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金剛石のご褒美は」(2007/04/18 (水) 08:07:13) の最新版変更点

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「そうです、その感じです。今の感じを忘れないでください」   金剛石のその一言でいったん区切りがつく。ボクは一気に空気を肺に流し込む。 「ぜっ! はっ、はっ……ふ……そう……かな……よくわからなかったけど……」 「いい感じでした。お世辞じゃなくマスターは飲み込みが早いですわ」 「はっ……は、はは……そう言ってもらえると嬉しいよ」   やっと息が整ってきた。   金剛石に護身術を教えてもらって3ヶ月になる。最初は体力作りが目的だったのだが、最近は組み手メインで相手をしてもらっている。やるにつれて、上達するにつれて楽しくなってきた 「それじゃあ、マスター。お昼からは手合わせしてみましょうか」 「……え? ……いまなんて?」 「マスターもだいぶ上達してきたみたいですし、一度真剣勝負してみませんか、と」 「無理無理無理無理!」 「そうですか? 結構いい勝負ができそうなんですけど」 「いやー無理だよ、金剛石にはかなわないって」 「そうですか……私から1本取れたら、何かご褒美を差し上げようと思っていたのですが……」 「やらせていただきます」   即答した。絶対に1本取る。死んでも取ってやる!   午後の日差しが窓から入ってきて、板張りの床がその光を反射している。その光の向こう側に金剛石が立っていた。 「それでは、お願いします」   にこやかに金剛石が笑い、頭を下げる。 「お願いします」   こっちにはそんな余裕なんて欠片もない。意地でも1本取るのだ。   お互い前に進み出て、構える。金剛石は軽く足を開き、左手のひらをこちらに差し出している。ボクもそれに習うように右手を前に出す。金剛石に教えてもらったのだから似るのはしかたがない。 「……来ないのなら、こちらから行きますよ」 「お、お願いします」   阿呆か、オレは……くすりと金剛石は笑う。 「それじゃあ――」   目の前で声がした。 「――遠慮なく」   一瞬にしてボクの懐に金剛石が潜り込んできた。   やばい!!   ボクはとっさに体をねじる。その瞬間、ボクが今までいた空間を金剛石の掌底が切り裂いた。 「いい反応です」   金剛石が笑ったかと思った次の瞬間、目の前にはすらりと伸びた足首が迫っていた。首を反らしてそれをかわす。間一髪、首の皮一枚で逃れたが、追撃は終わらない。回した足を利用し回転を加えて第二撃、三撃が迫る。ムリだ、こりゃ。かわすことを諦め頭部をがっちりガードする。意識を持っていかなければどうにかなるかも……。   ゴギん!!!!  そんな甘い考えを一蹴する一撃が入った。盛大にぶっ飛ばされ、床を転がる……痛ぇ。 「あら……強すぎましたか?」   この野郎……。 「そんな……ことは……ないさ」   肩で息をしながら答える。説得力なんてこれぽっちもないが、一本取るまで床に這いつくばるつもりはない。絶対に一本取る!   は、すーぅ……息を吸い込む。まっすぐに金剛石を見据え、そして一気に突っ込んだ。 「直情的で大変よろしいですわ」   ボクの拳を軽くいなし、そこを軸に半回転して裏拳を打ち込んでくる。よろしくないっつーの! ボクは前に行く勢いを利用し、その場で腰を落として回転した。金剛石のわき腹にむけてかかとを飛ばす。 「!!」   一瞬、金剛石の驚いた顔が見えた。   がっツン!!   裏拳の体勢だった金剛石の脇腹にボクの蹴りがカウンターでヒットした。金剛石の体が後方へ舞う。   やばい、思い切りやっちゃった。実際の話、当たると思ってはいなかった。一本取ると躍起になっていたが、勝てるわけないと思っていた。 「金剛石、大丈夫かい!?」   と、前に進みでようとして、ずきりと足が痛むことに気づく。 「っつ……」 「さすがです、マスター」   何ごともなかったかのように金剛石が立っている。こいつしっかりガードしてたな……。 