「夜の生活」(2006/10/10 (火) 09:35:38) の最新版変更点
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連日の残業。今日も帰宅は深夜か。さすがに疲れる。でも、独りのころとは違うからな。部屋に帰ることが楽しみになっている。
「ただいま」
「おかえりなさい。今日もお疲れ様です」
『おかえりなさい』。この一言を言ってもらえることがこんなに嬉しいものだとは、ペリドットと出会うまで知らなかった。ましてや、出迎えてくれるのが彼女だ。これ以上に幸せなことはない。
「最近、お帰りが遅いですね。お体は大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」
心配してくるんだなぁ。素直に嬉しいや。
おかしなものだ。同じようなことを言ってくれる人がいなかったワケじゃないが、聞く耳持たなかったんだよな。不思議と、彼女の言葉なら素直に受け入れられる。
「ああ、ありがと。少し疲れてるけど、あと一日だから。頑張るよ」
「あら、明日はお休みなのでは?」
「追い込み時期なんでね。9月末は大変なんだ」
「そうなんですか。忙しいのでしょうけど、過ぎた無理はなさらないでくださいね。あ、お食事なさいます?」
「いや、この時間だしね。ああ、でもスープくらい飲もうかな」
「はい。温めてきますね」
少し残念そうな……ああ、そうか。ソファーから立ち上り、キッチンに向かう。何かの歌を口ずさんでいる彼女の後姿。エプロン姿がよく似合う。彼女を後ろから抱きしめてみる。
「すまないね。一緒に過ごす時間を減らしてしまった」
手が重ねられる。
「いいんですよ。まだまだこれからがありますから。それに……」
「それに?」
「仕事に向かっていくマスターの顔、とても凛々しい顔をしてます。二人でいるときは見せてくれない顔です。けっこう好きなんですよ、あの顔」
体の向きを変え、僕の顔を見上げるペリドット。しまった。今夜も僕の負けだ。
「私には入り込めない世界なんでしょうから、私は私ができることで、あなたを助けたいのです」
全てを見透かされるような彼女の瞳。実際、見透かされているのだろうな。でも、なぜかそれが心地よい。
「私にできることがあれば、何でも言ってくださいね」
「ありがとう。頼りにしてるよ。で、さっそくなんだけど」
「はい!」
「鍋の火を止めてくれないか」
「えっ? あら? あらあらあらあら……」
何ごともそつなくこなす彼女も、ときどき何かをしでかしてくれる。それが僕に気をつかった演出なのか、天然なのか判らないけれど、そういうところも愛しく思う僕は、もう彼女なしではいられないな――そう思わせられるんだ。
「ますたぁ……お鍋が……」
「火傷しなかった?」
「はいぃ……ごめんなさい……」
「いいんだよ。鍋より君のほうが大事。さて、片付けましょうか」
「は、はい」
連日の残業。今日も帰宅は深夜か。さすがに疲れる。でも、独りのころとは違うからな。部屋に帰ることが楽しみになっている。
「ただいま」
「おかえりなさい。今日もお疲れ様です」
『おかえりなさい』。この一言を言ってもらえることがこんなに嬉しいものだとは、ペリドットと出会うまで知らなかった。ましてや、出迎えてくれるのが彼女だ。これ以上に幸せなことはない。
「最近、お帰りが遅いですね。お体は大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」
心配してくれるんだなぁ。素直に嬉しいや。
おかしなものだ。同じようなことを言ってくれる人がいなかったワケじゃないが、聞く耳持たなかったんだよな。不思議と、彼女の言葉なら素直に受け入れられる。
「ああ、ありがと。少し疲れてるけど、あと一日だから。頑張るよ」
「あら、明日はお休みなのでは?」
「追い込み時期なんでね。9月末は大変なんだ」
「そうなんですか。忙しいのでしょうけど、過ぎた無理はなさらないでくださいね。あ、お食事なさいます?」
「いや、この時間だしね。ああ、でもスープくらい飲もうかな」
「はい。温めてきますね」
少し残念そうな……ああ、そうか。ソファーから立ち上り、キッチンに向かう。何かの歌を口ずさんでいる彼女の後姿。エプロン姿がよく似合う。彼女を後ろから抱きしめてみる。
「すまないね。一緒に過ごす時間を減らしてしまった」
手が重ねられる。
「いいんですよ。まだまだこれからがありますから。それに……」
「それに?」
「仕事に向かっていくマスターの顔、とても凛々しい顔をしてます。二人でいるときは見せてくれない顔です。けっこう好きなんですよ、あの顔」
体の向きを変え、僕の顔を見上げるペリドット。しまった。今夜も僕の負けだ。
「私には入り込めない世界なんでしょうから、私は私ができることで、あなたを助けたいのです」
全てを見透かされるような彼女の瞳。実際、見透かされているのだろうな。でも、なぜかそれが心地よい。
「私にできることがあれば、何でも言ってくださいね」
「ありがとう。頼りにしてるよ。で、さっそくなんだけど」
「はい!」
「鍋の火を止めてくれないか」
「えっ? あら? あらあらあらあら……」
何ごともそつなくこなす彼女も、ときどき何かをしでかしてくれる。それが僕に気をつかった演出なのか、天然なのか判らないけれど、そういうところも愛しく思う僕は、もう彼女なしではいられないな――そう思わせられるんだ。
「ますたぁ……お鍋が……」
「火傷しなかった?」
「はいぃ……ごめんなさい……」
「いいんだよ。鍋より君のほうが大事。さて、片付けましょうか」
「は、はい」
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