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  連日の残業。今日も帰宅は深夜か。さすがに疲れる。でも、独りのころとは違うからな。部屋に帰ることが楽しみになっている。 「ただいま」 「おかえりなさい。今日もお疲れ様です」   『おかえりなさい』。この一言を言ってもらえることがこんなに嬉しいものだとは、ペリドットと出会うまで知らなかった。ましてや、出迎えてくれるのが彼女だ。これ以上に幸せなことはない。 「最近、お帰りが遅いですね。お体は大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」   心配してくるんだなぁ。素直に嬉しいや。   おかしなものだ。同じようなことを言ってくれる人がいなかったワケじゃないが、聞く耳持たなかったんだよな。不思議と、彼女の言葉なら素直に受け入れられる。 「ああ、ありがと。少し疲れてるけど、あと一日だから。頑張るよ」 「あら、明日はお休みなのでは?」 「追い込み時期なんでね。9月末は大変なんだ」 「そうなんですか。忙しいのでしょうけど、過ぎた無理はなさらないでくださいね。あ、お食事なさいます?」 「いや、この時間だしね。ああ、でもスープくらい飲もうかな」 「はい。温めてきますね」   少し残念そうな……ああ、そうか。ソファーから立ち上り、キッチンに向かう。何かの歌を口ずさんでいる彼女の後姿。エプロン姿がよく似合う。彼女を後ろから抱きしめてみる。 「すまないね。一緒に過ごす時間を減らしてしまった」   手が重ねられる。 「いいんですよ。まだまだこれからがありますから。それに……」 「それに?」 「仕事に向かっていくマスターの顔、とても凛々しい顔をしてます。二人でいるときは見せてくれない顔です。けっこう好きなんですよ、あの顔」   体の向きを変え、僕の顔を見上げるペリドット。しまった。今夜も僕の負けだ。 「私には入り込めない世界なんでしょうから、私は私ができることで、あなたを助けたいのです」   全てを見透かされるような彼女の瞳。実際、見透かされているのだろうな。でも、なぜかそれが心地よい。 「私にできることがあれば、何でも言ってくださいね」 「ありがとう。頼りにしてるよ。で、さっそくなんだけど」 「はい!」 「鍋の火を止めてくれないか」 「えっ? あら? あらあらあらあら……」   何ごともそつなくこなす彼女も、ときどき何かをしでかしてくれる。それが僕に気をつかった演出なのか、天然なのか判らないけれど、そういうところも愛しく思う僕は、もう彼女なしではいられないな――そう思わせられるんだ。 「ますたぁ……お鍋が……」 「火傷しなかった?」 「はいぃ……ごめんなさい……」 「いいんだよ。鍋より君のほうが大事。さて、片付けましょうか」 「は、はい」
  連日の残業。今日も帰宅は深夜か。さすがに疲れる。でも、独りのころとは違うからな。部屋に帰ることが楽しみになっている。 「ただいま」 「おかえりなさい。今日もお疲れ様です」   『おかえりなさい』。この一言を言ってもらえることがこんなに嬉しいものだとは、ペリドットと出会うまで知らなかった。ましてや、出迎えてくれるのが彼女だ。これ以上に幸せなことはない。 「最近、お帰りが遅いですね。お体は大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」   心配してくれるんだなぁ。素直に嬉しいや。   おかしなものだ。同じようなことを言ってくれる人がいなかったワケじゃないが、聞く耳持たなかったんだよな。不思議と、彼女の言葉なら素直に受け入れられる。 「ああ、ありがと。少し疲れてるけど、あと一日だから。頑張るよ」 「あら、明日はお休みなのでは?」 「追い込み時期なんでね。9月末は大変なんだ」 「そうなんですか。忙しいのでしょうけど、過ぎた無理はなさらないでくださいね。あ、お食事なさいます?」 「いや、この時間だしね。ああ、でもスープくらい飲もうかな」 「はい。温めてきますね」   少し残念そうな……ああ、そうか。ソファーから立ち上り、キッチンに向かう。何かの歌を口ずさんでいる彼女の後姿。エプロン姿がよく似合う。彼女を後ろから抱きしめてみる。 「すまないね。一緒に過ごす時間を減らしてしまった」   手が重ねられる。 「いいんですよ。まだまだこれからがありますから。それに……」 「それに?」 「仕事に向かっていくマスターの顔、とても凛々しい顔をしてます。二人でいるときは見せてくれない顔です。けっこう好きなんですよ、あの顔」   体の向きを変え、僕の顔を見上げるペリドット。しまった。今夜も僕の負けだ。 「私には入り込めない世界なんでしょうから、私は私ができることで、あなたを助けたいのです」   全てを見透かされるような彼女の瞳。実際、見透かされているのだろうな。でも、なぜかそれが心地よい。 「私にできることがあれば、何でも言ってくださいね」 「ありがとう。頼りにしてるよ。で、さっそくなんだけど」 「はい!」 「鍋の火を止めてくれないか」 「えっ? あら? あらあらあらあら……」   何ごともそつなくこなす彼女も、ときどき何かをしでかしてくれる。それが僕に気をつかった演出なのか、天然なのか判らないけれど、そういうところも愛しく思う僕は、もう彼女なしではいられないな――そう思わせられるんだ。 「ますたぁ……お鍋が……」 「火傷しなかった?」 「はいぃ……ごめんなさい……」 「いいんだよ。鍋より君のほうが大事。さて、片付けましょうか」 「は、はい」

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