「少々本気でいきます」 「本気で、って――」   そこまで言って息を呑む。プレッシャーが違う、マジかこれ……喉が鳴る。汗で視界が霞んだ。   金剛石の姿が揺らめく。とっさにしゃがむ。その頭上を金剛石の拳が貫く。 「いい反応です」   勘だっつーの! しゃがんだボクに向かって蹴りだされた足をクロスガードで受ける。後方へ飛ばされるが、これで間合いをとって仕切りなおす。しかしすごい力だ。大の男を蹴り一発でここまでふっ飛ばすかね。 「マスター、やっぱり筋がいいですわ」   追撃せず、金剛石は嬉しそうに笑う。 「そうかな……ありがとう」   ボクが言い終わるのが先だったか、金剛石がボクの懐に入るのが先だったか。目の前にいた金剛石の姿はなく、胸元で旋風が走る。 「油断、大・敵・ですわ」   ドズンっ!!!! ドがしゃーーーーーーん!!   ボクは盛大に吹っ飛び、壁に突っ込んだ……らしい。実際にはほとんど記憶がない。ただ金剛石が最後に 「ヒートエンドですわ」   と呟いたのだけ、うっすらと覚えている。 「申し訳ございません」 「いや、いいよいいよ」   ボクはベッドに寝ていた。体のあちこちがギシギシいう。金剛石は心配そうにこっちを見ている。 「私、つい調子にのってしまって……マスターが予想以上にできたので……手加減もなく……」 「いいっていいって……結局一本取れなかったし……」   ぼそりと呟く。 「あ、でも、途中の回し蹴りは危なかったですし……一本取られてもおかしくありませんでしたわ」 「……でも……一本じゃないし……」 「本当に上達されましたし、一本じゃなくてもご褒美は差し上げようと……」 「ホントに!!!」 「えぇ……今日はマスターの大好きなシチューですよ」 「……え?」 「え? シチューじゃない方がいいですか」 「いや……そうじゃなくてね……まぁそんなことだろうとはうすうす思ってましたよ、でも夢を追い続けた漢を笑わないでください……」 「?」   うなだれるボクを、金剛石は不思議そうに見ていた。   金剛石のシチューは美味しそうだったが、ボクは3日間、まともにご飯を食べることができなかった……流し込んだけどね。
「そうです、その感じです。今の感じを忘れないでください」   金剛石のその一言でいったん区切りがつく。ボクは一気に空気を肺に流し込む。 「ぜっ! はっ、はっ……ふ……そう……かな……よくわからなかったけど……」 「いい感じでした。お世辞じゃなくマスターは飲み込みが早いですわ」 「はっ……は、はは……そう言ってもらえると嬉しいよ」   やっと息が整ってきた。   金剛石に護身術を教えてもらって3ヶ月になる。最初は体力作りが目的だったのだが、最近は組み手メインで相手をしてもらっている。やるにつれて、上達するにつれて楽しくなってきた 「それじゃあ、マスター。お昼からは手合わせしてみましょうか」 「……え? ……いまなんて?」 「マスターもだいぶ上達してきたみたいですし、一度真剣勝負してみませんか、と」 「無理無理無理無理!」 「そうですか? 結構いい勝負ができそうなんですけど」 「いやー無理だよ、金剛石にはかなわないって」 「そうですか……私から1本取れたら、何かご褒美を差し上げようと思っていたのですが……」 「やらせていただきます」   即答した。絶対に1本取る。死んでも取ってやる!   午後の日差しが窓から入ってきて、板張りの床がその光を反射している。その光の向こう側に金剛石が立っていた。 「それでは、お願いします」   にこやかに金剛石が笑い、頭を下げる。 「お願いします」   こっちにはそんな余裕なんて欠片もない。意地でも1本取るのだ。   お互い前に進み出て、構える。金剛石は軽く足を開き、左手のひらをこちらに差し出している。ボクもそれに習うように右手を前に出す。金剛石に教えてもらったのだから似るのはしかたがない。 「……来ないのなら、こちらから行きますよ」 「お、お願いします」   阿呆か、オレは……くすりと金剛石は笑う。 「それじゃあ――」   目の前で声がした。 「――遠慮なく」   一瞬にしてボクの懐に金剛石が潜り込んできた。   