。真っ直ぐと居間へと向かい、ドアを開く。
「あけおめーっ。殺生石いるー?」
 って、殺生石なら目の前のこたつでミカン食べてるのに。
 大体、月長石ちゃんが殺生石に用って。いつも怒られてばかりで、苦手じゃないのかな。
「ここにいますが。あまり大声を出さないで頂きたいのですが」
 ミカン食べるのを邪魔されたからか、やや不機嫌そうな殺生石の声。
「ん、あぁいたいた。殺生石ぃー」
 郵便受けに会った年賀状を取り、続いて居間に戻ると、なぜか殺生石の背後に立っている月長石ちゃん。
 そしてなぜか、殺生石の狐耳を触る。あまり触りすぎると怒られるのに。
「んっ……ちょっと、やめなさい」
「いいじゃなーい、減るモンじゃないしぃ。しっかし、相変わらずの耳ねぇ」
「それは貴女も一緒でしょう……」
 ごもっとも。
「ん、あたしはいいのよー。それより殺生石、今年は何年か分かる?」
「……ネズミですが、何か」
 そう、今年は子年。僕の手の中にある年賀状も、ネズミの絵柄ばかりだ。
中には某有名なネズミもいる。
「そうだよねー、ネズミだよねー。だから、はい」
 その言葉に、なぜか嬉しそうな笑みを浮かべる月長石ちゃん。
 だが、こういうときは大抵よくないことばかりだ。不安を抱きながら、
紙袋の中に手を入れた彼女を眺める。
 一体何を……そう思った矢先、紙袋から出てきた物。
 ……カチューシャ? いや、違う。アレは……。
「じゃーんっ。ネズミ耳ー」
 ヘアバンドに、ネズミの耳をあしらったのであろう、灰色の丸い物体。
 それをネズミの耳というのはどうかと思うけど、まぁ世間一般的なネズミ耳。
「それが何か」
「え? いやぁ、せっかくの新しい年なんだから、殺生石もこう、ね」
 言葉よりも先に、手が動いていた。
 ネズミ耳ヘアバンド。それを、殺生石の頭頂に付ける。
 このネズミ耳、殺生石の耳より大きいため、見事に狐耳を隠してしまう。
 という訳で、ネズミ耳殺生石の完成。可愛いとは思うけど、やられてる方は……。
「……貴女、どういうつもりで?」
「へ? イメチェンよぉ。たまにはその耳も外してさ?」
「それで、ネズミになれと?」
「うん」
 悪気満々の笑顔を向ける月長石ちゃん。
 いや、当人は楽しいかも知れないけど、僕としては……。
「……月長石ぃ!」
 ほら、やっぱり怒った!
 それが狙いなのは分かっていたけど、さすがにこの豹変ぶりには驚く。
耳に関して馬鹿にするようなことすると、本気で怒るんだよね……。
 しかし、僕がそれを知るきっかけを作ったのも月長石ちゃんのせいだ。
怒るのを最初から予測していた彼女は、いつの間にか僕の背後に隠れていた。
「まぁまぁー。結構似合ってるし、いいじゃなーい」
「そういう問題では……えぇい、この小娘!!」
「せ、殺生石っ、とりあえず落ち着いて落ち着いて!」
「主様、すぐそこをお退きになって!!」
 これは、止められるようなものでは……。
「ご主人様ー、ただい……ひゃあっ!」
 タイミング悪く、ペリドットさんの家に遊びに行っていた蛋白石と電気石が帰ってきてしまう。
「え、ちょっ、殺生石、どうしたの?」
「貴女には関係ありません!」
「……ねずみさん? ちゅーちゅー」
 そこで、更にタイミングの悪い、電気石の一言。
 言いたい気持ちは分かるよ。でも、出来れば居間は止めて欲しかった……。
 案の定、殺生石の表情が、更に暗くなる。この純粋な怒り、恐怖以外しか感じられない。
「おぉ、さすがに危なくなってきたなぁ。じゃあ【蛋白石のマスター】、後はよろしくねー。
ほら、逃げよう逃げよう」
「へ? あ、月長石ちゃぁーんっ」
 なぜか蛋白石と電気石の手を引いて、一目散に外へと逃げ出す月長石ちゃん。
 置いてきぼりを食った僕。目の前には怒り心頭の殺生石。
すでに黙っているだけでも、その怒りの強さが分かる。
「え、ちょっ、よろしくって!?」
 いくら何でも、これを何とかするなんて……。
「えっと、せ、殺生石。落ち着いて?」
「……ちゅーちゅー、ですか。ふふふ、そうですか、妾は猫を騙したネズミと……」
「そ、そうじゃなくってね、えと……ほ、ほらっ、こういう殺生石も何だか新鮮で可愛……」
 あぁ、僕はバカだ。
 今の姿を褒めたって、殺生石が喜ぶ訳ないのに。
「……いくら主様といえど、今のは聞き捨てなりませんね」
 怒りが度を過ぎ、すでに笑顔すら浮かべる殺生石。
 ……2008年、僕は早速ピンチです。


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