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  ぽつり。湖畔の水面に波紋が広がる。   雨か……。   ぽつぽつと波紋は数を増やしていく。日中の空模様からすると、特に雨の気配はなかったのだが……秋の天気はうつろいやすい。   本降りになるかもしれないな……人ごとのようにそう考える。別に本降りになろうとかまわない。雨は嫌いではない。むしろ好きだ。何の区別もなく、すべてを洗い流すさまが気に入っている。   淀んだ沼の底から這い出ていた私は、土と血で汚れきっている。それを洗い流してくれるような気がするのだ。   ぽつり。頬に雨粒があたる。手を出すと、それは手のひらに落ちて弾けた。わずかな刺激と冷たさが、私に存在の実感を与える。   夜の静けさは自らが闇の一部になったように感じさせる。雨音がその闇を照らし、雨粒が闇の中の私を探し出す。雨はしだいに強さを増し、髪から雫がぽたぽたと落ちた。   湖畔の水面がぐらぐらと波打っていた。空を見上げると、闇は空に残るのみで、どんよりとしたそれは雨を吐き出し続けていた。   びしょびしょだ。濡れ鼠だな……自嘲気味に笑ったそのとき、 「アメジスト!!」   聞き慣れた声にゆっくりと振り向く。そこには大きな傘を差したホープが立っていた。ドレスの裾が濡れて泥で汚れている。 「キミか……」   次の言葉を紡ぐ前に、ホープの手が私の頬に触れる。 「こんなに濡れて……」   彼女の手はひどく冷たかった。 「……風邪を、ひいてしまいます」   頬を手が滑る。涙を拭うように頬の雨筋を拾ってくれた。私は……泣いていたのか? 「……帰りましょう」   彼女がにこりと笑う。自分が泣いていたことに少なからず動揺していたのか、反応が少し遅れた。 「あぁ……すまない」   ホープの傘にいれてもらう。彼女が体を寄せる。私は全身びしょ濡れなのだ、ドレスが濡れるだろうに。   その視線に気づいたのか、彼女はこちらに顔をむける。そしてまた、にこりと笑った。   敵わないな……私もつられて微笑む。   雨。嫌いではない。むしろ好きだ。   冷たい雨の中、感じる確かな暖かさが、私を包む。   暖かいココアを飲もう、彼女と一緒に。
  ぽつり。湖畔の水面に波紋が広がる。   雨か……。   ぽつぽつと波紋は数を増やしていく。日中の空模様からすると、特に雨の気配はなかったのだが……秋の天気はうつろいやすい。   本降りになるかもしれないな……人ごとのようにそう考える。別に本降りになろうとかまわない。雨は嫌いではない。むしろ好きだ。何の区別もなく、すべてを洗い流すさまが気に入っている。   淀んだ沼の底から這い出ていた私は、土と血で汚れきっている。それを洗い流してくれるような気がするのだ。   ぽつり。頬に雨粒があたる。手を出すと、それは手のひらに落ちて弾けた。わずかな刺激と冷たさが、私に存在の実感を与える。   夜の静けさは自らが闇の一部になったように感じさせる。雨音がその闇を照らし、雨粒が闇の中の私を探し出す。雨はしだいに強さを増し、髪から雫がぽたぽたと落ちた。   湖畔の水面がぐらぐらと波打っていた。空を見上げると、闇は空に残るのみで、どんよりとしたそれは雨を吐き出し続けていた。   びしょびしょだ。濡れ鼠だな……自嘲気味に笑ったそのとき、 「アメジスト!!」   聞き慣れた声にゆっくりと振り向く。そこには大きな傘を差したホープが立っていた。ドレスの裾が濡れて泥で汚れている。 「キミか……」   次の言葉を紡ぐ前に、ホープの手が私の頬に触れる。 「こんなに濡れて……」   彼女の手はひどく冷たかった。 「……風邪を、ひいてしまいます」   頬を手が滑る。涙を拭うように頬の雨筋を拾ってくれた。私は……泣いていたのか? 「……帰りましょう」   彼女がにこりと笑う。自分が泣いていたことに少なからず動揺していたのか、反応が少し遅れた。 「あぁ……すまない」   ホープの傘にいれてもらう。彼女が体を寄せる。私は全身びしょ濡れなのだ、ドレスが濡れるだろうに。   その視線に気づいたのか、彼女はこちらに顔をむける。そしてまた、にこりと笑った。   敵わないな……私もつられて微笑む。   雨。嫌いではない。むしろ好きだ。   冷たい雨の中、感じる確かな暖かさが、私を包む。   暖かいココアを飲もう、彼女と一緒に。 #ref(14166.gif)

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