やばい!!   ボクはとっさに体をねじる。その瞬間、ボクが今までいた空間を金剛石の掌底が切り裂いた。 「いい反応です」   金剛石が笑ったかと思った次の瞬間、目の前にはすらりと伸びた足首が迫っていた。首を反らしてそれをかわす。間一髪、首の皮一枚で逃れたが、追撃は終わらない。回した足を利用し回転を加えて第二撃、三撃が迫る。ムリだ、こりゃ。かわすことを諦め頭部をがっちりガードする。意識を持っていかなければどうにかなるかも……。   ゴギん!!!!    そんな甘い考えを一蹴する一撃が入った。盛大にぶっ飛ばされ、床を転がる……痛ぇ。 「あら……強すぎましたか?」   この野郎……。 「そんな……ことは……ないさ」   肩で息をしながら答える。説得力なんてこれぽっちもないが、一本取るまで床に這いつくばるつもりはない。絶対に一本取る!   は、すーぅ……息を吸い込む。まっすぐに金剛石を見据え、そして一気に突っ込んだ。 「直情的で大変よろしいですわ」   ボクの拳を軽くいなし、そこを軸に半回転して裏拳を打ち込んでくる。よろしくないっつーの! ボクは前に行く勢いを利用し、その場で腰を落として回転した。金剛石のわき腹にむけてかかとを飛ばす。 「!!」   一瞬、金剛石の驚いた顔が見えた。   がっツン!!   裏拳の体勢だった金剛石の脇腹にボクの蹴りがカウンターでヒットした。金剛石の体が後方へ舞う。   やばい、思い切りやっちゃった。実際の話、当たると思ってはいなかった。一本取ると躍起になっていたが、勝てるわけないと思っていた。 「金剛石、大丈夫かい!?」   と、前に進みでようとして、ずきりと足が痛むことに気づく。 「っつ……」 「さすがです、マスター」   何ごともなかったかのように金剛石が立っている。こいつしっかりガードしてたな……。 「少々本気でいきます」 「本気で、って――」   そこまで言って息を呑む。プレッシャーが違う、マジかこれ……喉が鳴る。汗で視界が霞んだ。   金剛石の姿が揺らめく。とっさにしゃがむ。その頭上を金剛石の拳が貫く。 「いい反応です」   勘だっつーの! しゃがんだボクに向かって蹴りだされた足をクロスガードで受ける。後方へ飛ばされるが、これで間合いをとって仕切りなおす。しかしすごい力だ。大の男を蹴り一発でここまでふっ飛ばすかね。 「マスター、やっぱり筋がいいですわ」   追撃せず、金剛石は嬉しそうに笑う。 「そうかな……ありがとう」   ボクが言い終わるのが先だったか、金剛石がボクの懐に入るのが先だったか。目の前にいた金剛石の姿はなく、胸元で旋風が走る。 「油断、大・敵・ですわ」   ドズンっ!!!! ドがしゃーーーーーーん!!   ボクは盛大に吹っ飛び、壁に突っ込んだ……らしい。実際にはほとんど記憶がない。ただ金剛石が最後に 「ヒートエンドですわ」   と呟いたのだけ、うっすらと覚えている。 「申し訳ございません」 「いや、いいよいいよ」   ボクはベッドに寝ていた。体のあちこちがギシギシいう。金剛石は心配そうにこっちを見ている。 「私、つい調子にのってしまって……マスターが予想以上にできたので……手加減もなく……」 「いいっていいって……結局一本取れなかったし……」   ぼそりと呟く。 「あ、でも、途中の回し蹴りは危なかったですし……一本取られてもおかしくありませんでしたわ」 「……でも……一本じゃないし……」 「本当に上達されましたし、一本じゃなくてもご褒美は差し上げようと……」 「ホントに!!!」 「えぇ……今日はマスターの大好きなシチューですよ」 「……え?」 「え? シチューじゃない方がいいですか」 「いや……そうじゃなくてね……まぁそんなことだろうとはうすうす思ってましたよ、でも夢を追い続けた漢を笑わないでください……」 「?」   うなだれるボクを、金剛石は不思議そうに見ていた。   金剛石のシチューは美味しそうだったが、ボクは3日間、まともにご飯を食べることができなかった……流し込んだけどね。

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